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【9】着物記者歴30年のライターも驚く「究極のきもの」とは?お蚕さん篇⑦


「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト!
《私たちのシルクロード》
第9回 お蚕さん篇⑦ 壮蚕飼育「4令」

お蚕さんから糸を作り、染めて織って着物に仕上げる――この全工程をレポートする「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクトです。
それは「私たちのシルクロード」。


前回「お蚕さん篇」⑥では、「稚蚕飼育3令」についてお話しました。これからは、ぐんぐんと大きく育ってゆく壮蚕期(4令~5令)に入ります。今回は「4令」の5日間をレポートします。

■4令1日目 9月12日 成長の度合いで「ゾーン」分け

【4令1日目】9月12日(土)雨
6:00 遅れ蚕石灰 → 網掛け → 給桑
10:00 網上げ(遅れ蚕上げ)
15:00 蚕体消毒 → 網掛け → 給桑
19:00 蚕台へ移動 → 給桑
    *この日より栗出荷開始

稚蚕室から別棟の蚕室へ引っ越ししたお蚕さん。ダイナミックに成長してゆく壮蚕期に突入しました。
前回最後にお話しした「網掛け」「遅れ蚕上げ」について、この日も朝から行いましたのでお話ししましょう。

4令-1 (1)

石灰を振るなど、お蚕さんの成長をできるだけ揃えるよう養蚕技術を駆使しても、やはり生き物。どうしても成長に差が出てきます。成長段階の各時期に適切な世話をできるよう、いわばクラス分けをするのが「網掛け」「遅れ蚕上げ」の作業です。

「眠」に入った蚕、起きている蚕がいるときに石灰を振り、網を掛け、その上に桑の葉を載せます。そうするとまだ「眠」に入らず、起きているお蚕さんは桑の葉を求めて網の上に上がってきます。それを「遅れ蚕」として別口に移すのです。これを何度か繰り返し、経過の違う蚕を3~4段階のゾーンに分けます。ここがうまくいくと、その後に行う「上蔟(じょうぞく)」(繭を作る所に移す作業)がスムーズになるそうです。

日誌抄録に「遅れ蚕拾い」はあまり記載されていませんが、時間のあるときにこまめに行う作業です。「網掛け」で経過の段階分けを行っても、いちばん頭数が多い標準ゾーンに小さい蚕がたくさん紛れています。ここに紛れているのがいちばん遅い蚕なので、それを拾って別口にするのです。

4令-1 (2)

さあ、「眠」から脱皮へ。

4令-1 (3)

上は午後1時頃。給桑は「もう少し待ってね」。
蚕台にはブルーネットを張り、薄茶色の蚕座紙、その上に防乾紙を重ねています。この蚕台は、大工さんの手作り。

4令-1 (5)

上は同じく午後1時頃。脱皮したお蚕さんと、抜け殻が見えます。
抜け殻は、食べ残りの桑葉や糞(ふん)、石灰などの残沙(ざんさ)とともに桑畑に撒いています。
花井さんが育てる家庭菜園の野菜が美味しいのは、このお蚕さんの残沙のおかげだと思うそうです。もし病気などが発生した場合は焼却します。
命あるものの始末は、別な生き物の命につながってゆくのですね。

4令-1 (12)

午後3時に脱皮後の蚕体消毒して、網掛け。そして給桑。起蚕(きさん)したお蚕さんの上に桑を枝ごと載せると、お蚕さんが上がってくるので、その枝を移動させて蚕台に移していきます。

4令-1 (14)

夜7時頃。たっぷり給桑。4令と5令は低湿で育てるので、蚕座紙と防乾紙は、もう使用しません。

4令-1 (16)

新鮮な桑の葉を、たっぷりどうぞ!


■4令2日目 9月13日 条桑育(じょうそういく)で、グングン育つ

【4令2日目】9月13日(日)晴
5:00 給桑
13:00 給桑
19:00 給桑
    遅れ蚕拾い

4令-2 (1)

朝6時。「おはよう、お蚕さん。よく食べたね」
思わず、そう声を掛けたくなる光景です。

4令-2 (2)

4令からは条桑育(じょうそういく)といって、枝ごと給桑します。
緑あふれるダイナミックな蚕台です。

4令-2 (3)

蚕室に入ると、いつも桑のさわやかな香りがするそうです。

4令-2 (4)

モリモリ食べて、どんどん大きくなるお蚕さんたち。

4令-2 (10)

上は、本日のサービスカット。

4令3日目 9月14日 今日も桑の葉を食べられる「幸せ」

【4令3日目】9月14日(月)晴
5:00 給桑
13:00 給桑
19:00 給桑

4令-3 (2)

