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長編小説『処刑勇者は拷問好き王子を処刑する【人体破壊魔法】特化でサクサク、サクリファイス 第17話「処刑場」

「サックサクだな!」

 ディルガン国の衛兵、数百人全部を処刑(サク)るのに、ものの十秒。少しかかりすぎたか。瞬殺じゃ、ちゃんと恐怖を感じ取ってくれたか分からないからなぁ。人差し指についた血を舐めて味を確かめてみよう。

 混ざり合った誰かの血は、喉に通るときにつっかかる苦い感じがする。飲んだことないけど臭いで分かった。きっとこれはビールの味に近しい何か。吐きそうだ、無理。

 今ので確実に分かったのは、俺の味覚が血や悲鳴に対して異様に敏感なことと、実際の味と違うものの味がするということ。苦かったから、口直しにヴァネッサを処刑(サク)ってやらないと。

 ディルガン国はもう手薄のはずだ。町に入れば楽勝の予感すらしてきた。驚きの変化もあったが。教会の入り口前に設置された女神像が、老眼鏡をかけたばばあになっている。これ俺のせいね。前、魔導書のことでアナログだなって思った結果がこれ。女神様は勇者の見たいと願う姿になるから。それが石像にまで反映され、ついに俺は女神の美貌をも傷つけることができる男になったわけだ。

 処刑場が近づいてきた。町の広場にもう観衆が集まっている。深夜三時前だというのに、町中の人口のほとんどが軒並み集まった感じだ。みんな好きだね、処刑の見学。見上げると、遠くではっきりとヴァネッサの猛抗議が目に入る。

「私は何の罪も犯していないわ! 元勇者をおびき出すためだけに処刑されるのなんてごめんよ! 私はこの国に魔王討伐後もずっと尽くしてきた。こんな処刑が許されていいはずがないわ!」

「ヴァネッサめっちゃ泣いてるじゃん」と一人ごちる。彼女の顔は怒りで赤らんでいることだろう。嫌いじゃない。元々過激な美女だから、怒り狂っている方が華がある。

 両腕に鎖を巻かれて吊るされた魔女の腕と鎖。どちらも艶(つや)っぽく光っているのでディルガン国の処刑はいい趣味をしている。

「俺は優しいから、ヴァネッサを公開処刑から助け出し、俺の手で処刑(サク)ってやるんだ」と、俺は決意を新たに舌なめずりをしてみる。

 俺の唇は薄くて、乾いていて何の味もしなかった。これは飢えているなと自分で自分の頬を撫(な)でてみる。マルセルの手と違って自分の「不死鳥のグローブ」越しの指は怒りで、力強かった。俺は俺を憎んでいるのかもしれないし、マルセルがいないことに対して代わりの何かを欲していたのかもしれないが、感傷は後回しだ。裁判官が処刑前の罪状を述べはじめた。

「これより被告の罪状を述べる。魔女ヴァネッサ。元勇者の仲間というだけで罪に値する。更に、ディルガン国の内政に外交補佐とし関り、リフニア国のエリク王子に暴言・及び暴行を加えたことにより、死刑に処す」

 罪状が適当な気がするのは気のせいかな。ヴァネッサなら本当にエリク王子に暴行を加えかねないけれど。人混みを避けて町の屋根に上る。逆に目立ってしまうかもしれないが、これは一種のパフォーマンスであり罠にかかりに来た間抜けではなく、余裕すら持っているという証だ。

「あ、あれは」と、誰かが指差す。当然だろう。もはや国際指名手配級の勇者様だぞ。遠慮せずに崇めるがいい。

「サクサク、処刑(サクリファイス)」

 メインテーマ曲まで聞こえてきそうだな。俺の処刑ソングに歌詞でも考えるか。リズムよく屋根伝いを闊歩して処刑台を目指す。

 おやおや、ディルガン国の兵はいないみたいだが、見覚えのある方々がいらっしゃいますね。右下に見えますのは、これはこれは、リフニア国のみなさん。ディルガン国まで出張で? 

 詠唱団に、騎士団に、あれ、エリク王子はいないのか。そして、左に見えますのは、ノスリンジア国の魔弾の弓兵。銀色にコーティングされた鉄弓を持ち歩き、肩当てと、弓のホルスターを肩から下げている軽装備の兵。灰色の制服に紫の腕章をつけている。ノスリンジア国では騎士団より人数が多い主力戦力だ。

 これは痺れるシチュエーションだな。俺の命を刈り取りに来るには最高のメンツがそろっている。いいね。しっかり狙ってこいよ。俺はここだ。


 

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