(理学療法)脳卒中急性期評価のポイント


・救急診療では脳卒中様の症状を呈する他疾患ーAdams-Stokes症候群、代謝性疾患、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍などを確実に除外する。
・救急時の脳卒中診察ではBabinskiなどの反射テストに信頼性、再現性が無い。随意運動が一番障害の予後に関係がある。よほどの意識障害で無い限り、Brunnstrom,上田法など随意運動の評価をするべき
・入院後麻痺が悪化する場合もあるので随意運動の評価は経時で 2割強の患者は発症第2病日以降も症状、障害の進行が続く。
・意識障害のチェック時に病識、注意も併せて評価する。意識清明といえる患者は入院時には2割程度しかいないので、意識障害を見逃すと転倒事故につながる。7シリーズをやってみて、93-7ができなければ軽症意識障害の可能性がある。
・3桁の昏睡患者の生命予後は極めて不良、8割が死亡する。ただし60歳代までなら3桁の意識障害でも、救命さえできれば意識障害そのものは回復する。70歳以上の場合2桁以上の意識障害があると、5割が認知症、3割が遷延性意識障害に移行する。さらに高齢者の場合、脱水が続いても傾眠になる。
・バルーン留置は失禁や尿閉を誘発するので3桁の意識障害や心不全・肺炎などの合併で厳重に尿量を管理しなければいけない場合を除き、バルーンはすぐに入れない。

・脳出血について 大出血、意識障害3桁、さらに意識障害が進行する場合は手術の方が生命予後は良い。これらの患者を内科的治療で救命すると植物状態や寝たきりになることが多い。
・皮質下出血や小脳出血は内科治療でも機能予後は良好 脳外科手術後は安静を強いられるのでその間に廃用や拘縮が進んでしまう。

・救急治療後、看護士に期待することは3時間おきのバイタルサイン、意識障害のチェック、転倒予防

・脳卒中患者の15%がリハを中止しなければならないほど重大な内科的疾患を合併している。
・意識障害が1桁になり、全身状態が落ち着いてからの評価項目・・・ 意識レベル、筋萎縮、筋緊張、ROM、触覚、位置覚(手足の母指チェックなど 中等度以下の深部覚障害は歩行の障害にならないので敢えて鈍感なテストにする)、痛覚 を簡潔に、短時間で
・リハビリに反射はほとんど意味が無いが、筋緊張は大事 その程度によって装具の必要性などが違ってくるため
・脳卒中患者のうち2割は一ヶ月以内に死亡、自然治癒する患者も2割、運動障害の無いSAH患者が5%、これらを除くとリハ適応になるのは全脳卒中患者の約5割

機能障害の予後予測
・同じ不完全麻痺でもstage3と4は全く予後が異なる。上下肢とも、発症後2週以内にstage4以上なら年齢を問わず6ヶ月以内にほとんどがstage6まで回復 
・それに対して発症1ヶ月でstage4の場合stage6まで回復する患者は2割 stage5まで回復していれば9割はstage6に達する。  
・発症時stage3の場合、stage6まで回復するのは半数
・上田のテストNo4ができればstage4,No8ができれば stage5以上と判断

・下肢の麻痺は発症後2週で47%、1ヶ月で72%、2ヶ月で86%、3ヶ月で94%の回復に達する=発症3ヶ月以降の回復はほとんど期待できない。
・完全麻痺の場合、年齢が影響 70歳以上ではほぼ半数が永遠に完全麻痺

ADL予後予測
・屋外歩行 屋内歩行 ベッド上生活自立 全介助 区分について 「しているADL」で評価 全介助はさらに基礎的ADL(食事、尿意、寝返り)のうち何項目が自立しているかを評価
・予後予測基準の第一のポイントは入院時の自立度 入院一ヵ月後までにベッド上生活自立すれば最終的に歩行可能
対して、入院二ヵ月後までにベッド上生活自立すれば7割が歩行可能だがほとんどが屋内歩行にとどまる
入院時基礎的ADLが2項目以上自立すれば最終的に歩行自立(70歳以上)
・69歳以下の患者では発症時基礎的ADLが1項目自立できていれば最終的に歩行自立
・麻痺が軽いと、意識障害、痴呆、半側無視などの歩行阻害因子出現率が少ない。
・発症時2,3桁の意識障害があると、70歳以上では自立歩行困難
・発症後2週で基礎的ADLが3項目とも全介助で、60歳以上の場合、自立歩行困難
・発症後2週で起居移乗動作が全介助で①2桁以上の意識障害 ②重度の認知症または夜間せんもう を伴う患者は全介助どまり
・発症1ヶ月で60歳以上、基礎的ADL自立が1項目以下  または60歳以上、①2桁以上の意識障害 ②認知症を伴う ③両側麻痺 ④1ヶ月経っても高度の心疾患をも持ちリハビリに移行できない場合も、最終的に全介助
・心疾患は脳卒中発症で悪化することが多い。

