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ことむけやわす

「ことむけやわす」って知ってますか?漢字で書くと、「言向け和す」。現代の言葉で言えば、「コミュニケーション」かもしれません。

古事記で使われている古い大和言葉なのですが、大国主大神(オオクニヌシノオオカミ)が葦原中国(アシハラノナカツクニ)という実り豊かな国を治めていたころ、高天原(天上の神々の国)を治めていた天照大神(アマテラスオオミカミ)が、「葦原中国は我が子が統治すべき」と思ったところから物語がはじまります。ええ、わかりますとも。非合理的で理不尽極まりないですよね(笑)。

理不尽極まりない交渉において、天照大神は「言向け和す」ことにこだわります。神々の意向という大義名分を伝える(言向け)とともに、相手の率直な気持ちを聞く(和す)ことをていねいに行うことで、11年以上の時間をかけて、「荘厳な殿舎をつくること」と「天照大神の子孫と同等の待遇を受けること」を条件として、大国主大神は天照大神の子孫に葦原中国を譲ることに合意したのです。

そもそも非合理的で理不尽極まりない交渉だったのに、相手の気持ちを聞くことで、最初は想像もできなかった形で合意形成することができた。これって神話だからではなく、現代でもありえることだと思っています。究極のところ、関係者が納得できる地点が見つかれば、理不尽でも合意できる。その地点を開くのは、一見非合理的に見える話し合いだということに、感慨深いものがあります。

自分の主張に一理もないけれど、どうしてもそれを成したい。長い間人間をやれば、そんな瞬間が一度や二度くらい訪れるもの。そんな時、どうか合理性だけで諦めないでほしい。理はなくとも、あなたがどうしてもそれを成したいなら、言向け和すことができる。そんな気がするのです。

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