「うつ病の原因となった過去を過去と割り切ること、起きることをネガティブに受け止めすぎないようにする」治療法は「労働者に認められる正当な権利の範疇を超えるもの」なのか

タイトルを見て、理論が飛躍していると感じられた方がいらっしゃるかもしれない。事実、私もそう思っている。だが、会社からの回答を要約したらこうなるのだ。
これについて考えていることを、以下に記載していく。

背景

前回の休職からの復職時、私は主治医の指導のもと、「うつ病の原因となった過去を過去と割り切り思い出さない、起きることに対してネガティブに反応しすぎない」(長いので、以下『反応しすぎない練習』という)を心掛け、薬を服用していれば症状が出ないところまで改善し、復職リハビリを経て復職をした。

復職後間もなくPIPが開始された。うつ病の治療中であるためその旨と反応しすぎない練習中である旨を告げた。だが、PIPを進める役員・人事・上司に「PIPを”あなたの成長のためにしようとしているのに”、不足点に向き合い、真摯に反省し、改善するつもりがない」と受け取られてしまい、私は反応しすぎない練習を心がけ続けることが出来なかった。

そして、今回の休職においても、主治医の指導のもと、反応しすぎない練習を心掛け、薬を服用していれば症状が出ないところまで改善した。
一方で、上記の一件があったため、復職リハビリに入るにあたり、私は以下の点を産業医及び会社に尋ねた。

<会社・産業医への相談>

  • 現在の治療方針(うつ病の原因となった過去を過去と割り切り思い出さない、起きることに対してネガティブに反応しすぎない)による回復が会社の求めるものと異なる場合、不足点をご指示いただきたい。

  • 復職リハビリで達成する業務負荷として、前回の休職時同様、プロジェクト遂行にかかる業務知識、スキルの研鑽等を想定している。それ以外に取り組むべき事項があれば会社・産業医側から「課題」としてご提示いただきたい。

会社側からの回答(要約)

  • 現在の治療方針自体について、特段コメントはない。思い出さないようにする、ネガティブに反応しすぎないようにすること自体は結構だ。(”ネガティブに反応しすぎないようにすること自体は結構”という文言はメールからそのまま抜粋)

  • ただし、通常業務を行うにあたり、不足点や期待値を告げてはならず、上司のFeedbackをしてはならないということを許容しなければならないのは、労働者に認められる正当な権利の範疇を超えるもの(太字部分はメールからそのまま抜粋)

  • 会社の指摘する不足点に疑義がある場合は、認識擦り合わせのために、過去の事象を振り返る必要がある。疑義はあるが振り返りはしたくない、という主張は受諾できかねる。(太字部分はメールからそのまま抜粋)

  • 当社として、このような状態は、そもそも通常業務が行える状態にないと判断している。(メールからそのまま抜粋)

補足

私は、通常のプロジェクト業務におけるFeedbackを受けることが困難であるとは思っていないし、一度も言ったことがない。PIPの「具体的事例もないまま一方的に指摘される”不足点”」「達成基準不明確な”期待値”」「退職勧奨まで”会社からのFeedback”の一環であるとされ、前向きに受け入れるように求められたこと」等が精神的負荷となったのであり、それについての疑義を呈しているだけだ。

考えていること

うつ病の治療関係の書籍等を見ても、「うつ病の原因となった過去を過去と割り切り思い出さない、起きることに対してネガティブに反応しすぎない」を心掛けることは一般的な治療法と考えられる。このように心がけるようにしながら復職を目指している従業員も多いのではないだろうか。
それなのに、この心掛けは「通常業務を行うにあたり、不足点や期待値を告げてはならず、上司のFeedbackをしてはならないということを許容しなければならないのは、労働者に認められる正当な権利の範疇を超える」ものなのだろうか。
恐らく、そうではないと推測する。もしうちの会社が言うように、復職困難なマインドセットであるならば、(他社でも)大勢の従業員が復職を拒否され、この心がけでうつ症状が改善しても復職は出来ないと世間に広まっている筈だからだ。

では、何故、うちの会社は私にこの回答をしたのか。
思い当たるのは、会社による従業員の取捨選択だ。

記事を書くたびに繰り返している気がするが、うちの会社は外資系コンサル企業の中でも従業員の職場環境の改善、働き方改革に取り組んでいると世間的に評されている。(ちょっとネットを検索するだけで、賞賛する記事はいくらでも出て来る)
一方で、世間一般的な復職基準とは異なる基準をうつ病の復職希望社員(私)に対して課した

会社の素晴らしいHPと、私に送られてきたメールを見ながら、この2つが同時に成り立つロジックを考えた。
うちの会社の職場環境の改善、働き方改革は、”今働けている社員””復職させた方が会社にとって都合がいい社員”に対して提供されるものであり、脱落した(もしくはそう会社が見做した)社員は”社員として扱う必要のない社員””あとは退職させるだけの社員”と考えれば筋が通る。
そして、私がこの会社で勤めていた数年間、この会社がコンプライアンスを遵守していると信じていたのは、「そうではない社員が可視化されない」ある種の生存者バイアスの中で働いていたからではないか。

だが、このように一部の従業員を透明化してしまう企業は、従業員の健康や安全に配慮している企業と言えるのだろうか。
この社員は守る、この社員は対象外……会社に選抜されなかった社員も社会の構成員である。メンタルヘルスで休職している社員の職場復帰に関しては厚労省等からの指針も出ている。
何より、その選抜を、病気からの復職という場で行うのは倫理的にいかがなものだろうか。
従って会社は、復職可能な社員に対してこのような理屈で復職拒否をするべきではないと考える。


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