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【認知症高齢者の心】親のトイレの失敗について

認知症を持つ親が、トイレを失敗してしまった場面に居合わせたことはありますか。そんな時、これまで見たことのない、親の姿にお悩みの家族も少なくないはず。この記事を読むことで、トイレに失敗してしまった認知症高齢者の心を理解し、介護のヒントにつなげていきます。

「私はトイレの失敗なんかしていない!」

~認知症をもつAさんの場合~

Aさんは80歳代前半。数年前に夫と死別し、以来、息子家族と同居しています。Aさんは、隣町で行われているコーラスサークルへ週2回電車で通っていました。ある日、Aさんはサークルへでかける途中、電車内で急な尿意を感じ、我慢をすることができずに漏らして、下着を濡らしてしまいました。寒い季節でコートを着用しており、お漏らしをしたことが周囲に認知されることはありませんでした。しかし、そのままサークルにはでかけられないため、一度帰宅をし、着替え、再度でかけました。

後日息子の妻が、汚れた下着をAさんのタンスの中で発見しました。他にも汚れた下着がいくつかありました。

「お義母さん、最近下着をよく汚されているようですけど、紙のパンツに変えるのはどうでしょうか。」とAさんに息子の嫁は話しかけました。

しかし、「こんなものいらないわ。」とAさんは怒ってしまいました。その後、息子が失禁をAさんに指摘したところ、「私はトイレの失敗なんかしていないと言っているでしょう」と涙ながらにAさんが息子夫婦に訴えました。以降、Aさんは涙ぐんだり、気持ちが不安定な様子が多く、家族仲も険悪になってしまいました。

認知症高齢者のトイレ(排泄)に対する、心境を考えてみましょう

先に挙げたAさんの例に対し、介護をする家族の立場からすると、「Aさんがオムツを拒否している」「トイレの失敗を認めたくないのだろう」といった点に目を向ける方は少なくないはずです。しかし、今回の事例でAさんが抱えた、心境を考えてみましょう。

「排泄」という行為は、人間が生きていくうえでは、欠かせないものです。その一方で、羞恥心を伴う、非常にデリケートなものであるのも確か。その点に注目すれば、排泄に関して困ったことがあっても、気軽に助けを求めることは、なかなかできないものであることが理解できるはずです。
家族であれば、なおさらのこと。
失禁など排泄に問題を抱える認知症高齢者の心境として、家族だからこそ、「言えない」「知られたくない」と感じるケースはよくあります。
そのため、排泄の問題を自分で何とかしようとし、汚れた下着を隠すという行動がみられます。とは言っても、認知症をっ持つ方の場合、洗濯をすることや、下着を隠していることを忘れてしまう(失行*1)しまう場合もあり、時間が経ってから、始めて家族が状況を目の当たりにすることもあります。

また、これまで、自分ができていたことができなくなることにより、自分に絶望を感じ、自尊心が傷ついたり、抑うつ状態になってしまっていることも考えられます。

介護する立場の私たちが、常に意識すべきことは「排泄に関する介助は、もっとも頼みづらい介助」であるという点です。

排泄介助に対する効果的な働きかけ

排泄介助とは、排泄の手伝いやオムツ交換をするだけではありません。トイレへの誘導もその一つです。多くの日常生活動作が自立している認知症高齢者の方でも、Aさんのように排泄の介助が必要になってくる場合があります。ここでは、比較的普段の生活は自立している認知症高齢者に対し、排泄の介助の場面で効果的な働きかけについてご紹介します。

【関わり編】

・自尊心を傷つけないような声掛けをする
「また失敗して」「ダメじゃない」など、排泄に関する失敗を責めることや、嫌そう、面倒くさそうな態度を家族が見せることは、本人の自尊心を傷つける原因となります。「少しお手伝いさせてください」「お着換えしましょうか」など、本人に安心してもらえるような、明るい声掛けを行います。

・見守りをし、できないところをサポートする
尿意・便意を感じ、トイレに移動し、衣類をおろし、便座に座る...と、排泄を終えるにはいくつかの手順があります。手順に問題が生じることで、排泄に関する問題がでてきます。基本は見守りを中心に、できていないとろを「手伝う」ということを基本に、サポートしましょう。無理に手伝うことで、本人から拒否が生まれることもあります。

【物理的な働きかけ】

・出先などで、トイレに行く習慣をつけてもらうようにする
自宅での排泄トラブルと出先では、その対処や影響は大きく変わるものです。しかし、排泄の問題があることだけで、家に引きこもるのはもったいないものです。お食事の前にや、カフェで一休みした後、電車に乗る前など「一緒にトイレにいきませんか?」と誘い、定期的にトイレへいく習慣をつけてもらいます。それにより、失禁を防ぐことができる場合もあります。

・トイレまでの動線を整える
自室から、トイレまでの距離が遠いと言った場合に、間に合わず失禁してしまうこともあります。トイレに近い部屋にすることや、自室からトイレまでの動線を整えるなど、尿意や便意を感じた際に、本人がスムーズに移動できるようにしましょう。

・尿取りパッドを利用する
高齢者だけでなく、産後の女性や中年にもなると、尿失禁のお悩みを持つ方も少なくありません。「実は最近、私もパッドを使ってるんですよ」と声をかけることで、オムツとはいかないまでも、尿取りパッドを使用することに抵抗感を減らせることが期待できます。尿取りパッドも長時間用・夜間用などさまざまなタイプのものが用意されています。

まとめ

認知症高齢者は、失禁などの排泄に対する失敗に対し、困っていても周囲に助けを求めるのが難しいケースがあります。
例え排泄の失敗があったとしても、自尊心に配慮した声掛けや関わりを大切にし、トイレに関連する自宅環境を整え、必要時はパッドなどの物品を使用しするのがよいでしょう。
「排泄に関する介助は、もっとも頼みづらい介助」であるということを、介護者の立場にいる私たちは忘れないようにしたいものです。


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