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【7】着物記者歴30年のライターも驚く「究極のきもの」とは? お蚕さん篇⑤

「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト!
《私たちのシルクロード》
第7回 お蚕さん篇⑤ 稚蚕飼育「2令」

お蚕さんから糸を作り、染めて織って着物に仕上げる――この全工程をレポートする「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクトです。
それは「私たちのシルクロード」。

前回「お蚕さん篇」④では、赤ちゃんのお蚕さんを育てる「稚蚕飼育1令目」についてお話しました。今回は、稚蚕飼育の後半、2令から3令へと成長するようすをレポートします。

・・・・・・と最初は書いたのですが、長くなったので今回は2令だけにします。コンパクトにまとめるのも大事だけど、花井さん、いい写真をいっぱい撮ってくださったのよ。これを後世に残すのも私の仕事だ。なんちゃって。

■2令1日目 9月5日 脱皮して少し大きくなりました

【2令1日目】9月5日(土)曇 温度26度 湿度80%
6:00 8割起蚕
10:00 蚕体消毒 → 縮座 → 網掛け → 給桑
14:00 給桑
16:00 除沙
22:00 給桑  加湿すべて戻す

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脱皮が終わり9割が起蚕(きさん)したら、蚕体消毒を行います。脱皮したばかりのお蚕さんは皮膚が軟らかいので、菌やウィルスから守るためです。

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上の写真は「縮座」をしているところ。適正な尺坪(密度)になるように、座を縮めるのです。座が広すぎると、桑が無駄になったり、食べ残しが多くなって座が蒸れ、遺失蚕(いしつさん)が多くなったりします。


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「網掛け」をして、給桑(きゅうそう)します。「網掛け」の目的はいくつかあり、「床替え」や「除沙(じょさ)」(お蚕さんをいったん全部あげて座の掃除をすること)と、経過の違う(早い・遅い)お蚕さんを分けるときに使いますが、ここでは「除沙」のために「網掛け」をしました。

網を掛けて、その上に桑葉を載せると、そこにお蚕さんが上がってきて、網の上に新しい桑葉とお蚕さんだけがあって残沙(ざんさ)が下に残ります。

残沙には、まだ眠中で成長が遅れているものや、上りきれなかったお蚕さんもいるので、すぐに廃棄せず、一定期間残しておいて、その後お蚕さんを拾います。「落ちこぼれをそのままにしません」あ、これは塾の宣伝文句か。

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2令1日目のお蚕さん。皮膚色はグレーです。

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上の写真は、22時半頃のようす。脱皮後、体が少し大きくなって、存在感が出てきたような・・・・・・。

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上は、お蚕さん好きな方のためにサービスカット。葉脈を残してみんな食べてくれてるお蚕さん、可愛いね!

■2令2日目 9月6日 桑を元気に食べて育つ

【2令2日目】9月6日(日)雨 温度26度 湿度80%(台風10号)
6:00 給桑
12:00 給桑
18:00 給桑
23:00 給桑(眠数頭)

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上と下の写真は朝7時半頃。朝6時に与えられた桑の葉をしっかり食べ、桑葉よりお蚕さんの存在が目立つ感じ。給桑量は、与えすぎず、少なすぎず

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この日の桑畑。今回の育蚕でぜんぶ食べます。

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下の写真は剉桑機(ざそうき)といって、桑の葉を刻む機械。「天龍式」と書いてあるけれど、ほかにもいろんなタイプがあるのでしょう。それだけ桑葉を大量に食べるということ。養蚕が盛んだった時代の置き土産といったところでしょうか。今も現役で働いていることがすごいです!

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下の写真は、剉桑機から刻まれた桑の葉が出てくるのを見える角度から撮影したもの。鉄の歯車がモーターで勢いよく回って、「ガッチャン、ガッチャン」と大きな音を立てて桑葉を裁断してゆきます。この目が覚めるようなけたたましい音が、花井さんの背中をも押してくれます。

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刻んだ桑の葉を、さっそくお蚕さん達へ。

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新鮮な桑の葉、いっぱい食べてね!😊 


■2令3日目 9月7日 ぐんぐん育って、手狭に

【2令3日目】9月7日(月)雨 温度26度 湿度80%
6:00 給桑
12:00 分泊 → 拡座 → 給桑
18:00 7割停止(責め桑なし)
22:00 石灰   *この日から栗山の台風被害片付け

