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読書:脳と人工知能をつないだら人間の能力はどこまで拡張できるのか

脳科学✖️AI 研究に興味があったので、以下の本を読んでみました。

脳とAIの融合研究の、過去、現在、そしてこれからの展望について、非常に分かりやすく、さまざまなエビデンスを交えて解説されており、ワクワクしながら読み進めることができました。
脳とAI研究のこれまでの歩みについては、ここで記載するとネタバレになってしまうので、ぜひ本書を読んでいただきたいと思います。

私個人的には、

  • AIが加速度的に発展してきた中でのこれからの科学のあり方

  • なぜ脳-AI研究が短期間でここまで飛躍的に進歩したのか

についての記載がとても刺さりました。
備忘録として、私が特に面白いと感じた点を、感想として記載したいと思います。


自然界をなるべくシンプルに説明することを良しとするのは、人間の脳に限界があるから

自然界をなるべくシンプルに説明することを良しとするのは、人間の脳に限界があるからではないかという考え方を「オッカムのカミソリ」という。
人間が想像できるのは3次元の空間までで、方程式の変数が100個も1000個もあれば、人間の脳では直感的に理解することはできない。
変数はせいぜい10個くらいまでが限界。
人間が直感的に理解したと感じることのできる範囲は、脳の限界によって制限されており、そのため直感的に理解しやすいなるべくシンプルな法則が好まれてきた。
このように、これまで人類は「なるべく少ない変数(パラメータ)で世界をモデル化すること」を追い求めてきた。
しかし、人工知能の急速な進歩により、その状況は変わろうとしている。
人工知能(ディープラーニング)は、数百億や数千億という膨大な数の変数を活用して世界をモデル化する。
このように、「大量の変数を用いて世界をモデル化する科学のあり方」は、「高次元科学」とよばれる。

ダイレクトフィット:ビッグデータと人工知能を用いて複雑なデータを直接モデル化する

上記のようにAIは、人間の脳では到底無理な大量の変数を用いて世界をモデル化することができる。
よって、今後の科学のあり方としては、ビッグデータと人工知能を用いて複雑なデータを直接モデル化する方向にどんどん進んでいくことが予想される。これを「ダイレクトフィット」という。
世界をモデル化するために、ある1人の天才による閃きや、偶然がもたらす幸運に頼る必要はなくなっていく。
今後の科学において必要になってくるのは、高性能なコンピュータと大量のデータを集め、十分な時間をかけて人工知能を学習させるだけになる。

脳のビッグデータから精神疾患を診断する→計算論的精神医学

脳のビッグデータから精神疾患を診断する医学研究は、「計算論的精神医学」とよばれ、近年急速に発展してきている。
日本は、脳の画像検査に用いられるCT、MRI機器の人口あたりの数が2位以下を圧倒的に引き離して世界一であり、まさに脳のビッグデータを世界一保有していると言える。
「計算論的精神医学」という、脳の画像ビッグデータから特定の精神疾患だけに見られる特徴を人工知能が見つけ出すという手法は、日本が世界をリードできる可能性がある。
「計算論的精神医学」は、脳のビッグデータから精神疾患を診断するだけでなく、知覚や認知といった脳の活動を計算と捉え、その機序を数式でモデル化して解明していくことも期待される。
このように医学・生命科学研究は、AIと組み合わせることでさらに加速度的に発展していくことが期待される。
医学と人工知能の両方のプロフェッショナルになれるのがベストだが、どちらか一つの分野を極めるだけでも大変。まず医学か人工知能どちらかについての専門性をきちんと身に付け、その上でもう一方についてもそちら側の専門家と議論できるようになることが重要。

電極の埋め込み手術自体をロボットが行う

イーロンマスク設立のNeuralink社が推し進めている技術

  • 髪の毛より細い電極数千本以上を脳に埋め込み、脳波を記録したり、1本1本の電極で脳を直接刺激する

しかし、電極を脳に埋め込む際には血管の損傷が大きな問題となる。
脳は虚血にとても弱く、たとえごく微少な血管であっても損傷によって四肢が動かなくなったり、言葉が話せなくなったりする。
これを避けるには熟練した脳外科医が慎重に手術を行う必要があると考えられていた。
Neuralinkは、この問題に対して、自動で血管を避けながら電極を埋め込んでくれる手術ロボットを開発
→ これによって血管損傷を回避できるのみでなく、ロボット自体を増やすことで手術数を一気に増やすことが可能。
こんな微細な手術の技術がロボットで可能になってきているのであれば、外科医の仕事のあり方も変わってくると思われる。

集中的な資金投下が科学を加速する

こういった技術革新は、イーロンマスクがNeuralinkを設立してたった4~5年で行われた。
こんなに短期間で、これほどのブレークスルーが成し遂げられたという事実は衝撃的である。
近年、日本では「研究に対する予算削減」などが話題となるが、しかるべき企業や個人が大量の資金を投資することで、科学が一気に進むということが証明されたと言える。
科学研究の進め方におけるこれまでの常識も、見直さなければならないと言える。

人工知能業界では、近年はこれまでにないほどにアカデミアとインダストリーのつながりが増している。
この背景には、基礎研究がきちんとビジネスに結びつくことが示されたという理由が挙げられる。
脳神経科学含む生命科学の領域においても、この先人工知能業界のようなアカデミアとインダストリーの相互交流の流れが生まれることが強く望まれる。


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