"皮膚-腎臓-肝臓"が連動して体液を保持している
今回は"体液保持"という観点から、皮膚-腎臓-肝臓の連関を示した論文を紹介します。
私たちの皮膚はバリア機構を持ち、体表からの水分の喪失を防いでくれています。
しかしアトピー性皮膚炎や乾癬などの皮膚の病気になると、皮膚のバリア機構が壊れて、水分を失いやすくなってしまいます。
今回紹介する研究では、乾癬のモデル動物の研究を通して、皮膚バリアが壊れた状態でも、腎臓や肝臓が体液を保持しようと代償的に働くことを示しています。
皮膚の状態の変化が、腎臓や肝臓の働きにも影響を及ぼしているとはとても面白いですし、臓器連関という視点で多面的に生命現象を観察しないといけないということを改めて教えてくれます。
紹介論文:
Aestivation motifs explain hypertension and muscle mass loss in mice with psoriatic skin barrier defect
図解サマリースライド:
皮膚は体内と体外を隔てるバリアとして、体液を保持する
私たちの皮膚は、体内と体外を隔てるバリアとして機能しています。
太陽からの紫外線や、ウイルスや細菌が体内へ侵入するのを防いでいてくれます。
また体内の水分が逃げてしまわないようにも機能しています。
"保湿"という言葉の方がわかりやすいかもしれません。
しかしアトピー性皮膚炎や乾癬などの皮膚の疾患では、このバリア機構が壊れてしまうため、体表から体内の水分が逃げやすくなっています。
アトピー性皮膚炎や乾癬の患者さんの皮膚が乾燥してガサガサになってしまうのは、皮膚のバリア機構が壊れてしまっているためということになります。
このバリア機構が壊れてしまう皮膚疾患では、体表から水分が失われて、簡単に脱水状態になってしまいそうです。
しかし、私たち生物は、失われた機能を代償するための機構が常に備わっているものです。
今回紹介する研究では、乾癬のモデルマウスを解析することで、皮膚バリアが壊れてしまっても、腎臓や肝臓などの別の臓器が代償的に働くことで、体液を保持しようとする仕組みを明らかにしています。
乾癬のモデルマウスでは、皮膚からの水分蒸散量が増えている
この研究では、乾癬モデルマウスとして、皮膚を構成するケラチノサイトという細胞でIL-17Aというサイトカインを過剰発現する遺伝子改変マウスを用いています。
この乾癬モデルマウスは、乾癬患者に似た、重度の皮膚障害を呈します。
皮膚のバリア機能を定量化する指標として、TEWL(Transdermal Epidermal Water Loss: 経皮水分蒸散量)という指標がよく用いられます。
乾癬モデルマウスでは、TEWLが増加していることが示されています。
つまり、皮膚からの水分の喪失が増えているということになります。
皮膚からの水分喪失を補うために、腎臓の尿濃縮機構が亢進する
乾癬モデルマウスでは、飲水量が増え、また尿量が減ることが示されています。
皮膚からの水分喪失を代償する機構が働いているということです。
尿を解析すると、いわゆる"濃いおしっこ"(=濃縮された尿)がでていることがわかりました。
腎臓で尿が濃縮されているということを示していますが、これは腎臓が尿として体外に排出する水分量を減らしているというふうに解釈することができます。
少し専門的な話になりますが、乾癬モデルマウスでは腎臓の近位尿細管から遠位尿細管まで原尿が通過する時間が長くなっていることを明らかにしており、これは腎での水の再吸収機構が亢進していることを示唆しています。
皮膚や腎臓では、浸透圧物質としてUrea(尿素)が増えている
"尿素"(Urea)という言葉は聞いたことがあるかもしれません。
体にとって有害なアンモニアを無害な"尿素"に変換して、おしっことして体外に排出すると、教科書的には習います。
しかし、この尿素は体液の浸透圧を規定する因子としても重要な役割を担っています。
尿素を多く含む組織では、浸透圧が高まり、多くの水分を保持することができます。
市販の保湿クリームなどには尿素が含まれているものが多いですが、尿素に保湿効果があるのは、浸透圧物質として機能するからです。
乾癬モデルマウスの皮膚や腎臓では、この"尿素"がたくさん蓄積していることが示されています。
浸透圧物質である尿素を皮膚や腎臓に蓄積させることで、水分が体外に逃げないようにしているのです。
肝臓の尿素生成経路が亢進している
尿素は、肝臓の尿素回路(Urea cycle)という経路でつくられます。
乾癬モデルマウスでは、肝臓が大きくなっており、また尿素回路で働く酵素(アルギナーゼ)の活性が強くなっていることも明らかにしています。
皮膚バリアが壊れると、肝臓での尿素生成が亢進するということになります。
またさらには、乾癬モデルマウスは血圧が高くなっていることも示しています。
血圧を高めることで、体液循環量を減らし、バリア機構が壊れた皮膚からの体液の喪失を減らそうとしていると解釈することができます。
まとめ
皮膚は体内と体外を隔てるバリアとして、体液を保持する
乾癬のモデルマウスでは、皮膚からの水分蒸散量が増えている
皮膚からの水分喪失を補うために、腎臓の尿濃縮機構が亢進する
皮膚や腎臓では、浸透圧物質としてUrea(尿素)が増えている
肝臓の尿素生成経路が亢進している
今回の研究で示されたように、皮膚のバリア機構が壊れると、失われた皮膚の機能を補うために、腎臓や肝臓が連動して機能しているというのはとても面白いです。
体液保持機構という観点から、多面的・多角的に体を構成する各臓器の働きを見ると、これまでの医学的な常識がくつがえす発見があるかもしれません。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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