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『サマーオブソウル』と1969年のアメリカ

『#サマーオブソウル』の副題の「Revolution will not be televised」はギル・スコット・ヘロンの名曲から引用してるけど、映画にはギルは出てこない。このときギルが所属していたのはニューヨークにあったフライング・ダッチマンというレーベル。この曲はラップの原型っていわれることもあるし、リズミカルな詩の朗読とも言われている。

マーチン・ルーサー・キングやロバート・ケネディが前年に暗殺されていて、マルコムXの死と合わせて、1969年は、黒人の悲しみがピークになっていた時期でもある。MLKの暗殺の現場にいたジェシー・ジャクソンなんかも出てきて、追悼空間と化している時間もあった。

公民権に兄貴よりも関心の強かったロバート・ケネディに黒人層は期待している部分があったから、悲しみも大きかったんだろう。ポール・フスコ『RFK』というロバートの葬式のときに、棺桶を運ぶ列車の車窓から、線路の脇で悼む人を撮った写真集がある。そこに写ってる黒人がやたらに多い。素晴らしい写真集だ。

ロバートが生きてればニクソンは大統領になっていなかった。ベトナムや公民権運動のその後、兄貴の暗殺の捜査やウォーターゲート事件などいろいろな歴史が変わってただろうなって思えて、マヘリア・ジャクソンとステイプルの歌を聞いているだけでものすごく泣けてくる。映画を観てアメリカの現代史を知ってもらうと、さらに映画の深みが増すと思う。note でも何回か書いてるので、アメリカ現代史のオススメ本と映画はコチラをどうぞ。

音楽的に面白かったのは、モンゴ・サンタマリアなんかのニューヨリカンがコンガをガンガン使っていて、スティービー・ワンダーやマービン・ゲイなどの1970年代のニューソウルにつながる音楽が、1969年にNYのシーンでは普通にあったこと。ニューソウルというのは、ダニー・ハザウェイやカーティス・メイフィールドなども含めて、黒人が社会問題を取り上げてシリアスな主題を歌い始めたムーブメントのこと。

黒人が奴隷としてアメリカに上陸したときに、アフリカからの打楽器が持ち込み禁止されていて、コンガなどの打楽器が中南米やカリブの島々だけに残っていたけど、アメリカ国内でブルースやジャズが生まれたときには、持ち込みができなかったので、リズムは2拍子や4拍子のリズムが使われて、ポリリズムは使われなかった。音楽的には、そうしたオリジンを取り戻す行為だったのだろう。もちろん、マービン・ゲイの『What's going on』にもコンガは使われてる。

それにしても、1960年代のアメリカは社会を変えようとするリーダーたちが暗殺されまくっている。JFKとロバートの兄弟、MLKやマルコムXなどの黒人のリーダー、暗殺ではないけど、サム・クックやマービン・ゲイも銃で打たれて死んでいる。

『サマーオブソウル』という映画では、ハーレム・カルチュラル・フェスティバルの祝祭感と1969年の黒人の悲しみとが両方感じられる。そういう複雑な感情の動きを丁寧に追いかけた素晴らしいドキュメンタリー。


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