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シーソーシークワサー【16 ハガユイトワイライト】

↑ 前回までのあらすじ

【シーソーシークワサー 15 ハガユイトワイライト】

 

 じめっとした空気に西陽が乗っている。駅の南口に差し込む夕陽は、さっきまでの雨がつくった水たまりをも煌かせている。またロータリーを超えた向こうに、あの路上ガールがやってきて、俺のためにラストに歌ってくれた曲「いい恋」を弾き始めた。きっと彼女は遠目でも、俺を視界に捉えている。そうどこかで直感する。

 17時半、彼女は約束通りに現れた。「定時にスパーンと終われるタイプだから」。そう言ってたハガちゃんは、昼に見た事務服姿とは変わって、ワンピースを来ていた。
職業病というか、つい、口にしてしまった。
「おつかれ。ワンピース、似合ってる。いい色だね」
「おっつーーーー!さんきゅ、で、何食べます?」


 サクッと軽い返事が来て、一気に緩んだ。
 店にいた時なら「きゃー、はるみくーん、嬉しい!」を引き出すまでに時間をかけていたことだろう。でも、もう、今はそれも必要がないのだ。
「鹿児島って、何がおいしいの?豚?」
「あーーー!それって思い込み!まあ、推してるっちゃ推してるんだけどね。嫌いな食べ物、ある?」
「えと、ないかも」
「じゃ、わたしのおすすめの『美味しい店』でもいいかな? 素敵なおじいさんがひとりでやってるんだけどね、あのサンドイッチ、食べてみて欲しいんだ」
「夕ご飯なのに、サンドイッチ?」
「あ、いや?」
「嫌じゃない、けど」
「じゃ、決まり!」
 また違った。ハガちゃんは、今まで出会った子と全く違う。
 島にいた頃は、イタリアンがいいとか、新しくできた店をクーポンでチェックしたから同伴はそこがいいとか、そんな女の子が多かった。選んでいる基準というか、そんなところは、既読スルーしたまま待たせている絢に似ている。
「ほら、何してんの? いくよ」
 彼女はもう歩き出していた。
「ああ」
 小走りについていく途中、路上ガールは歌いながら含みを持った口元に、俺と眼を合わせて、微笑みかけた。俺も、目で返した。

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