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記者が挑んだ あばら家リフォーム【13】完 野生の王国

あばら家がある宮城県川崎町で、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、移住希望者らが増えています。別荘地に移住したシステムエンジニアの方の生活と現実の課題について、連載記事(空き家で始める田舎暮らし)を3回にわたって河北新報紙面で書きました。

<空き家で始める田舎暮らし>(上)楽園/通勤と無縁 自宅で温泉
<空き家で始める田舎暮らし>(中)修繕/DIYで費用抑え再生
<空き家で始める田舎暮らし>(下)課題/買い物不便 大けが不安
 
連載で紹介した人は、別荘地にある空き家を月額5万5000円で借りて、記者と同じように自分の手でリフォームして暮らしています。こうした移住者は今後、ますます増えてくると予想されますが、別荘地の厳しい現実にも目を向ける必要があります。

風雨にさらされ荒れ果てた空き家も

地震によるひび割れ

2021年2月13日夜、最大震度6強を記録した地震では、ウチのあばら家に大きな被害はありませんでしたが、さすがに築50年ともなると基礎の所々に地震でひび割れが生じました。こういう時、ホームセンターは本当にありがたい存在です。「地震でひび割れた部分を埋める充塡(じゅうてん)剤」なるドンピシャな資材が売っています。ひびを埋め、固まるとゴム状になるという優れ物が1000円もしません。早速、これで補修しました。

ひび割れの補修

ウチの場合、何かあれば、まだこうして修繕できます。でも、周りにはそうはいかないケースも散見されます。風雨にさらされ、ウッドデッキが崩落した別荘。ささやぶに覆われ、玄関にさえ近づけない家屋。人が入らなくなった屋内はさらにひどい状態でしょう。半世紀前からある保養地のため、相続がうまくいかないなどの理由で放置され、荒れ果ててしまうようでした(写真下はリフォーム前のあばら家です)

リフォーム前

すぐ近くにボウリング場の廃墟

あばら家のすぐそばにはボウリング場の廃虚があります。昔はリゾートホテルだってありました。「ボウリング場がやっていた頃が一番良かったよねえ」。近くの集落に住む方はそう昔を懐かしみます。近隣住民がどんどん便利な都市部に移り、世代交代がうまくいかずに人が来なくなった保養地。それが現実です

連載記事でも少し触れましたが、獣害の問題も深刻さを増すでしょう。今はこの地が「野生の王国」(第7話参照)になるか、人間の生活圏にとどまるかの分岐点にあるのかもしれません。

熱検知式の防犯カメラを設置

実際、庭にコンクリートを敷いた(第8話参照)後から野生動物の存在を強く感じるようになりました。コンクリートの上に何物かが粗相した痕跡があったり、クリやクルミの殻が転がっていたりするのが目に付くようになりました。それまでは土に紛れて気付きませんでした。

リスの仕業か?

「この天井の染みはハクビシンのおしっこの跡ですね」(第1話参照)というリフォーム業者さんの見立てが思い出されます。「家の中に浸入されたら嫌だなあ」。まず何物がうろついているのか確かめようと、熱検知式の防犯カメラを設置して「犯獣」をあぶり出すことにしました。

4月になってアイツの姿をキャッチ!

カメラを仕掛けたのは2021年3月末。まだ寒かったこともあって最初は野鳥しか写りませんでしたが、4月も半ばを過ぎるとようやく、犯獣の可能性がある連中をキャッチすることに成功しました。

夜更け過ぎ、赤外線機能もあるカメラに映し出されたのは、白く光る二つの目。タヌキです。辺りをうかがいつつ、保存食品として置いてあったジャガイモ(もしくはリンゴ)を持ち出し、嗅ぎ回ります。大丈夫と思ったのか、次の瞬間、そのジャガイモをくわえていずこかへと猛ダッシュしていきました。

やがて「やつ」も現れた!

防犯カメラに捉えられていることも知らず、タヌキは次第に大胆になっていきます。あばら家周辺にはクリの木がたくさん生えていて、人間の食用にはあまり適さない小さな実がたくさん落ちています。それらを見つけると、つがいなのかもう1匹を連れてきて、今度は持ち逃げせずにその場で食べるようになりました。


「やつ」も現れました。ハクビシンです。タヌキが写ったのと同じ場所に、「白鼻心」の当て字の通り、鼻の筋が白い動物がやって来ました。タヌキと違って後ろ足で立ち、保存食品を前足でつかんで器用に食べていました。


5月には大型獣の姿も

防犯カメラにはその後も、リスやキジバト、ホオジロなどの生態が収められていきます。そしてついに5月末、大型獣の姿が写りました。

イノシシです。「フゴフゴ」言いながらやって来て、タヌキやハクビシンの餌場を嗅ぎ回り、再びいずこかへと消えていきました。いや、もう、でっけー! 迫力満点の映像でした。防犯カメラ近くの地面にはイノシシが体をこすりつけた跡も。土が広範囲にえぐれていて、イノシシの大きさと力強さがよく分かりました。

イノシシが掘り返した跡

しかし…。ハクビシン、本当にいたんだなあ。天井の染みは雨漏りじゃなく、やっぱりハクビシンのおしっこだったのかしら。真相は今も、やぶの中です。野生動物だけに。
お後がよろしいようで。
(生活文化部・桜田賢一)

天井に残るハクビシンの痕跡


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