見出し画像

長編小説『処刑勇者は拷問好き王子を処刑する【人体破壊魔法】特化でサクサク、サクリファイス 第4話「殺して下さい勇者様」

 俺は動かなくなったヴィクトルの腹に死体蹴りを入れる。マルセルへのちょっとした脅しのつもりだ。案の上、マルセル姫は悲鳴を上げて詠唱をやめた。俺はマルセルに一度だって暴力で脅したことはないが、今はそれを平気でできてしまうし、快感に変わるだろう。

 ヴィクトルの血のついた不死鳥のグローブをうっとりと眺める。これから、マルセルの血もここに付着することになると思うと、舐めてみたい。だけど、背徳感があることも確かだ。そういえば八十年代ホラー全盛期の殺人鬼は誰も血を舐めないんだよな。

 あの、エルム街のフレディさえも。あいつ、快楽殺人鬼なのに。七十年代最後にして殺人鬼ホラーの火付け役、ハロウィンのマイケル・マイヤーズは精神的におかしいから、やってもよさそうなのに。マイケルって、悪の化身みたいなもので怪力と包丁、その辺の凶器になりそうなものしか使わなかった。リメイクは、腕力ゴリゴリで好きだよ。

 マルセルの血を奪う前にどうしても俺には、比べずにはいられない事柄がある。

「姫様? 俺の仲間としてのプライドは捨てちまったのか? エリク王子のどこがいいんだよ」

 マルセルが俺の言葉を無視してヴィクトル蘇生を試みる。心肺蘇生魔法。心肺停止後二時間以内の使用が許可されている。病人には効かない。俺は好きにさせてやった。マルセルの緑の瞳は閉じて、額には汗。

 内心震えあがっているだろう。その、耳元で囁いてやりたい。だけど、俺を意地でも無視して詠唱に集中しようとする姿勢を見ていると、やっかみの感情が鎌首をもたげてくる。俺と王子のどこが違う? どっちがお前を愛していたか言ってみろ? と。

 エリク王子は腸の拘束を解こうと必死だが目には涙さえ浮かべているではないか。ほらな、こいつは気取り屋で本当は情けない男なんだよ、マルセル。こいつのどこに魅力がある? 俺より劣る王子様か。いいねいいね。お、いけね、笑いが堪えられない。

「……っははは。ははははははははははは!! なんてざまだよ、エリク王子様? その歪(ゆが)んだ表情もっと見せてくれよ。俺に。そうだ。この俺にだよ。元勇者の俺にその悔しそうな顔、見せてくれよな」

 とうとう、モルガン側近が逃げ出した。

「おいおい、王子様。見捨てられてるぞ。いいのか?」

「貴様、この魔法を解除しろ。さもなくば……」と、エリク王子が声を振り絞って叫ぶ。

 俺をどうする? 捕まえるか? 殺すか? また前みたいに処刑するか? 楽しみだな。どうしてくれるんだよ?

「さもなくば……」

 あ、これエリク王子のマルセルのための時間稼ぎだ。マルセルは回復魔法専門の回復師だが、攻撃魔法も使えるから魔王討伐に連れて行ったんだった。

 マルセルが火の玉を両手に浮かべて放つ。二メートルほど飛ぶとそれが竜の姿に変える。お、いきなり魔王に留めの一撃の一つとなったそれで来る? それで来ちゃう? 興奮してきた。俺を食おうと炎の竜が覆いかぶさってくる。その技で来るってことは、俺は魔王より上ってことだろ。こうしなければ勝てない、そうだろう? 

 ああ、こんな状況じゃなかったら俺の愛撫(あいぶ)をお前は受けられるのに、なんてもったいないんだ。俺は炎の竜を指で軽くなぎ払う。俺のメスとなった指は炎の魔法は全て切り裂ける。炎が晴れて消え去り視界も良好だな。煙さえ残らない。

「ああ、愛おしい。愛しのマルセル。どうしてお前は姫なんだ?」

 ちょっとロミオとジュリエットっぽいか? だけど、この狂おしい気持ちは恋愛ものの悲恋であることに間違いはない!