朝7時、朝イチの給桑から2時間後。枝や葉脈が目立って見えるほど、葉をよく食べています(上と下の写真)。
本日のタイトルは「幸せ」と勝手に入れましたが、「桑の葉をがむしゃらに食べるお蚕さんは幸せそう」とかつて花井さんがブログに書かれた、この一文はこんな光景のことをいうのかな、と思いを寄せたことによります。

4令-3 (3)

下の写真は午後6時頃。着物ライターとして、ふと我に返る・・・・・・こんなに「幸せ」のお蚕さんから得られた絹糸で出来た着物って、どんだけ幸せの塊なの? いやいや、まだ過程にすぎない。さらに見つめていきましょう。

4令-3 (4)

下は、夜8時40分。この年(2020年)は「6、7月の長雨による日照不足と、その後の猛暑で桑の生育が良くなく、葉が硬めになった」と、花井さん語りますが、こうやって写真で見る限りは、美味しそうに見えます。

4令-3 (6)


■4令4日目 9月15日 お蚕さんの成長段階に差が出てくる

【4令4日目】9月15日(火)晴
●この時点で①早口、②標準、③遅口と、成長段階が3つに分かれている。
5:00 給桑(①眠9割)
13:00 ②責め桑
19:00 ②停止(網掛けなし)

4令-4 (2)

朝5時49分。

4令-4 (3)

朝一番のサービスカット。「眠」に入りかけてる?
頭を持ち上げ、むしろ起き上がって吠えているように見えますが、これがお蚕さんが脱皮前に静止する「眠」の姿です。

4令-4 (12)

上の写真は8時41分。変化の前の「溜め」のパワーとでもいいましょうか、「上昇気流」を感じるのは私だけ?
アップで見てみましょう。↓

4令-4 (13)

「眠」に入っているということは、分かる。でも、でも・・・・・・。
ねえ、なんでこんなに感動するの?
神聖なものを見ているかのよう。花井さんにも聞いてみましょう。
「神秘的で好きな光景です。この姿が揃っているほど安心します。」

4令-4 (14)


4令5日目 9月16日 脱皮の瞬間を見届ける

【4令5日目】9月16日(水)雨
5:00 ②眠(青虫拾い)
7:00 ②石灰
15:00 ①蚕体消毒 → 給桑

4令-5 (1)赤

上の写真は、朝7時23分。だいぶ「眠」が進んだ状態で、赤で括った鼻先がうっすらと黒くなるのが「眠」真っ最中の印であるとか。

上の写真で、真ん中から下にかけて、毛綿のようなものが見えます。お蚕さんは「眠」に入り、この姿になるとき、うっすらと桑葉に糸を吐き、脱皮に向けて体を固定させているのだそうです。

ところで、お蚕さんの背面上方に見える一対の模様を「半月紋」、そこから体節ふたつ下に見える一対の点を「星状紋」というそうです。この「半月紋」は馬の蹄(ひづめ)の痕(あと)だと伝承される地域もあったそうですが(『蚕 絹糸を吐く虫と日本人』畑中章宏[2015年晶文社])、私には天使の羽根に見えて仕方ありません。

4令-5 (2)

「眠」中、石灰の中でまだ動いているお蚕さんを拾い、別口にします。青虫拾い」とは、今回4令1日目の「遅れ蚕上げ」と同じ意味で、地方により言い方が異なりますが、石灰の中で青く見えるので、「青虫拾い」とよぶそうです。ここでは、ページ内の用語統一を目指さず、飼育者である花井さんの語感をそのままお伝えします。

4令-5 (4)


下の写真は、脱皮を始めたお蚕さん。

4令-5 (7)

下の写真も、脱皮中。星状紋の位置から下が、これから脱皮する部分。

4令-5 (9)


下の写真は、脱皮直後。やわらかいうちは、このままの姿勢を保ちます。
ハッピーバースディならぬ「ハッピー5令!」と声を掛けたい感じ。

4令-5 (5)

こちらも脱皮直後。頭部の脱皮した殻を、胸肢で持っているみたい。

4令-5 (6)

・・・・・・祈りを捧げたくなります。


★★お知らせ★★
「蚕から糸、糸から着物」プロジェクト!《私たちのシルクロード》の連載を4月1日から始めて、1ヶ月となりました。この間多くの方にご覧いただき、「スキ」のハートマークを押してくださったり、フォローしてくださったり、サポート及びコメントをしてくださったり、多方面から応援していただき、メンバー一同心から感謝いたしております。この場を借りて御礼申し上げます。「ありがとうございます」
皆さまからのお励ましと、お蚕さんの目覚ましい成長に後押しされ(?)、5月からは月・水・金と、週3回アップすることにいたしました! 

次回は5月3日(月)です。幼虫期最後の5令で、たくましく育ってきたお蚕さんを一緒に見届けましょう。引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。


*本プロジェクトで制作する作品の問い合わせは、以下の「染織吉田」サイト内「お問い合わせとご相談」からお願いします。


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