・1ヶ月の時点で明確に予測できないケースについて。59歳以下では能力障害、機能障害の程度に拠らず予測不能 59歳以下では9割が歩行自立する。 
60歳以上で基礎的ADLが2項目以上自立していて、遷延性意識障害・認知症・高度心疾患・両側障害の一つも持ち合わせていなければ半数以上は歩行自立するため、予測不能としている。
・CT所見では予後予測ができない。臨床症状や障害の程度から評価した方が予後が分かる。
・入院期間はstage1,2で3ヶ月、stage3 2ヶ月 stage4以上で1ヶ月から1ヶ月半
・70歳以上の高齢者 発症3ヶ月で麻痺がプラトーに達している患者は91%、起居移乗動作は93% 69歳以下なら起居移乗動作には回復の余地がある。

年齢で分けた予後予測
・80歳以上 運動障害が重度なだけでそれ以外に重大な機能障害が無くても歩行自立不能
・70歳以上 発症時2,3桁の意識障害では。下肢stage4以上で無い限り自立歩行困難
・60歳代  運動障害が重度でもそれ以外に機能障害が無ければ歩行自立
・50歳代  重度運動障害+重度機能障害でも長期間のリハで歩行自立

高齢者の場合は発症前からADLに制限のあるケースが多い。病前から屋内歩行以下だった場合、発症時stage4以上でなければ自立歩行不能
Stage4以上なら年齢に関わらずほぼ全員がStage6にまで回復するのに対してStage1,2なら年齢の影響を受ける。

歩行
・歩行能力は6ヶ月がプラトー
・平行棒内歩行は監視介助歩行にも入らない。平行棒内歩行にとどまると歩行獲得困難

バランス障害、意識障害、認知症

・バランス障害があると歩行予後は不良 歩行自立は4割にとどまる。
・小脳出血・梗塞は四肢よりも体幹に強く失調が出る。体動時の眩暈は発症1ヶ月を越えても続くことが多いが歩行自立はほぼ1~2ヶ月で達成する。
・2週間2,3桁の意識障害が続けば全介助にとどまる 遷延性意識障害、または植物状態になるのは5%
・軽症意識障害は2週の時点で重度認知症と鑑別がつき、1ヶ月で中度認知症と鑑別がつく。 59歳以下の認知症発症は2.7%、70歳以上で44.8%
・HDS-R 10点以下 歩行不能 10~20点はグレーゾーン
・認知症に伴う夜間せん妄が2週間以上持続すれば歩行予後不良 
・右麻痺の夜間せん妄出現率8.7%に対し、左麻痺では22.5%と3倍 さらにUSN患者では38.1%
・失語症の発症率は麻痺が重度であるほど高い。Stage1,2で32.4%
・USN患者の半数は1,2ヶ月で改善 2,3ヶ月持続する重度のUSN患者は歩行予後も不良

合併症
・中等度、高度(うっ血性心不全が主)の心疾患を合併する患者は15% 認知症を中心に2,3桁の遷延性意識障害、両側障害、高度心疾患の「4大阻害因子」を持つと予後が悪い。
・80歳以上の患者では1/3が内科的疾患のためにリハを中止せざるを得ない。これがきっかけで廃用性症候群となり寝たきりになることも多い。麻痺が重度だと内科的疾患疾患の合併率は26.8%と高くなる。
・筋骨格系疾患憎悪は急性期リハ患者の12.4% 一番多いのが膝OA 脳卒中発症1ヶ月後に合併することが多い。
・アパシーは6%にみられた。多くが基礎障害として認知症やUSN、注意障害、軽症意識障害をもっており、アパシーは独立因子でなく複合障害として捉えて良い。。