下の写真は、朝8時頃。スクロール、あるいはタップして昨日の写真を比べてみてください。迫力すら感じられる生育ぶり。孵化して1週間。2ミリほどの体長から12~13ミリほどの大きさになりました。

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アップでもご覧ください。白みが増してきました。

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掃き立て以来、ひとつのバラ(トレイ)に5000頭ものお蚕さんが生育していましたが、体が大きくなり、密になってきたので「分泊」を行います
「分泊」とは、お蚕さんの成長に合わせ、バラの蚕を半分に分け、1枚から2枚のバラに分けて座を広げること。

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上の写真は、まず半分に分けたところ。下の写真は、半分を別のバラに移動させたところ。

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分泊後、たっぷり給桑します。

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このあと、お蚕さんたちの動きが止まってきました。「眠」に入るお蚕さんが出てきたのです。下の写真、3兄弟のように揃っていて可愛い。ボキャブラリーの貧困さが思われますが、でも「可愛い」としか表現できません。

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今回は「責め桑」は行わず、石灰を振りました。眠期の石灰は、乾燥を促すためと、先に起きたお蚕さんが桑を食べないようにするためです。

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■昭和17年生まれの「バラ」

稚蚕飼育で用いているトレイのようなものは「バラ」とよばれています。給桑や整座、拡座など作業するときは台に載せますが、通常は下の写真のように棚状に安置しています。

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お蚕さん、特に稚蚕期のお蚕さんは、ほんの少しの温度の差で成長の差が著しいので、毎日バラの位置を上下前後と差し替えています。

枠は木製、底部分は通気性のために竹で編まれています。下の写真、右側手前に見える枠に「昭和十七年」を墨書きしてあるのが見えます。現在80代の方から譲られたものだそうです。養蚕農家だったという、その方の両親が作られたとか。「当時は道具などは自分たちで作っていたもののほうが多かったのでは」と花井さんは語ります。「百の仕事ができるから百姓と言われていた時代です。」

②バラ2たいぷ

バラの大きさは約60㎝×90㎝。2尺×3尺の寸法で作ったのでしょう。これは丸型もあれば四角もあり、大きさもそれぞれで、花井さんが以前に使っていたバラはもっと小さかったそうです。

このバラを、花井さんは稚蚕飼育の3令期まで使って、以降は蚕室の蚕台(さんだい)を用います。しかし、これも他の作業と同じように、農家によって、時代によって、そのタイミングは違うそうです。

道具はものを言わないけれど、作成した人の思いが感じられて、懐かしいような、背筋が伸びるような、言いようのない気持ちになります。


■「経験に基づく勘」を求めて

「バラ」のような昔からの蚕具が花井さんの養蚕を支えているように、養蚕の技術は、長年にわたる先人の知恵が今に受け継がれているもの。

花井さんは、こう語ります。「養蚕の仕事は、農家や規模によって、その家独自の知恵や工夫がたくさん詰まっており、育蚕の方法も異なってきます。昔からの農家さんは、長年の経験に基づく勘や感覚的なものが蓄積されており、その時のお蚕さんの様子を見て、天候を肌で感じて、瞬時に体が反応しているように感じます。育蚕を重ねるごとに、年間を通しての飼育回数や頭数も桁違いに多かった先輩農家さん達のすごさを実感しています。」

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養蚕農家になって10年の花井さんも、「経験に基づく勘」というものが少しずつ分かってきた気がしますが、先輩農家さん達にはまだまだ及ばないと思うそうです。そのため、毎回、育蚕の記録を書いて、次の育蚕時に悩んだときのヒントとなるよう、しっかりと詳細を残しているそうです。

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その育蚕の記録を簡単にまとめたものが上の写真。本連載で「日誌抄録」として記載しているのは、この用紙に書かれているものです。7枚ある記録紙のうち、今回までで2枚分ご紹介しています。続きもどうぞお楽しみに!

毎週月曜と木曜にアップしている本連載。次回は4月26日(月)です。稚蚕飼育の最終章、3令期を一緒に見届けましょう。


*本プロジェクトで制作する作品の問い合わせは、以下の「染織吉田」サイト内「お問い合わせとご相談」からお願いします。



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