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ファン・ホームと休む

 本作品の題名であるファン・ホームは作中に出てくる葬儀場の呼称だ。本作品は、アイズナー賞最優秀ノンフィクション賞を受賞していることからもわかるように、作者の自伝的(もしかしたらフィクションかもしれないが)作品だ。そして、作者は同性愛者であり、その作者と作者の父親との関係を自伝的に叙述していく作品だ。ここまでだけだと、それほど珍しい作品ではないのかもしれない。この作品を一層味わい深くしているのは、間違いなく作者の父親の存在だろう。作者の父親は元軍人で、几帳面で、骨董好きで、文学好きで、そして・・・・・。

 この父親の文学(評論)好き及び作者自身の文学的嗜好も合間って本作品の中にはたくさんの文学作品が登場する。例えば本作品に本として登場したり、又は言及・引用がされている本のリストは以下の通りだ。(1)トルストイ「アンナカレニーナ」(2)ケネス・クラーク「ザ・ヌード(裸体芸術論)」(3)ジョン・ラスキン「ヴェネツィアの石」(4)アルベール・カミュ「幸福な死」(5)マルセル・プルースト「失われた時を求めて」(6)アルベール・カミュ「シーシューポスの神話」(7)アーネスト・ヘミングウェイ「日はまた昇る」(8)スコット・フィッツジェラルド「グレートギャッツビー」(9)ウィリアム・シェイクスピア「じゃじゃ馬ならし」(10)ウィリアム・スタイロン「ソフィーの選択」(11)ウンベルト・エーコ「物語における読者」(12)ハーマン・タノーワ「スケアーズデール・ダイエット」(13)アナイス・ニン「デルタ・オブ・ヴィーナス」(14)アドリエンヌ・リッチ「共通言語の夢」(15)オルガ・ブラウマス「Oで始まる」(16)メアリー・ディリー「婦人科学ーラディカル・フェミニズムの科学」(17)ウォレス・スティーブンズ「日曜日の朝」(18)ナンシー・ミルフォード「ゼルダー愛と狂気の生涯」(19)ケネス・グレアム「たのしい川べ」(20)ジェイン・オースティン「高慢と偏見」(21)ウィリアム・フォークナー「死の床に横たわりて」(22)ジェイムス・ジョイス「ユリシーズ」「若い芸術家の肖像」「タブリナーズ」etc・・・・・

 上記のように様々な文学作品は時に背景として描かれ、時に大学の講義で、時に父と作者との交流で直接言及されながら物語が進んでいく。また、本作品はとてもテキスト量が多い作品だ。その意味でも漫画と文学の中間的な作品の1つの形態なのではないだろうか。

 最後に何枚か本作品の絵柄がわかるものに言及したい。

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本作品では上記のような手紙でのやりとりも多く、これが結果として文字量の多さにつながっている気がする。

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絵は上記のような感じ。マルジャン・サトラピの絵に似ていなくもない気がする。いずれにしても詳細に描き込みまくる超絶技巧派ではない。むしろ全体的にキャラクターの感情が表情からはわかりにくい。

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色合いも特にすごいこだわりを持って色調が選択されているようにも感じれない。

このように作画的な部分にものすごい魅力があるわけではない。それでも、本作日の評価が高いのは、同性愛というテーマを家族関係とからめて描く、しかもその家族関係が同性愛の子供とその親の葛藤というよりは、同性愛の子とその親との文学を通じた心の触れ合いという稀有な描き方をしている点ではないだろうか。

 わりと文字量は多いが、流行りの小説を読むノリで、決して日本の漫画を読むノリで臨まなければ、とても面白い作品であるし、読んで後悔がない作品だと断言できる。

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