「なんなのあんた。未練たらしいうじ虫! 性欲の塊なんだから。いいこと、あたしはもう王子と結婚したの。あんたは一人で自分でも愛してなさい」

 汚らわしいものでも見るように吐き捨てたその言葉。俺の感情を逆なでするには十分だ。

 このクソアマが。相変わらず根性が腐っている。

「てめえには愛想がつきてるんだよ! その潔癖腐れ王子と寝て満足か? ああ? あいつ童貞だったろ? 俺の方がお前の中まで愛してやれたってのに」

 俺はお前の髪をくしゃくしゃにして愛してやった。お前の柔らかい二の腕に接吻をしてやった。お前の小さい手を握ってやった。数々の日々をお前はエリク王子とともに、なかったことにした! お前は俺のことをもてあそんだ! 俺を踏みにじった!

「はぁ? あんたなんか、魔王を倒してなきゃ、ただのその辺のモブといっしょよ」

 モブは、俺が教えてやった概念だ。生意気にこういうときに使ってくるとは。口うるさい女だ。

「じゃあ、お前のそのうるさい口から舌を抜いてやるよ」

 マルセル姫を引き寄せるのに、王子に巻いていた腸を俺の指にまとった切断魔法で切断して半分よこした。

「愛してるぞ。今も」

 俺の歪んだ愛はこのクソアマに届くだろうか? 冷ややかに見つめると、激しい憎悪のこもった緑の瞳と出会う。その輝きが失われる前に、マルセルの両手を後ろ手に縛る。

 俺は心を静めて目を閉じる。脈だって止まるかもしれない。やめなさい! とか罵るそのわがままな唇に口づけする。ぷるんとした唇から口内まで歯を押しつける。彼女の太い舌を噛み切って引き抜く。歯に切断魔法をまとわせるのは、我ながら少しエロチックだな。

「ぬぎゃあはああああ!」

 素敵な悲鳴だ。今まで数々の女の唇を奪ってきたが、胸に迫ってくるものの質が違う。行き場のない痛みを訴えかける濃厚な悲鳴だな。ビターチョコレートの味がする。とうとう、悲鳴にまで味があるように感じる。女神フロラ様に俺の聴覚や味覚は支配されたのかもしれないな。

 マルセルの泣き顔は折り紙を丸めたよりもくしゃくしゃだ。姫として彩られた桃色のドレスの首回りは涙と血でぼとぼとだ。声の出し方が分からない幼児みたいな発音で俺に何か言うマルセル。

 怒っていたとしても頼りない命令口調だ。俺に救いを求めるならまだしも俺を罵倒するためだけに、なくなった舌先を必死に動かすのは滑稽だな。

 彼女の泣き顔は見たくないとこれまで幾度思ったことだろう。だけど、俺の身勝手な行為で泣き叫ぶ彼女の顔は寧ろもっと見たい。

 俺の行為で傷つく彼女の顔はもっと見たい。

 見せてくれ。俺はそれを愛と呼んでやるとも! 愛とは憎悪も憎しみも含む。俺はお前を殺して愛す。

 王子の目の前で俺はそれをやった。頬が紅潮しないようにする。だって、俺はマルセルを今愛してはいけない。殺してから愛するんだ。彼女のドレスを胸元から引き裂くようにして剥く。

 ドレスから白い肌があらわになる。腰のところで巻いた腸でかろうじてドレスがずり落ちない状態だ。俺的には生足も捨てがたいんだけど、せっかく眼下に実っている胸があるのだから好きにしてやらないでどうする。何やら喚いているマルセルの口を塞ぐように唇を噛みちぎる。この高揚感!

