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最も優秀な人が簡単に失敗する理由『フォッグ・オブ・ウォー』

ベトナム戦争がなぜ起こり、アメリカはなぜ失敗したのかというテーマを、デビット・ハルバースタムの『ベスト・アンド・ブライテスト』を読んで以来、個人的に追いかけ続けている。読んだのはちょうど20歳の時だから、30年前ということになる。

映画『フォッグ・オブ・ウォー』はケネディ政権、その後のジョンソン政権で国防長官を務めていたロバート・マクナマラの回想録で、76回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を受賞している。当時のケネディ政権には、本当に優秀な人材がいたにもかかわらず、なぜベトナム戦争のような失敗をしてしまったのかという疑問に対するひとつの回答がここにはある。

T・S・エリオットの詩を、ロバート・マクナマラが引用してベトナム戦争を国防長官として指揮していた時代を振り返るシーンが切なくて心動かされる。以下、映画より引用。

どんな司令官も戦争の際にミスを犯している。〝フォッグ・オブ・ウォー〟戦争は霧の中の存在だ。戦争は複雑で、すべての変化を読むことは人間にはできないという意味だ。我々の判断力や理解力には限界があり、不必要な死者を出す。ウィルソンは〝戦争をなくす戦い〟と言った。私は戦争をなくせると思うほど単純ではない。人間の本質は変わらないだろう。人間には理性があるが、それだけでは不十分なのだ。T・S・エリオットの詩にこんな言葉がある。

We shall not cease from exploration
And the end of all our exploring
Will be to arrive where we started
And know the place for the first time.

人は探求をやめない。
そして、探求の果てに元の場所に戻り
初めてその地を理解する

ある意味で今の私がそうだ。
(映画の中から引用)

戦争には多くの変数があり、そのすべてを人間がコントロールするのは無理だ。それは歴史から学ぶものであればだれでも知っている。第二次世界大戦、朝鮮戦争、キューバ危機、ベトナム戦争を経験し、マクナマラは自分が結局、最初に自分が立っていた場所「戦争をコントロールすることはできない」という理解に到達し、ベトナム戦争の後に初めてその言葉の本当の意味を理解したのだろう。

『ゴッド・ファーザー』と『フォッグ・オブ・ウォー』は、年に一回視ることにしている。「知っていることと本当に理解する」ことの違いを痛いほど突きつけてくるからだ。僕の人生に大きな影響を与えた3本の映画のひとつ。


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