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若くて瑞々しい才能に圧倒された(映画:泣く子はいねぇが)

 2020年の12月頃、同年代の界隈で、話題になっていた「泣く子はいねぇが」。
秋田をフィールドに、若いチームと地元が一体になって作り上げた映画、エネルギーを感じる。そんな友人の間での前評判をチラ見しながら、映画館に足を運んだ。

 映画が終わった第一声は、「良かった」だった。

 若くて、瑞々しい。画面に飛び交うすべてのことがらが、とても瑞々しかった。20代の登場人物の、どうしようもない幼さやエネルギー、踏ん張り、10代から持っている子どもっぽさを超えようとする意思、親・家族という存在。
全てが、秋田・男鹿のぽっかりとした空間と色彩、田舎だからこそある情の間に溶けていた。
 私が「等身大」と言うには、私自身が歳をとりすぎているし、子どもを若くして産んだことも、男性でもないので、本当にその言葉があっているかは分からないけれど、まさに等身大の、若い監督、映像、俳優さんたちが作り上げた瑞々しい雰囲気に終始圧倒された。

 今は、色々な映画、ドラマでお名前をみかけないことはない、というくらいの仲野大賀さんの演技をきちんと見たのもこの時が初めてだった。
はっきりとした意思を見せない。弱々しい。なんか楽なほうに流れてしまう。見ていても「ばかだなぁ」と思ってしまう。大人になりきれないなのに、ことね(吉岡里帆さん)と子どもに対する愛情と正義感だけはあって、それが側から見ているとチグハグして余計にうまくいかない。そのチグハグする中での、たすくとしての動きがとても自然で、分かるはずないのに、なぜか理解できてしまって。
 吉岡里帆さん。透明で、強い。生きる・守るということを決意している。最初はきっと、お互いに若いから、お互いの状況を俯瞰してみる余力がなかったんだと思うけれど、たすくが地元に帰ってきてからの、たすくを見る眼差しがなんとも素晴らしかった。

 個人的に、寛 一郎さんの「ばかだなぁ」の男友達ぶりがものすごく良かった。寛 さんの、あの海岸での笑顔・・。あれはすごい。表情と佇まいから語られることの豊かさで言ったらこの映画イチなんじゃないかと思う。この人誰だと思って調べたら、佐藤浩市さんの息子さんなんですね。

他、柳葉敏郎さん、余貴美子さん、山中崇さんのベテラン俳優陣がしっかり、「田舎」を表現されていたことも大きいと思う。フラフラしがちな20代だけでは、実は田舎特有の空気感や閉塞感って出てこなくて。そこをしっかり厚みを持たせてくださっていると感じた。
あの、1回やらかしてしまった後の身の置き所のない、いつも誰かに見られているような、真綿で締め付けられるような空気感。後戻りできない感。

役者さんたちへの感想が長くなってしまった。
そんな名俳優さんたちの演技の中で、たすく(仲野大賀さん)が、自分なりの正義感と、愛情をもってチグハグしながら「父親」になろうとする。
でも、「父親」にはなれなかったのかもしれない、それに気づいたときの、たすくの情けない、どうしようもない涙と、最後に、ことね(吉岡里帆さん)と対峙するときの決意。
あのラストは良かった。

いや、本当に、良い映画だった。佐藤監督の次回作も楽しみ。

折坂さんの「春」がとても良かったです。聞くと、男鹿の空間や、ふらふらチグハグぶりを、すっと思い出すことができるのです。


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