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【27】着物記者歴30年のライターも驚く「究極のきもの」とは? 染め織り篇⑥

「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト!
《私たちのシルクロード》
第27回 染め織り篇⑥機仕掛け

お蚕さんから糸を作り、染めて織って着物に仕上げる――この全工程をレポートする「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクトです。
それは「私たちのシルクロード」。


前回「染め織り篇」⑤では、吉田美保子さんがブラッシングカラーズで経糸(たていと)Bを染め、さらに縞の単位ごとに柄を「ずらす」作業から縞割(しまわり)の工程をご紹介しました。今回は、準備万端整った経糸を織機(しょっき)に取り付ける「機仕掛け」(はたじかけ)をレポートします。

■機仕掛けとは

2021年2月初旬から中旬にかけて、吉田美保子さんは影山工房で縞割した経糸を、機仕掛けしました。機仕掛けとは、染めや縞割などを済ませた経糸を機に仕組んで、織れるように準備することをいいます。以下のプロセスを順に追っていきましょう。

【仮筬通し】(かりおさとおし)
  ↓
【緒巻への巻き取り】(おまきへのまきとり)
  ↓
【綜絖通し】(そうこうとおし)
  ↓
【筬通し】(おさとおし)
  ↓
【織りつけ布に糸を結ぶ】

■仮筬通し(かりおさとおし)

影山工房へ行った翌日の2月5日、吉田さんは仮筬通しを行いました。仮筬通しとは、経糸を機にかけるため、経糸を織る幅に整える作業をいいます。「仮」と名が付いているのは、まさに幅を決めるため「仮に」通しただけで、次の緒巻に巻き取る作業が終わったら仮筬を抜いてしまうからです。

実際の工程では写真を撮らなかったので、イメージカットとして後日撮影してくれました。紐で括っておいた綾に綾棒を通し、製織時に用いる筬より2倍くらい荒い目の「仮筬」ひと羽(は)に4本ずつ順番に通していきます。

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「羽」(は)とは、筬の目を数える単位で、通常は1寸幅にある羽の数で粗密を表します。写真は1寸に29羽の筬です。仮筬通しや縞割をする専用の台に仮筬を置き、順番に経糸を通していき、10羽くらい通したらまとめて結んでおきます。セッティングしたら小一時間ほどで出来る作業だそうです。

仮筬通しには専用の道具「筬通し」を用い、先の割れ目に糸を掛けて細い羽に差し込んでゆきます。金属製と竹製があり、手に馴染むものを選びます。

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■経糸を緒巻に巻き取る

2月6日、吉田さんは仮筬通しで織り幅に整えた経糸を、織機の「緒巻」(おまき)に巻き取る作業を行いました。緒巻とは、織機の一部で、織る前の経糸を巻いておく棒のこと。「ちきり」とも呼ばれます。

下の写真、向こう側の織機では、経糸が通っている仮筬を筬框(おさがまち)セットし、仮筬に通した糸端を緒巻に取り付けてある「ちきり布」にピンと結びつけた後、経糸を巻き始めたところです。
機から少しこちら側には、綾を保っている綾棒が見えます。
巻き取りの作業はテンション(張力)を均一にするのが何よりも大事
経糸がずれないよう束ねているところを頂点に、機に向かって長い二等辺三角形を作り、固くしっかりと巻き取っていくのがポイントです。

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上の写真、手前は束ねた経糸を小型ドラム整経機に巻き付けてあります。こちらの糸端は最初に織り出す側です。

下の写真は、織機側から撮ったものです。長い二等辺三角形のなかで、ブラッシングカラーズで横段に染めたブルーが上下にずれているのが分かりますね。これが影山工房で行った「ずらし」です。

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下の写真は、綾棒に経糸が引っかかったのを直しているところ。真綿紬糸がくっついたようです。「プロジェクト糸のほうは、本当にトラブルがない糸でした」と吉田さん。向こう側の木枠(筬框)の下に透けて見えるのが仮筬です。

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巻き取り時に一番大切なのは、経糸がゆがんだり、ゆるんだりしないよう一定のテンションを保ちながら、まっすぐ均等に巻いていくこと。そのため力を込めないと糸が出てこないようベルトをバネで調整し、慎重に巻いていきます。やり直しがきかないので緊張する作業です。

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下は、慎重に進められる巻き取りの作業を撮影した、40秒の動画です。歯車がカツンカツンと噛み合う音だけが静かに響き、一斉に経糸が動くさまは壮観で、胸に迫る迫力さえ感じられます。

下の写真のように、機草(はたくさ)を挟みながら緒巻に巻いていきます。機草とは、経糸を安定してきっちり巻き、経糸が他の経糸にもぐってテンションが合わなくなるのを防ぐ役割をする厚紙です。カレンダーや新聞紙で代用される場合もありますが、吉田さんは機草として作られている専用の紙を使用。張りがあって扱いやすく出来ています。

