カフカ

存在と非存在の間

カフカ

存在と非存在の間

最近の記事

逃走線

罪を犯して、うだるような暑さの中を、僕は赤い自転車に乗って、「逃げ」ていた。罪の声はどこへ逃げても追いかけてくる。 ただひたすらに道を東北に向かって死に場所を探していた。 確か埼玉県のどこかだと思う。自転車がパンクした。僕は自転車を路肩に置き去り、歩いてまたも「逃げる」 畑の近くの民家に「助けてください」と逃げ込んだ。 男が困ったような顔をして出てきた。 「警察をよんでください!追われているんです!」 「なにに?」 「声に」 男は電話をして警察を呼ぶ。僕は民家の庭でへたり込ん

    • 死者と踊る

      世界から唐突に一人の人間が失われる。毎日500人以上の人間が自ら命を断つ。亡霊が僕の部屋の窓の外から僕を睨みつける、まるでゴジラみたいな形相で。悲しみで僕は何もできない。魂が軋み壊れそうになる。雨が降っている、箱舟は座標軸を失い星の輝きも消えた。白い鳩がオリーブの枝を咥え箱舟へと飛んでくる。亡霊が苦しまないように僕は静かに踊る、レクイエムが鳴り止まぬ、僕はずっと踊り続ける。静寂、しかしそこには物言わぬ亡霊達の言葉が溢れている。生者の言葉に耳を傾けるように、死者の言葉にも僕は耳

      • 最後の乾杯

        お金のない僕たちは晩杯屋でよく乾杯をしていた。お互い障害を負って暮らしはままならない。そんなお互いの人生を励ましあうようにビールを飲んだ。日々の疲れを酒と会話が癒した。コロナが蔓延しだしてから僕たちは会っていない。電話でお互いの近況を話したりはするが、それだけ。お酒自体を飲むことも減った。彼女と最後に乾杯したのは今年の春に公園でお花見ができなくなり、しょうがないから家でテレビに桜の映像を映して、ビールを飲んだ時だ。家で花見をするのは不思議な感覚だった。最近になって僕は血圧計で

        • 凡庸な悪について

          検察庁法改正にはもちろん反対だし、愚かだと思うが、多くの人が投票にいかなかった結果今の政権があるわけだ。そして多くの人が忘れてしまうから平気で嘘をつき続ける。それに対して今まで無言でいたから世論が行政に変わってしまったのではないか。その事実とどう向き合うか。今になって何か発言をする人は根本的に僕は信じられない。みんなが言い出したから僕も/私も言うというスタンスは世の流れが変わればまた違った方向に流れていく気がする。だから僕が信用するのは世の中がどうであれ自分で考えることができ

          ウイルス機械と国家装置

          私たちはコロナウイルスと現実的に戦争状態にある。ドゥルーズのミルプラトーの一説を読んでいて思った。少し長いが引用する。 「遊牧的戦争機械はその純粋な概念においてさえも必然的に、代補としての戦争との総合的関係を現実化し、この関係は破壊すべき国家形式に対抗するものとして発見され展開される。しかし、戦争機械がこの代補的目標あるいはこの総合的関係を現実化するまさにその時、国家の方は戦争機械を所有する機会と、戦争を国家に所有された戦争機械の直接の目標とする手段を見つけるのだ(遊牧民の

          ウイルス機械と国家装置

          僕とゴダール

          「想像力を欠く全ての人は現実に逃走する」ゴダールのさらば愛の言葉よ、はこの言葉から始まる。今、女は女である、を観ていてゴダールについて書きたくなった。僕がゴダールを知ったのは予備校の英語の授業で先生が愛の世紀について雑談をしたことからだ。先生はその映画の中で何も書かれていない本を読む男の話をしていた。僕は授業が終わったあとジュンク堂に行き何気なく映画のDVDの棚を見ていたら偶々その映画のDVDがあった。もちろん買って帰った。それを観た僕はその映画の美しさに打ちのめされた。哀愁

          僕とゴダール

          名づけられないもの

          DAY 1 僕には書くべきことが何もない。何一つとしてないのだ。それでもこうして言葉を紡いでいるのはなぜだろうか。時刻は午前3時21分。書くべきことも見つからないままこの文章を書いている。いや私は実際何も書いてはいない。何かを書いているなんてことは幻想にすぎない。それでも私は書くだろう。でも何を?何事も基本が大事だ。物事の基本は基本がないということだ。基本がないという基本に人々は立ち返るべきなのだ。私は定まらない定めだ、流れるように、固着している。僕は言う、あるいは押し黙る。

          名づけられないもの

          逃走線

          罪を犯して、うだるような暑さの中を、僕は赤い自転車に乗って、「逃げ」ていた。罪の声はどこへ逃げても追いかけてくる。 ただひたすらに道を東北に向かって死に場所を探していた。 確か埼玉県のどこかだと思う。自転車がパンクした。僕は自転車を路肩に置き去り、歩いてまたも「逃げる」 畑の近くの民家に「助けてください」と逃げ込んだ。 男が困ったような顔をして出てきた。 「警察をよんでください!追われているんです!」 「なにに?」 「声に」 男は電話をして警察を呼ぶ。僕は民家の庭でへたり込ん

