【第二話】ヤクザに騙されて原宿に服屋を出店し、24歳で2000万円の借金を背負い、2年で完済しなければならなくなった時の話。
当時、良く使っていた安物のリュックに札束を裸で突っ込み、500万円という大金を持ち歩いていることが怖くてリュックを抱きしめながら電車に揺られていた。
心臓がバクバクし、電車の中で目が合う人の全員が僕のリュックを狙っている様に思えてくる。
不安と期待、なんとも言えない両極のコントラストがより僕の神経をすり減らした。
僕「ただいま…」
アキ(仮名)「お帰り!どうだった?」
当時、付き合っていた彼女のアキが玄関で出迎えてくれた。
アキはこの頃、都内の有名な古着屋でアルバイトをしていて、いつか自分の店を持つ事が夢だった。
僕達は学生時代から3年の付き合いでロンドンと東京の遠距離恋愛を約1年間乗り越えた後、僕が帰国してからはずっと安アパートで同棲生活をしている。
僕はアキが大好きだったし、人を「愛する」とういう言葉の本質的な意味を教えてくれた最初の人だった。
うん…と、靴を脱ぎながらに答え、家に入り恐る恐るリュックの中から500万円の札束を見せた。
アキ「えええ!?何これ!?す、すっごーい!!!」
目をキラキラさせながら札束の匂いを嗅いだり、掌に乗せて重さを測ったり、ペラペラ漫画の様に何度もめくったりしている。
事の成り行きを全て説明すると、アキはあっけらかんとした表情で言った。
アキ「ふ〜ん、でもまぁ、原田さんって良い人なんでしょ?大丈夫でしょ!」
僕の不安とは裏腹に僕よりも3歳も年下のアキはこの事のヤバさをあまり理解していない様子だった。
僕「でもさ、そのスポンサーらしき人は絶対にヤクザだと思うんだよね。そんな人と原田さんが付き合ってるのもびっくりしたし、大丈夫なのかなって…」
アキ「うーん、でもこれでお店もブランドもやらせて貰えるんでしょ?裏原の◯◯◯(某有名ブランド)も最初はヤクザからお金借りて始めたっていうし、まぁチャンスだと思えばいいんじゃない?」
そう、どこのブランドとは言えないが原宿の土地の価値を上げる為に裏原ブームを巻き起こし、伝説のショップを作った2人のブランドは今や世界的にも大人気だ。(厳密に言うと出資元はヤクザではなく九州の金融屋で原宿の地主との噂も)
そのお店も最初はヤクザマネーから始まったことはファッション業界では有名な話。
最終的に数億円という金額を某世界的デザイナーに肩代わりしてもらい、晴れて自由の身になったという恐ろしい話も付いてくるが。
この頃は暴対法が成立する前でヤクザのフロント企業というのはアパレル業界でも少なからずあったんだと思う。
その昔、東コレで爆発的に大人気になった某ブランドも絶頂の最中での突然の活動休止、デザイナーが行方不明で業界では激震が走ったが、実はヤクザと縁を切りたくてハワイに逃げていたらしい。
そのブランドは今は別の会社が運営し、デザイナーは数年間、雲隠れした後に自身の名前でブランドを再開している。
僕「うん、そうだな。頑張って成功すれば何も問題ないよな!」
アキ「うん、和志なら出来るよ!大丈夫、大丈夫!それよりお祝いしようよ」
そう言いながら冷蔵庫から缶ビールを取り出し、僕たちは祝杯をあげた。
不安な気持ちをアルコールで流し込みたかったが、その夜は全く酔えなかったのを覚えている。
ケラケラと札束で遊びながら酔っ払うアキの横顔が眩しかった。
そんなアキも数ヶ月後、この大事件に自身が巻き込まれる事になるとはこの時は夢にも思っていなかったんだと思う。
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