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blossomdate 【03 アサガオノサクミライ】

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01 café au lait

02 Iced Coffee

03 アサガオノサクミライ

04 アールグレイな午後

05 café mocha


03 アサガオノサクミライ


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 庭の窄んだ朝顔ひとつを見つめ、水やりをしていた母の憂いを帯びたその横顔に、凛は躊躇いながら、そっと話しかけていた。


「ねぇ。お母さん……えっと、急なんだけど、お願いがあるの」
「何~? ペイフのこと?」
「うーん。それもちょっとあるんだけど、お母さんがよく着てたあの浴衣、着てみたくて」
「夏祭り? 誰かといくの?」
「――うん。ダメ?」
「いいわよ。出してあげる。何時に出る?」
「6時には迎えに来てくれるみたい」
「先にフローするね。これくらい?」


 母はテラスからリビングに戻るその僅かな間に凛のウォッチに送金を済ませていた。ウォッチにはいつものお小遣いの倍額の金額が通知されている。


「えっ? こんなに? いいの?」
「だってデートなんでしょ? 何があるか分からないから」


 母がクローゼットから出してきた藍の浴衣には、ちょうど庭のと同じ色の朝顔が描かれていた。「いつか、凛に大切な人が出来て、コレを着たいと思ったら、その日に着せてあげる」と、母は自分の浴衣を着る度、凛にそう言っていた。凛はそのことをすっかり忘れていたのに、メイクが終わった後も、服選びに悩み続けていたら、母の浴衣のことを思い出したのだった。


「ありがと。でも、どうしてデートだってわかったの?」
「私も同じくらい輝いてた時があったからかな。それとね、この浴衣は、特別だから」
目尻にシワを寄せながらククッと笑った化粧っ気ない母の顔は少し幼く見えた。

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