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【え20】見た目が9割とは限らない。

地方にある小さな夕刊紙のライターであっても。
エリア内で行われる選挙に立候補する方へのインタビューは、気を遣う。
いや。そんな状況に身を置くライターだからこそ、気を遣う。

地方議員は余程のことがない限り、4年という任期が保証される。
地方議員は余程のことをしない限り、4年間はご飯に有りつけられる。
彼らに行ったインタビューを書き起こすペンの一文字一文字に、気を遣う。
下手なことを聞き、それを書いてしまえば誤解を生む。
結果として、その人を4年間「只の人」にしてしまう可能性もある。
それ故に非常に気を遣う。オーバーな表現ではあるが。

現職や元職であれば、有権者は一定の情報を持っている。
無名なフリーライターの書き起こし記事なんぞ、無視してもいい。
いや、ガン無視されて然るべき。

最も気を遣うのは「新人候補」だ。
事前情報をある程度つかめている新人候補であっても。
情報すらない真っ更サラピンの新人候補であっても。
現職議員や元職議員より、有権者への情報量が少ない事に変わりはない。
無名なフリーライターの書き起こし記事を、無視できない事だってある。
妙なインタビューは、有権者を惑わせるだけ。
深入りするような中身は、読者に見透かされて逆効果だ。

1人目。
「大変おおらかであると云うのが、率直な第一印象です。地元の方々からの信頼も厚いのではとお見受けしますが、いかがでしょうか」
「よく言われますよ。小学校のPTA会長もしてますから。会長職は信頼感が一番だから。それは仮に議員になったとしても同じ。変わらんよ」
「私もそう思います」
「それにしても、第一印象から私の『人となり』が分かるなんて、大したもんだ。あんなちっぽけな新聞社に置いとくのは勿体ないよ」
「恐れ入ります。ところで、既に後援会の準備も万全だとお聞きしました。一定数の支持は固まったと見て宜しいのでしょうか。だとすると、支持者との関係性も深いと思って宜しいですか」
「私は前々からね、人と繋がるという事を苦にしないんですよ。(昔から住んでいる)古い人とも、新しく越されてきた方とも、同じ目線で訴えてきた結果だね。勿論、◯◯先生の地盤を引き継いだという事もあるけどね、(◯◯先生の支持者を)逃さなかったね。私の思いが通じたんだろうね」
「先生の表情で、それは伝わってきます」
「そうか。顔に書いてあるんだな」
「ええ(笑)。ところで当選した際、議会ではどのようなお仕事をされていきたいとお考えでしょうか。今は市長が『A案件』を(議会で)通そうと必死になっていますが」
「私は賛成派だから、それを疎かにする訳にはいかんよね。今の課題と向き合わないと。議員となるべき者は、今ある問題を中心に仕事をしないと務まらんよ」
「『A案件』に一定の見通しが見えた場合は、次に出て来る問題を解決していくと」
「そうだね。終わったことをグジグジ言っても仕方ないよ。それに、先々の事なんて誰にも分からん」
「今ある事に集中すると。そのポリシーは絶対に変えないと」
「そういう事だな。誰が何と言おうと、まずは目の前の問題なんだよ。先の事は、それが『まな板』に乗っかった時に解決すればいいんだから」
「なるほど」
「君は話が早いから助かるよ。◯◯新聞のインタビューは長かった。君の方がよっぽどいいよ」
「ありがとうございます。当選した際は『A案件』に賛成する会派に入ってのご活動ということで、お間違えはありませんね」
「まずはそうなるね。当然ながら◯◯先生のいらした会派で仕事をすることになるだろうね」
「現職の方に教えを請うと」
「そうだね。素直な気持ちでやっていきたいね」

