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【32】着物記者歴30年のライターも驚く「究極のきもの」とは? 染め織り篇⑪

「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト!
《私たちのシルクロード》
第32回 染め織り篇 最終回⑪鑑賞&タイトル発表会

お蚕さんから糸を作り、染めて織って着物に仕上げる――この全工程をレポートする「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクトです。
それは「私たちのシルクロード」。


前回「染め織り篇」⑩では、今回のプロジェクト着物を織り上げた吉田美保子さんが、機じまいをし、残った糸を活用すべく整えているところをレポートしました。とうとう「染め織り篇」最終回となった今回は、作品をゆっくり鑑賞し、この着物のタイトルを発表します!

■ふたたび「染織吉田」へ

2021年5月12日、京都へ仕上げに出していた作品が、吉田美保子さんの工房に戻って来ました。広げてみると・・・・・・

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「ドレープがきれいに出て良かった」まず思ったそうです。「着るものとしての強さと絹糸の輝き」を併せ持つ着物です。

かねてよりお願いしていた写真を撮っていただきました。
作品とのツーショット(って、言わないか)です。

よしださん1

良い仕事をした後の、いい笑顔です。(あれ、第16回からのコピペ?)

■鑑賞会スタート!

さあ、皆様ご一緒に鑑賞しましょう。巻かれていた反物を広げてみますね。

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ここは一番の見せ場、裾(すそ)のあたりでしょうか。水が湧き上がるようです。と、同時に胸も高鳴ります。これが「ずらし」効果ですよ。「縞割」にしたことで、グラッシングカラーズの面白みも引き立っています。

今度は、横から見てみましょう。あら、今度は水が流れ出しましたよ。

吉田さん7 (2)


ちょっとだけ離れてみましょうか。「河のせせらぎ」になった!
畝織と平織の組み合わせで、市松状に浮かんで見える織り組織がこんなに効果的だったとは。

さくひん8 (2)


次は、もっと近づいて見ましょう。白っぽい無地に見える縞は16本、ブルーのブラッシングカラーズの縞は12本の経糸で構成していますが、こうして見ると、どちらが太いとかあまり感じず、白からブルーへの色のたゆたいが、なんとも心地よく映ります。

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おおっ、この角度だと、経糸Aの白い縞が微妙にグラデーションなのが分かりますね。真ん中が光るように白いの。ここから発光しているみたい。

さくひん3

もう少し近づきましょう。なんて優しいブルーでしょう。ああ吉田さん「優しい色で攻める」って創作ノートに書いてたけど、うん、攻められて心を持って行かれてる・・・・・・。だって、糸が輝いて喜んでいるではありませんか。

さくひん1


■プロジェクトメンバーの感想

私、育蚕しているとき『このお蚕さん達は私がこの世からいなくなっても、誰かの元で長く生き続けてくれるんだもんね』と思う(願う)ことがあります。」と語っていた花井さん。1㎜ほどの黒い粒だった蚕種からお蚕さんを育てた花井さんは、どのような思いを抱いたのでしょうか。

1令 -1 (3)

花井雅美(養蚕) あまりの清らかな美しさに、しばらく言葉が出ませんでした。
着尺の完成までの、緻密に計算された驚くほど細やかなたくさんの工程、糸との対話の中で湧き出たイメージを形にしていくということの壮大なエネルギー、その全てが、私の想像を遥かに超えるものでした。
吉田さんと糸との対話により作り出された着尺は、まるで天から降り注いだ雨が、大地というエネルギーの中で丁寧に濾過され生み出された一滴(ひとしずく)のように、澄んだ清らかさを感じました。
その一滴が水面に落ちた波紋から幾重に広がる輪のように、 このお着物により、着物を身を纏う人、お蚕さんを育てる人、糸をひく人、たくさんの人に喜びや幸せが生まれるのだと思いました。

着尺の完成という嬉しい知らせが届いた春の育蚕期、改めて農家としてお蚕さんを育む喜び、大切に育てるということの意味を強く嚙み締めました。

5令-6 (12)


花井さんから冷凍便で生繭を受け取り「花井さんの繭の個性を引き出す」ために、糸を座繰りし、合糸や撚糸、精練の各工程を手間暇惜しまず丁寧に糸づくりした中島さん。綛糸(かせいと)に掛けた「ひびろ糸」ひとつに「手仕事の良心」を共感しあった吉田さんの作品を、どう見たのでしょうか。

20201104中島座繰り姿3

中島 愛(糸づくり) キラキラした川のせせらぎが思い浮かぶ美しい着尺を見て驚きました。モニター越しでも「命が宿っている」と思わずにはいられない生命感を着尺から感じ、蛹(さなぎ)が繭から出て、羽ばたいたような印象を受けました。
この着物は、お蚕さんが形を変えて、新たに生きていく姿なんだなぁと実感し、良かったなぁと心の底から思いました。
このnoteで花井さんの育蚕の様子を初めて見せていただいて、どれほど大切にお蚕さんを育てているのかわかりました。その事を知った上で、この着尺を見ると、命が繋がる有り難さを感じずにはいられません。