 マルセルの血と俺のよだれが混じって口の端から溢れ出る。よだれが止まらないのでそのまま彼女の胸の上に垂らして、両手で敏感なところをもむ。ああ、やばい。マルセルが、うんうん喘いでくれている。

 切ない? 愛してる? 苦しい? どれか言ってみろ。いや、まさか恥ずかしいなんて言わないよな。俺と寝たときはどっちが早く脱ぐか競うのが好きなのに? 

 ああ、マルセルの柔らかい乳房は俺の握力で平坦にしてやろう。確かな反発力で戻ってくる。指でしがみついても指の間から肉がはみ出るほどの厚さがあるのもたまらない。ハァ……ハァ……俺って、俺って異常者で最高。

 マルセルが髪を振り乱して、目も閉じて首を振っている。否定? 俺を否定するか? 拒絶するか? どうせ足りないんだろう。せがむのならもっと、色々やってやる。

 はっきり言って、もう王子なんてどうでもいいや。だめだだめだ。王子に見せつけてやらないと。

 非常に勿体ないと思いながら彼女の悲鳴と絶望の入り混じった顔を王子に向けさせる。首筋の産毛に俺はため息交じりの吐息をかけた。マルセルは姫という立場上、気丈に振舞っている。俺には屈しないと?

 うなじの鳥肌を早く舐めまわしてやりたくなる。こんなに近くにいてまだ俺を拒むのか。俺には手に入れさせないと。

「王子様にさよならを言いな」俺は耳元で告げる。彼女の瞳孔が見開かれる。

 エリク王子が首を何度も振る。

「や、やめろ、だめだだめだ! 彼女に何をする!」

 彼女の首に指で線を真横に引く。メスの指は、彼女の首筋にきれいな血の線を入れる。首の皮がべろりと剥がれる。

「……くっ……っか……ぁぁあ」

 首をじわじわと切断するのは楽しいな。それもエリク王子の目の前で。マルセルは手が使えないので、顎を引いて圧迫して止血を試みるが、無駄だ。血ってのは一度噴き出ると自分ではどうすることもできないもんだ。

「マルセルうううううう! ぼ、僕の彼女に、貴様! なんてことを! このクズが! マルセルううううう! マルセル、ぼ、僕のマルセルがあああああ」

 彼女がこと切れてからの王子は俺をありとあらゆる言葉で罵倒(ばとう)し続けた。だけど、もうお前は遅いんだよ。これから地下牢に繋いでありったけの拷問をしてやる。そう、俺はマルセルだけでなくお前も処刑したいんだよ。

 取り乱して泣き叫び、慟哭する王子の襟首を捕まえるには容易かった。顔色を窺ってみる。

「ゆ、勇者よ! 話を聞こうじゃないか?」

 やっと次の標的がお前だということに気づいてくれたか。嬉しいね。俺はマルセルもそうだが、お前に借りがある。俺は処刑されるまでの間、毎日拷問されていたんだ。自分の命が尽きるのを毎日感じていたんだ。痛みも恐怖も凌駕して、ついには処刑日が来ることの方が嬉しいとまで感じるように感覚が麻痺したんだ。

「た、頼むから見逃してくれないか? 仮にも僕は王子。今ここで僕を殺せば貴様は大罪人だ」

「大罪人ね? 前にもそう言われて俺、処刑されたんだっけ」

 俺はありもしない罪で火あぶりにされた。マルセルと恋仲だったというだけで罪をでっちあげられたんだぞ? 今更罪の一つや二つを恐れる必要はないだろう。

 王子に巻いてる腸をつかんで王子を引きずっていく。エリク王子は、助けて助けてと泣き言を叫びはじめる。いやいやいや、早いから。泣くの早いから。期待を胸にオペラ座を去る。

 俺を拷問したあの地下牢の拷問部屋でこいつを処刑(サク)りたい。絶望して自ら「殺して下さい勇者様!」と言うその日まで。俺にはお前がそう叫ぶのがもう目に見えるぞ。

「サクサク、処刑(サクリファイス)♪」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?