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原民喜の幻想世界

 原民喜が好きです。それも、初期の短編です。

 原民喜という作家を知っておられるでしょうか。高校の教科書に、自身の被曝体験を記した散文「夏の花」が載っており、一定の知名度があります。

 壮絶な被爆地の様子を、鋭い感性で描いた「夏の花」。確かに、名作であります。しかし、原民喜の本当の魅力はそこにあらずではないかと、私は思います。

 「夢の器」という、原民喜初期の短編があります。とある女性の思考と幻想が、第三者視点で描かれていくものですが、驚くべきことはその展開の予測不可能さです。次から次へと断片的に降ってくるイメージ、濁流のように流転する場面。ついには病院のベッドの上で花嫁衣装をまとい、結婚式の予行演習が始まってしまいます。

 シュールレアリスムやダダイズムの影響を色濃く受けていたようで、人間の無意識を探求するかのような、短い掌編小説が多く残っています。その筆回しはなんともおしゃれで、とても百年前に書かれた作品とは思えません。

 残念ながら、原民喜の初期作品を読める機会は大変少ないです。全集は、全巻合わせて二万円と高価です。手軽に読めるのは、上記の「夢の器」なのですが、全ての作品が載っているわけではありません。もし、原民喜の作品が気になった方は、青空文庫にて一部の作品を読むのをお勧めします。

 幻想世界へ、旅しましょう。

 

 


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