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鍵盤楽器音楽の歴史(29)モニカ

Girolamo Frescobaldi: Partita sopra la monicha (1615)

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Monica (monicha, monaca) は『母さん私を尼僧にしないで』Madre non mi far monaca という民謡の旋律です。その初出はミケーレ・パリオ編纂の Canzonette e madrigaletti spirituali (1610) ですが、歌詞は遡って15世紀後半に類似のものが見つかります。

Wendland, J. (1976)

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同じ曲がフランスでは Une Jeune Fillette として知られているというのは以前に紹介したとおりです。これもまた修道女になりたくないという内容の歌詞で、古くはシャルダヴォワンのシャンソン集 (1576) に収録されています。

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これはオルガン・ノエルの定番の主題の一つとなり、18世紀に至るまで多くの作品が作られています。

Pierre Dandrieu, "Noëls, O filii, chansons de Saint-Jacques, Stabat mater, et carillons" (c.1725)

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資料によってはこの旋律が、アルマンド、Deutscher Tanz、Balo todesco などとして現れ、舞曲由来、それもドイツ起源を伺わせます。

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故レオンハルト御大の貴重な演奏。

ドイツでは Ich gieng einmal spazieren として知られ、さらにコラール Von Gott will ich nicht lassen がその旋律を使用しています。これは遥かに下ってJ.S.バッハの作品でも聴くことが出来ます。

その他膨大なヴァリアントについてはこちらのサイトが詳しいです。

このように『モニカ』は大変人気が高く、アレンジも様々なものが存在します。ビアッジョ・マリーニ (1594-1663) の『モニカ』は、もうほとんど原型がわかりませんね。

しかしここでフレスコバルディは上声部に旋律をおいて変奏するド直球な編曲を行っており、謎の半音階技法なども使わずコード進行は明快で、実にわかりやすくキャッチー、素直にフレスコバルディの妙技が楽しめます。

ちなみにフレスコバルディはモニカの旋律に基づくミサ曲 Missa sopra l'aria della Monica も作曲しています。元の歌詞を考えると罰当たりな代物ですが…

次回はフォリアを。

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