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巻き終わったら仮筬を抜きます。その際、綾棒があって抜けないので、綾の移動を行う「綾返し」をして綾を保ちます。忍びの術みたいなカッコイイ名前ですが、機織りに関わる知恵の多さに歴史の重みを思います。

■綜絖通し

綜絖(そうこう)は、緯糸を通すため経糸を上下に動かす装置のこと。糸を通す目がついた綜絖を綜絖枠に必要数吊して、1枚と数えます。一般的な平織(ひらおり)であれば、経糸と緯糸を1本ずつ交差させるのに経糸は1本ごとに上下すればよいため、2枚の綜絖を使いますが、今回は、平織と、平織の派生組織である畝織(うねおり)を交互(市松状)に配するので、4枚の綜絖を使います。
間違いなく行えるよう、組織図を作って確認する吉田さんです。

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やっぱ数学的思考は生きていく上で大切なんだな、と。

綜絖1本につき経糸1本ずつ順番に通していきます。綜絖はワイヤースチールヘルド(針金綜絖)。4枚の綜絖に経糸1284本を通すので、1枚あたり最低321本は吊り下げられているということですね。4の倍数で経糸の本数を設計していたのはこのためだったか。縞の単位はA16本B12本なので、これを一組としてチェックし、仮結びしてから次の組に進みます。

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綜絖の向こう側に見えるのが綾を保っている2本の綾棒。綾をしっかり確認して通すので、見やすい位置に座って作業します。

上の写真中央部を拡大したのが下です。綜絖の目に糸が通っています。

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下の写真は「綜絖通し」。わずかに丸まっている先で糸をひっかけて綜絖の目に通します。

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右手に「綜絖通し」を握り込んでいるらしいのが、下の写真でようやく確認できるレベルの、繊細な道具です。極細の糸を間違いなく取り扱います。

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下は、綜絖通しを行っている30秒ほどの動画。左手で綜絖をまとめて持ち、順に糸を通してゆく機能的な手の動き! 今風に言えば「動画しか勝たん」

綜絖通しは、1日程度かかる仕事です。

■筬通し

「筬」(おさ)は枠に細かい櫛目(羽:は)を通したもので、経糸の密度を決め、緯糸を通す杼(ひ)のガイドとなり、緯糸を打ち込む働きをします。1寸に何羽あるかによって粗密を示しますが、今回は緻密な59羽の筬を選びました。ちなみに第22回に登場した、吉田さんが安達に作ってくれた着物「Good morning,Koh!」は56羽くらいだって。

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上写真、上が仮筬通しで使った29羽の筬。下が今回の製織で使った59羽の筬。竹製の筬もありますが、スチール製は丈夫で機能性に優れます。

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さあ、筬通しです。綜絖通しで仮結びした経糸を解き、「筬通し」を使って順番に2本ずつ引き込み、1羽に差し込みます。

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と、いうことは1寸(約3.8㎝)に118本もの経糸が通るということですね。コツコツと続ける動きはどこか鼓動に通じるリズムがあり、半日ほどで筬通しの作業ができるそうです。

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下は、黙々と筬通しを行う25秒の動画です。

■経糸を織り付け布につなげる

筬に通した経糸は固結びして結びこぶを作り、織機の「千巻(ちまき)」に巻いてある「織り付け布」につなぎます。「織り付け布」には金属の「むかで」が付いており、この「むかで」で糸の結びこぶを噛ませて留めるのです。「むかで」とは言い得て妙。

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これで経糸が緒巻から千巻までつながりました。機におけるシルクロード開通! 経糸が張れたので綜絖と踏み木(ペダル)を紐で結んで連動させると機仕掛けの完成で、緯糸を入れて織れるようになります。しかし、このときのテンションはまだ完全に揃っていません。

ちょっと織ってみて「むかで」を付け替えます。そうするとあら不思議、テンションが合ってきて、それを数回繰り返すと完璧になるそうです。

ひと幅1284本もの経糸1本1本の順番を、確認しながら作業を繰り返してゆく機仕掛け。地道で単純に見えますが、間違いが許されない大事な仕事です。「千里の道も一歩から」というけれど、こうした積み重ねを手仕事というんだなと、無言のうちに教えてもらった気がする「機仕掛け」です。

毎週月、水、金曜にアップしている本連載。次回は6月14日(月)、緯糸を染め、小管(こくだ)に巻いてゆく工程をお伝えします。ご一緒に着物を創作してゆく過程を見届けましょう!


*本プロジェクトで制作する着物を、お一方にお頒けいたします。ご希望の方、あるいは検討をされている方は、下記の「染織吉田」サイト内「お問い合わせとご相談」からお願いします。


*本プロジェクトの着物を出品する「白からはじめる染しごと展」は6月25日からの開催を予定していましたが、新型コロナウィルス感染予防の観点から11月に延期になりました。その代わり、開催予定であった6月26日(土)21時から、本プロジェクトの着物に、コーディネート提案を行うインスタのライブ配信を行います。以下をご参照ください。

https://www.instagram.com/shirokara_kai/


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蚕から糸へ、糸から着物へ
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