シーソーシークワサー【22 居待の夢】
前回までのあらすじ
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【シーソーシークワサー 22 居待の夢 】
「ああ。待たせたね」
隣に絢がいた。それでも受け入れている自分がいる不思議さにまだ気づいていなかった。
「ははっ、待ってない待ってない。今来たとこだから」
「そうだっけ……」絢は「いつもの席だ」と言った。
ああそうだったか。このカフェには見覚えがあるな。東京にもこんな場所があったのか。カフェオレが好きだという絢に連れてきてもらったのか、そのはじまりも思い出せない。
本棚にはズラリと名作が揃い、手塚治虫や藤子・F・不二雄作品もある。母にいつも叱られていた整理のつかない中学生ごろの本棚によく似ている。
「お待たせしました。カヌレとホットカフェオレです」
「ああ」
上の空の凡人を呼び戻したのは、天然パーマが可愛いメガネのスタッフさんだった。
おかしい。いつもならブラックコーヒーなのに、カフェオレとカヌレだと言った。
「あれ?僕の?」
「変なの!どうしたの?いつものじゃないの?」
絢は笑った。そういうなら、きっと、間違いはない。確か、店にきた時に絢が好きだと言っていたそのセットを、自分も好きになったのだろう。
枯葉が吹き込んでくる店内の足元は、妙に寒い。沖縄にはそんな風は吹かなかった。やはり、僕の勘違いなのだろう。
今はもう、絢が働いているという虎ノ門にいるのだ。けれども、扉を開けっ放しなのか、店の中まで枯葉が積もるとは、理解し得ない部分が多い。おかしなことになってきた。
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