2人目。
「大変おおらかであると云うのが、率直な第一印象です。地元の方々からの信頼も厚いのではとお見受けしますが、いかがでしょうか」
「とんでもない。そもそも(地元には)長く住んでませんから。私の意見に同意してくれた人が背中を押してくれた。それだけの事ですよ」
「地元単位ではなく、市の全域で支持を集めようと」
「結果として、そうなりましたね」
「後援会組織を持たないというお考えも、それがベースであるとお考えなのですね」
「広く支持を集めるからといって、全域に事務所を構えるのは合理的ではないじゃありませんか(笑)。それに後援会を持つと、人との接触が増える訳でしょう?私はそういうのが苦手でして…だから若い皆さんがSNSで支持を呼びかけてくれる。とてもありがたいですよ」
「まさに『勝手連』が動いてくれている訳ですね」
「現状は、そういう事になりますね」
「若い方は『A案件』の事に対して無関心だと聞きますが、それを汲み取った形で政策をお立てになられた訳ですか」
「その通りです。今動いている事には興味がないんですよ。それよりも、以前から抱えている問題なり、必ずやって来るであろう問題に目を向けるのが、本来の仕事だと思うんです」
「若者は『A案件』をクールな目で見ていますからね」
「そうですね。意外と『温故知新』ですよ」
「そういうお考えだと、当然データの集積が必要だと感じているのですが、いかがですか」
「それも必要ですが、意外と頑固というか…感情に流されるんですよ。データは揃っている、ベースは固まっている。そういう状態でも、何というか…自分が出ちゃうんですよ。自我といいますか」
「お話を聞いて驚きました。冷静沈着な方と思っていましたので」
「考え方としては、破綻してますよね」
「とんでもないです。今までのお話を総合すると、やはり会派に属することなく活動をされるという事になりますね」
「いえ。一人では何も出来ませんから。仕事をすることになれば、やはり何らかのグループには入りますよ」
「そうですか。それも驚きました。会派入りすると『しがらみ』も生まれますが…」
「ある程度の行動をすれば、細かいしがらみは許してくれるのではないでしょうか」

3人目。
「大変おおらかであると云うのが、率直な第一印象です。地元の方々からの信頼も厚いのではとお見受けしますが、いかがでしょうか」
「いえいえ、私は『担がれた』だけです。もっと似つかわしい方がいると思うんですがね」
「そうですか。あまり乗る気ではなかったと」
「そうだねぇ。場違いな感じがしてね」
「とんでもありません。そのようなシャイなお気持ちは重々伝わります」
「それがね、そうでもないんですよ。ご存知の通り、地元の野球チームに属してますし。実はあのチームは、私が音頭を取って作ったんですよ」
「そうなんですね。勉強不足で失礼しました」
「まだお若いから(笑)」
「面目無いです。そうなると、この地域は『A案件』の舞台であり、反対意見が多いですから、そういった声を第一に仕事をされていく訳ですね」
「実のところ、現在進行形の事には興味が無いんです。それよりも、以前からの課題である道路整備や、来年度に統合される小学校の跡地問題のほうが重要です」
「なるほど。『A案件』に関しては議会の動向に任せて、前々からの問題や、先々の事を中心に訴えていこうと」
「そうですね。そちらのほうが地元にとって重要ですから」
「驚きました。地元では熱気を浴びている問題ですから、てっきりその動きに乗られるものだと」
「『A案件』は一時的な問題です。もっと重要な問題は山積みです」
「そうですか。そうすると、しっかりと地元の意見を拾い集めて、足元を固めていく訳ですね」
「いや、そういう事でもないんだなぁ。当然ながら地元の意見は聞きますけどね、人情ってものがあるじゃないですか。100人いれば100通りの意見が出るかもしれない。それを細かく分析するより、近所のお婆ちゃんの意見に流されたりすると思うんですよ。地元の代表としては良くないんだけど」
「いえ、純朴なお考えだと思います」
「そう解釈して頂けると、嬉しいです」
「最後になりますが、当選された場合は、どの会派へお入りになられるご予定でしょうか」
「いやいや。『一人会派』でやっていくつもりでいます。何かあれば随時地元に持ち帰って、そこで話を聞く。その結果を議会で出していくつもりです」
「お一人で活動される訳ですか」
「選挙前から前途多難ですがね(笑)」

絵に描いたような地元の名士。
他の街から移り住んだ元学校教員。
地元の野球チームの創設メンバー。
誰がどうという訳ではない。主義主張に異議を唱えてはいけない。

話のアプローチを同じにするのは、自分の流儀。
そこから先は、スムーズに話が進むこともある。
第一印象とのギャップに、大いに裏切られるケースもある。

見た目で適当な事を書いてはいけない。
それがライターの「最低限のルール」なのかもしれない。