看護師の役割

・早期から全身状態を管理、発熱による訓練中止は看護師が判断する。
・基礎的ADL(食事、尿意、寝返り)、整容、排泄動作訓練は看護師が主導する。寝返りは手すりを使わせる。
・座位が取れなくても、提舌・咽頭反射・軟口蓋挙上不可でも(この3つができれば安心、という位置付け)意識障害1桁、全身状態が安定すれば嚥下訓練を開始、点滴から離脱する。
・9割の患者は最終的に経口摂取が可能となる。
・プリン、ヨーグルトが食べられたら全粥に移行 大部分は普通食への移行が1週以内 アルブミン値低下は1ヶ月までは許容範囲、この期間内に経口摂取ができれば良い。
・発症直後から座位耐性訓練を開始 1日に何回も振り分けることで起立性低血圧を予防する。まずは30度15分、1日1回から始める。ここから順次角度と時間、回数を上げる。2桁以上の意識障害が続くケースを除けばほぼ1~2週間で90度30分までか可能になる。 30分耐性がついたら車椅子へ
・バルーン留置となるのは約4割、大半は1~2週間で抜去できる。
・定期的に体位交換を行い、褥瘡を作らない。手すりを使って積極的に寝返りをさせる。
・ポジショニングによる拘縮予防は不可能 早期にROM訓練を始める
・整容、排泄動作は看護師主導 病棟の起居移乗動作レベルも看護師が決める。
・座れるようになったらPT,OT主導の訓練開始

PT,OTの役割
・3桁の意識障害、または内科的に不安定でなければ関節可動域訓練ができる。 Hirschberg「臥床は1日から3日までにすべき」を遵守 
・特に老人に2~3週間の安静を強いてはいけない。 「発症2週までは頭部挙上もしない」は3次病院の知見を拡大解釈したもの。一般病院に適用するべきではない。 意識障害1桁、全身状態が安定していれば座位訓練を開始すべき
・座位耐性15~30分でリハ室へ
・麻痺が軽い患者、小脳梗塞などバランス障害の患者はプログラムをスキップして積極的に歩行訓練を進める。そうすることで健側の筋力訓練もできる。早期に歩行自立できそうであれば車椅子訓練もスキップする。
・医師、看護師に任せずPTも心肺系の異常に習熟すべき
・プラトーに達するのはおよそ2ヶ月 stage3,4の患者はそれまでに装具をつける。いつまでもファシリテーションテクニックに固執しない。
・拘縮予防のスプリントに効果は無い。早期から関節可動域訓練を行えばほぼ100%四肢の変形・拘縮を予防できる。
・完全麻痺でも、発症直後は上肢機能回復訓練をやるべき

二木予測の特徴は「機能障害でなく、能力障害で予測を立てること」にあるそうです。また、回復は発症後2~3ヶ月までが最大なのでその間に集中的訓練を行うことを強調していました。そのためにも良くなる患者とそうでない患者を振り分ける必要性があります。
最終的には自立歩行不能、または寝たきりになる患者は医学的リハの不適応なので家屋改造、家族指導、社会資源の活用など「安全で円満な家庭復帰」に向けて努力する、というようにしないと「回復が一番少ない患者に最もPT,OTがされていた」という皮肉な結果になると懸念されていました。

「予測時期は遅くとも発症時期から一ヶ月以内で無ければ急性期における予測としての意味を持たない」ので現在でも「二木の予測は最も有用」です。(原 CR2001,4)

一ヶ月以内までの予後予測、という点で再編集しました。↓

・歩行
初診時15秒端座位保持可能であれば4週以内に歩行可能 座位保持不能であれば歩行やADLに介助、監視要 
mFIM発症2週後25点以上、4週35点以上であれば歩行可能で自宅復帰の可能性 

入院一ヵ月後までにベッド上生活自立すれば最終的に歩行可能 
発症後2週で基礎的ADLが3項目とも全介助の場合、自立歩行困難 
2週間2,3桁の意識障害が続けば全介助にとどまる(二木)

・上肢
発症後1~3週前後から随意運動改善、筋緊張亢進しない場合は回復良好随意運動の回復よりも連合反応、深部腱反射や筋緊張亢進が顕著となる場合は回復不良 
発症後1ヶ月で手指のSIASが3(全指の分離運動可能)であれば5割の確率で 4(分離運動を軽度のぎこちなさで可能)以上であれば8割が実用 0であれば7割が全廃(道免和久) 

4週までにグレード9に到達しなければ、それ以降9以上には回復しない 

上下肢とも、発症後2週以内にstage4以上なら年齢を問わず6ヶ月以内にほとんどがstage6まで回復 
発症一ヶ月でstage4の場合stage6まで回復する患者は2割 stage3の場合、stage6まで回復するのは半数(二木)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?