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運動しなくても体の代謝を維持できる?: 持久運動と体の代謝改善を結びつけているタンパク質 ”Sestrin”

今回は、マラソンやエアロビクスなどの持久運動を行なった後に、それを体の代謝改善へとつなげる重要な役割を担うタンパク質(Sestrin)を明らかにした研究をご紹介します。

持久運動をしなくても、このSestrinの働きを増やすことで、体の代謝を改善できることが明らかになっています。

よって、高齢者や障害者など、負荷のかかる運動が十分にできない人でも、このタンパク質の働きを活性化させてやることで、代謝改善や運動不足に起因する生活習慣病の予防をできる可能性が示されています。

超高齢社会の日本で重要なこと:高齢者の運動能力とQOLの維持

超高齢社会に突入している日本において、高齢者が健康な状態を保ったまま年を重ねることは極めて重要な課題です。

健康に動ける状態で年を重ねることで、高齢者であっても、仕事を続けたり、趣味の生活を充実させることができるため、高齢者の多くなった日本でも豊かな社会を維持できるからです。

問題は、年を重ねると、体が弱くなり、負荷のかかる運動があまりできなくなるため、体の代謝および健康状態をどんどん維持しづらくなることです。

また思うように運動ができなくなることで、ストレスがたまり、精神的にも不安定になってしまいます。

もし、負荷の少ない運動で効率よく代謝を維持し、健康を維持できるような方法があれば、それは超高齢社会の日本においてとてつもないインパクトを与えることになります。

そこで今回は、持久運動を効率よく代謝の改善に結びつけるのに重要な働きをしている、”Sestrin”というタンパク質の機能を明らかにした研究をご紹介します。(↓論文)

運動を効率よく代謝改善へと結びつけるタンパク質:Sestrin

Sestrinは、ヒトだけでなく様々な生物が共通にもつタンパク質で、体の代謝を維持するための細胞内の反応を活性化させることがわかっています。

今回の研究ではまず、Sestrinを欠損させたハエやマウスを遺伝子工学的に作製しています。

Sestrinを欠損させた動物では、欠損させていない正常な動物に比べて、持久運動を重ねても運動能力の向上が見られないことを確認しています。

また逆に、このSestrinを過剰に発現させた動物では、持久運動をさせなくても、運動能力の向上および代謝の改善が起こることを確認しています。

よってSestrinが、負荷運動後の、運動能力の向上と代謝の改善に重要な役割を担っていることが示されています。

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Sestrinは、ミトコンドリアの数を増やしてエネルギー生産効率を高めている

Sestrinを欠損させたマウスでは、運動中の脂肪酸の代謝(脂肪酸をエネルギーに変換する)が低下していることが示されています。

またSestrin欠損マウスでは、筋肉の細胞内のミトコンドリアの数が少なくなっていることが示されています。

ミトコンドリアは糖分や脂肪酸をエネルギーに変換する役割を担っています。

よってSestrin欠損マウスでは、このミトコンドリアの数が十分維持できないために、運動に必要なエネルギーを十分生み出すことができなくなります。

言い換えると、Sestrinは、運動によって体に負荷がかかると、細胞内のミトコンドリアの数を増やすことで運動に必要なエネルギーの生産効率(= 代謝)を向上させていると言えます。

ミトコンドリアの数が増えてエネルギー生産効率が高まるということは、体の代謝が高まるということを意味します。

実際、PGC1という、ミトコンドリアの数を増やすのに重要なタンパク質の働きが、Sestrinによって活性化させることも示されています。

Sestrinの働きを活性化させるような薬ができれば、運動しなくても代謝を維持できるかも

今回の研究から、Sestrinを過剰に発現するようにした動物において、負荷のかかる運動をしなくても運動能力の向上と代謝の改善が起こることが示されました。

✅ Sestrinの働きを活性化させるような薬
✅ Sestrinの遺伝子発現を増やすような遺伝子治療法
✅ 効率よくSestrinの働きを活性化させる運動法や食事法

上記のようなSestrinの働きを活性化させる方法を見出すことができれば、負荷のかかるきつい運動をしなくても代謝を維持できて、長い健康寿命を達成できる時代がくるかもしれません。

今後も分かりやすい、簡潔な記事を心がけていきます🙇🏻‍♂️