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春は雨から
雨が降ると、春の訪れを実感する。
雪が降るこの街では、雨は気温を測るものさしのひとつだ。真冬の雨というのは殆どなくて、時々降るものなら「今日は気温が高いんだね」という台詞が挨拶についてくるだろう。
本格的な冬がくる前は、それまでの雨粒が大きくなってベタつきを持ったみぞれになる。だんだんと寒くなるにつれ、透明な粒は白く色づく。
冬の終わりはその逆で、雪が水分を含んで重たくなった雪から徐々に色が消えていく。
そして、ここに降る雨には匂いがあるように思う。
というのも、冬の間、ほんとうにすべての物が雪に覆われている街なのでただただ「白」を感じる日々が続く。アスファルトも白、車も白、家々の屋根も白い。感覚がちょっとした麻痺をするというか、白と雪が持つ独特の静けさ以外を感じにくくなるので、感覚がかなり鈍くなる。
そういった毎日の後に降る雨は、冬眠をしていたような私の五感を刺激するのだろう。
大して降っていない雨の音で目が覚めるし、ゴミ出しの道すがらに包まれる広がる雪とは違った湿っぽさに、頭がくらっとする。そしてその街全体を包む湿っぽさが、ずん、と鼻にくるのだろう。それまでただただ寒かった空気が生温くなり、季節が変わる匂いがする。
寝癖とパジャマとつっかけの、ゴミを出すだけの格好のまま思わずスキップしたくなる。嬉しくなる。今なら全然大通りとか出れちゃうくらいだ。
春は雨から、匂いから。
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