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真夜中の災難

寝ようにも寝付けない。

いや、寝ることを諦めて寝ないだけかも。

いやいややっぱり寝たい。

そうやって、また枕元のケータイを手に取り、
煌々と灯りが僕の顔を照らす。


暫くして焦燥感に煽られケータイを枕元に戻し、また目を瞑る。

眠れない。

ラジオでも聴きながら寝ようと決め、
また灯りを灯す。


画面を下にして、
ラジオパーソナリティの声に包まれながら目を閉じる。


最近観たばかりの映画の評論が始まった。


湯を沸かすほどの熱量でありながらも、
優しく安堵する声色で滑らかに語る。


そんなことだからなんのために目を閉じたのか分からなくなるほど没頭してしまう。


気がつけば終わりのジングルが鳴り始める。

罪悪感と充足感が同時にやってくる。



このまま眠ってやろう。




「・・・今何時なんだろう」




余計な関心が生まれる。


怖くて見れない。


何時であっても寝る以外の選択肢がないことは明白だ。

気になってる場合ではないと自分を咎める時間こそ不毛じゃないか、と考えているうちにますます眠りから遠ざかる。


こうなってしまったら見るしかない。


再び灯を灯す。


見るんじゃなかったと後悔する時刻。


あと何時間寝れるんだっけか。


いっそ寝ないでおいた方がいいんじゃないか。
と余計な発想が頭をよぎる。



議論の結果、やはり寝ることになった。



明日は洗濯しよう。


余計な決意も生まれる。


頭が冴えてきた。


今なら向田邦子賞を取ってしまうようなシナリオが浮かぶ程に。


メモしないと。

また灯りを灯す。

あれ、

落語の枕ってなんで枕って言うんだろ。

余計な関心が生まれる。

頭の中で「芝浜」が始まりそうになる。


なんとか検索をかけるのは堪えたが、
頭の下の枕の方はすっかり熱を帯びていて、
僕は冷たい所を探すように枕の下に手を差し込んで、寝返りを繰り返して少しでも安眠できるポジションを模索した。


気が付けば、
カーテンの隙間からうっすらと明るくなった空が顔を出し、外から生き物たちの気配を感じ始める。



最悪だ。



僕がウダウダとしてる最中、
皆はすやすやと気持ちよく眠って、
こんなに鬱陶しい夜明けなのに、
間もなく太陽の光を心地良く全身に浴び、
素晴らしい1日を迎えようとしているんだ。


僕は世の中から置き去りにされたようだ。



いや。



眠りにつけず焦りと罪悪感の中、
永遠と不毛な言葉を綴ったこの文章を今読んでしまっているあなたもまた同様だ。



そう思っただけで救われた気がした。




いや。



こんな真夜中の終わりにこれを読んでいる人はいるのか?



もしそんな人すらいないんだとしたら、
僕は本当に置き去りにされたことになる。



それは本当に嫌だ。




そうか。




眠りにつけない不幸は本当の恐怖じゃなく、
誰もいない時間の中にいて、
ネット上ですら既読がつかないこの状況こそ恐怖だったのか。


きっとどんな場所にいても平気だし、
違うことをしていても平気なんだろうが、
人と違う時間、
世の中と繋がっていない瞬間にいることだけは耐えられないんだろう。 

物理的時間がズレただけでそう思うのだから、
心理的時間がズレてしまったらどうなるのか。

きっとそれが
最後の最後に人と繋がっている
と認識させてくれるモノに違いない。



僕が物理的時間のズレに恐怖を感じているのだとしたら、

今繋がりたいのに今投稿したとしても繋がることのない投稿を今しても意味がない。


このまま眠りにつかず、
誰かしらの目に触れるであろう時間まで待って、
中身の無いこの不毛な投稿を晒そう。



きっと読んだところで共鳴も感動もないだろう。

それは問題ではない。



僕の今と世の中が繋がっていれば、
それで良い。



兎に角、僕はそれまで待つことに決めた。


後はこの投稿ボタンを押すだけだ。








寝落ちした。








言っとくが、
断じて僕は世の中から置き去りにされてなんていない。




真夜中の災難が降りかかった僕にしっかり影響を受け、

あの繋がっていない恐怖など忘れるほどに、


寝坊した僕を叱ってくれたのだから。





そして今これを読んでくれたあなたがいるから。


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