          ルナあるいは生成変化するダンス

          アマゾンの森林火災について。アマゾンは地球の酸素の20%を生み出している、地球の肺と呼ばれている、だから地球規模の影響があるという。僕はアマゾンに住むルナという部族のことを想った。ルナにとって森は世界だ、世界が焼け落ち森の思考が失われていくのを見てルナは何を想うのだろうか。森をただの酸素を供給してくれるもの、とだけ考えることが人新世を引き起こしているようにも思える。  僕は子供のころアマゾンが大好きだった。見たこともないカラフルな蝶やカエル、トカゲなどが潜む森をよく空想してい

          ルナあるいは生成変化するダンス

          タクシードライバーブラインドネス

          夜勤が明けると、コービー・ブライアントが死んでいた。突然に。僕はタクシーにもたれかかりツイッターを眺めていた。タイムラインを流れてくるそのニュースに目が釘付けになっていた。 タクシー会社の喫煙所で僕は同じく夜勤を明けた虎さんにぽつりと言った。 「コービー・ブライアントが死にました。」と。 「誰やコービー・ブライアントって?」虎さんはぶっきらぼうに聞いた。 「元NBAの選手です。彼こそはスーパースターでした。」と僕は言った。 「ふーん、何で死んだんや?」虎さんはタバコに火をつけ

          タクシードライバーブラインドネス

          カルピスミルク

          致死的な逃走線を描く 赤い自転車に乗って 人生から逃げ出して 永遠の手前で俺は月を撃つ 狂ったハートが気の違った血液を身体中に行き渡らせる 狼に銃口を向ける カラスが死体に群がる 神は行方不明だ 俺はカルピスミルクを飲む 神は腐乱死体だ 俺はカルピスミルクを飲む 狂ったステップの踊りが 腐った世間のダンスを壊す 腐敗してゆく身体に魂はありますか 僕の命に価値はありますか 朝焼けの紫色の空に死を感じます 夕暮れに生活の匂いがします 帰る場所を探して散々歩いたけど 僕の居場所

          カルピスミルク

          「自由」への逃亡

          北風が身体に堪える。冬枯れの街路樹の落ち葉を踏みしめ陰鬱な冬の街路を歩く。あまりの寒さに自動販売機で缶コーヒーを買いタバコに火をつける。歩きながら「僕は何処に行こうとしているのだろう?」ふとそんな疑問が浮かんだ。僕は夜から夜へと移動している。果たして僕に朝は来るのか。光の届かぬ深海で、僕は息をしている。光なき暗闇で、僕は朝を待っている。ひょっとしたら僕はもう死んでいるのかもしれない。死者としてこの世に存在している。打ち捨てられた僕の身体から新たな生命が芽吹く。その向日葵が僕の

          「自由」への逃亡

          雨の雫としての「わたし」

          風邪が治ったとおもったら、また風邪を引いたかもしれない。しんどい。まあ薬飲んでしばらく寝込んでいれば治るのだが。 そうそう器官なき身体が受精卵のことだったとは驚いた。僕はてっきりフランシス・ベーコンの絵画に描かれる身体みたいなものだと思っていた。 年々風を捉える感覚が鈍くなっていく。まあ、僕は皮膚が溶けているみたいなものだから風が突き刺さるのだが。 オルガ・トカルチュクの文体は特異だ。そして僕の文体とすこし似ている。人と違うということは恐ろしいことだけれど、人と違うこと

          雨の雫としての「わたし」

          風邪をひいて考えたこと。

          喉の奥にかすかな痛みが残っている。ヒトライノウイルスが僕の体内でどんどん小さくなり最後の抵抗をしているかのような痛みだ。風邪をひいて三日間寝込んだ。体温は39度まで上昇した。人生の変わり目にはいつも強烈な風邪をひく。強烈な風邪をひくと身体の組成が変化する気がする。疑似的な死を通過して再生のプロセスに入っていくことを体験するからだろうか、少し生まれ変わったような気がする。 一粒の種籾は地に落ちて死ななければならない。体調の安定した三日目にバガボンドの37巻を読んでそんなことを

          風邪をひいて考えたこと。

          僕はホルモンが食べたい。

          冷たい雨がしとしと降っている。窓からは陰鬱な冬の空が見える。冬になると何故かロックを聴きたくなる。退色した景色に宇宙を彷徨っているようなサウンドがとてもマッチするからだろうか。若いときは冬の夜に近所の公園で一人温かい缶コーヒーを飲みながらロックを聴いて物思いにふけっていた。僕は宇宙を彷徨う鉄くずの惑星を歩く孤独な兵士のように夜の街を歩いた。鮮やかに色づいていた世界は静かに退色していく、とても静かに、でもはっきりと。電灯がジジジとかすかな音を立てている。夜の静寂。国道沿いのラー

          僕はホルモンが食べたい。

          宇宙人と僕

          「ワレワレハカイホウサレタ」とその宇宙人は言った。 「何から?」と僕は聞く。 「ワレワレヲシハイスルモノカラダ」と宇宙人は続けて言う。 「つまりそれは宇宙人の中にも社会みたいなのがあって社長だとか専務だとか部長だとか課長だとかカーストみたいなものがあったということ?」と僕は聞いた。 「ソウダ。ワレワレハカイホウサレタ」宇宙人が答える。 「オマエタチハナゼカイホウサレナイ?」と宇宙人が問う。 「そういうものを無くしたら、僕たちはどうすればいいのかわからないから」と僕

          宇宙人と僕