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記者が挑んだ あばら家リフォーム【7】なたが出土した!

あばら家のリフォーム中、「遺跡発掘かよ」と突っ込みたくなることがありました。(生活文化部・桜田賢一)

「さてはお宝か?」

2020年秋のある日のことです。ピザを焼く時、ピザ釜(第5話参照)の前にいすを置きたいなあと思って、地面を固めるためにあばら家の前の荒れ地を掘り下げていたところ、くわの刃が何かを掘り当てました。「ガチン」。荒れ地には岩石が大量に散乱していますが、どうも金属のような感触です。

「さてはお宝か? ナイス、じいちゃん(建築主)」

淡い夢を見て少しどきどきしましたが、もちろん現実は甘くありません。小さめのスコップに持ち替えて慎重に土をどけていくと、何やら四角い金属片が出てきました。包丁? いや、どうも、厚さや形状からして、なたのようです。長いこと土の中に埋まっていたので柄が腐ってなくなり、刃だけが残ったようでした。

出土した、なたの刃

そういえば、歴史関係で刀について取材した時、同じようなケースを耳にしました。どれほど古い刀でも、きちんと手入れがされていれば刃紋が分かるほどきれいです。でも、出土品の場合は土の中の水分でさび付き、製作年代が古いほど質の悪い天ぷらの衣のように、さびが膨れ上がるのだそうです。なたのさびはそこまでではなかったし、もともとは山林だった場所です。あばら家の建設時に使われた物が、何らかの理由で埋まったのでしょう。

しかし普通、なた埋める?

パイプやホース、軍手も

実は荒れ地には他にも、さまざまな物が埋まっています。屋内に貼られたタイルの破片やモルタル片が多く、中には樹脂製のパイプやホース、使用済みの軍手なんていう物も。すべて建築廃材なので、おそらく、祖父の指示によるものなのでしょう。刃物まで捨てているとは思いませんでしたが、いい加減なところがある人だったからなあ…。

使用済みの軍手とタイル片など

これが現代ならば警察に内偵され、最悪の場合は廃棄物処理法違反容疑で逮捕されます。宮城県内だけでも1年間に数件の摘発事例があるほど一般的な犯罪です。

そういえば二十数年前、入社して最初に取材した捜査本部事件は青森、岩手県境で起きた国内最大規模の産業廃棄物不法投棄でした。世の中は確実に「捨て得」を許さない方向に変わってきたと思いますが、あばら家が建てられた50年前はまだそうした感覚がない時代だったのでしょう。

庭だけでなく床下も建築廃材が落ちています

屈指の出来!エビマヨ

まあ、もうこの世に祖父はいません。土の中から何か出てくるたび、故人に代わって指定ごみ袋に入れ、収集所に出すようにしています。リフォームに来ているのか、ごみ拾いに来ているのか、たまに分からなくなる時があるほど多いのですが、そんな時はピザ釜を活用した自家製ピザを味わって忘れることにしています。家人が毎回、さまざまな味に挑戦していて、なたが出土した日の「エビマヨ」は屈指の出来でした。

屈指の出来となったエビマヨ

空気が乾いていて気持ちのいい日でしたから、庭にガーデンテーブルを出してランチタイム。きつね色に焼き上がったピザをその場で頰張っていると、白黒にパンダ塗装した車がやって来ました。大河原署のパトカーのようです。

ガーデンテーブルを出してピザランチ

「え? 逮捕? まさか、なたの不法投棄? 俺じゃないんですけど」

とうの昔に時効だし、そもそもそんなはずはないのに、あのパンダ塗装を見ると不思議とあたふたするものですね。もちろん、実際は全く違う案件でした。

「最近、この付近でクマの出没情報がありました。外出時は気を付けてください」

あばら家があるのは蔵王のふもとですから、クマがいても何ら不思議ではありません。拡声器による注意喚起を聞いて以降、外仕事をする際はラジオを付けるか、iPod(アイポッド)で音楽を流すようにしました。クマよけの鈴のような物ですね。

山が拡大している?

ハクビシンが屋根裏にいたというのはガセネタだった第1話第6話参照)ものの、これまで電線の上にサルが何匹も乗って毛繕いしていたり、車の前をカモシカが横切ったりすることはありました。自分が散歩していたらキジも散歩?していたし、リスも木の上に見掛けます。軒下に穴を開けるキツツキ(第3話参照)は別として、多くは大して害がありませんが、クマはね…。遭遇したらと考えると、かなり恐ろしいです。

人間が都市部に集中して周縁部が廃れ、少子高齢化も加わって「山が拡大している」と言われますが、そうした現実をまざまざと体感した1日でした。

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