20201109座繰り写真3

見るだけだったけれど、ついでに私も言わせて。

安達絵里子(記録)糸との対話を経て、どのような着物が生み出されるのか、あの創作ノートに綴られた言葉たちから、どんなデザインが紡ぎ出されるのか、取材させていただく過程で「創作とは飛躍である」という言葉に至りました。それを実現する手段は、小さな小さな手仕事の集積で、その膨大なまでの積み重ねが美を作り上げるのだと、吉田さんの仕事から教わりました。あらんかぎりの誠意を尽くしてつないできたシルクロードで、生を受けたお蚕さんたちは大いなる変貌を遂げて織物となり、ここに安住の地を得たのだなと思いました。山鹿の清流をイメージした意匠の着物に、お蚕さんだけでない、関わった人たちのパワーも加わって、なんとも祝福のオーラに満ちた着物になったと思います。「アリガトネ」←誰の声?

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写真は山鹿の風景。お蚕ファームの近くを流れる、菊池川の支流・岩野川。

■いよいよタイトル発表!

作品を前に、吉田さんはタイトルを考えていました。「アート畑で育った」吉田さんは「和語」にこだわらず、英語やカタカナを作品名に使われます。

そして上掲したメンバーの感想文を見て、ひらめきました。

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「Blue Blessing」(ブルーブレッシング:青の祝福)

ブルーは、お蚕さんのふるさと熊本の清流をイメージしたことから、着物のテーマカラーになりました。しかし、そのブルーは水だけを意味するものではありません。天から降り注いだ雨が、大地というエネルギーの中で濾過され、その澄んだ清らかな一滴が波紋のように幾重にも広がり、 喜びや幸せが生まれる・・・・・・それはお蚕さんが形を変えて新たに生きていく姿に重なり、花井さん、中島さん、吉田さんとあらんかぎりの誠意を尽くした手仕事により、1枚の着物にたくさんの思いやパワーが込められている・・・・・・それは空気のような存在で、その着物に身を包まれる人を祝福するーーそんなイメージのネーミングです。

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「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト!《私たちのシルクロード》記念すべき第1作の名称は「Blue Blessing」に決定しました。よろしくね。


■最後は、アンカーが締めます
お待たせしました! アンカーの吉田さんが寄せたコメントです。

吉田美保子(染め織り)蚕が食べた桑までわかる。そこの土壌にまいた堆肥もわかる。蚕種がどこからやって来たかも知ってる。卵を孵(かえ)すところから全集中で面倒をみて、桑の葉を与え続けた人を知っている。そのお蚕さんの口から絹糸が吐き出され、丸い小さな世界を作る。
冷凍されて運ばれた繭は、まるで研究者のように実験をしつくし、糸にとって最適なことだけをする人の元へ届けられた。湯につかり適度にゆるむと、プールでダンスを踊るように、くるくる回りながら解(ほど)けていく。ゆっくり座繰りを回す人の手によって。
長く染織を続けて来ても、自分が使っている糸が、誰がどう育て、誰がどう作ったかなんて、知れるものではありません。今回、まったくの未知の体験をいたしました。それにこのnoteの記録の詳細なことと言ったら!これぞ前代未聞です。驚いたなー。
おかげで、養蚕や糸作りについて深く知っただけでなく、蚕から糸をいただき着る物にして生きてきた、人の営みについても省みる機会をいただきました。
全ては、望んで出来ることではなく、何かに導かれているようでした。
絵を描くことは、もう半世紀やってます。
着物を織るという術は、四半世紀前に習いました。
自分の世界観を織りたいと取り組んできたブラッシングカラーズも、それをずらし、縞割するという技術も、ありがたい出会いから発展させることができました。まさに、機が熟したとしか言いようがありません。
そんな不思議な体験でした。森羅万象に感謝します。本当にどうもありがとうございました。

よしださん2

4月1日から連載を続けて来た本連載。次回は定期連載としては最終の「ひとまずご挨拶&これから篇」をお届けいたします。せっかく出来上がった「Blue Blessing」をもう少し楽しみ(2次会みたいな感じ! いや違う)、「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクトの総括と今後の展望を語ります。これが夢のある話なのですよ。6月25日(金)にお会いしましょう!

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*本プロジェクトで制作したこの着物「Blue Blessing」を、お一方にお頒けいたします。ご希望の方、あるいは検討をされている方は、下の「染織吉田」サイト内「お問い合わせとご相談」からお願いします。

*本プロジェクトで制作した着物「Blue Blessing」を出品する「白からはじめる染しごと展」は6月の開催を予定していましたが、新型コロナウィルス感染予防の観点から11月に延期になりました。その代わり「白からはじめる染しごと展」主催で、開催予定であった6月26日(土)21時から、本プロジェクトの着物に、コーディネート提案を行うインスタのライブ配信を行います。以下をご参照ください。
https://www.instagram.com/shirokara_kai/


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