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短編小説「計算違い」




 店長は事務所の椅子に座りながら防犯カメラ凝視し、小さく「参ったな」とつぶやいた。このコンビニは午後六時に学生バイトが入るタイミングで、店長が金庫の棒金とレジのお金を確認していた。金額のズレ、つまり違算が無いか確認するためだ。



 普段は多くても数百円足りない程度の違算だが、今日はなんと一万円の違算が出た。しかもいくら防犯カメラを確認してもどのタイミングで違算が発生したかわからない。パートを疑うわけではないがレジに触れた三名を一人一人順番に事務所に呼び出すことにした。



 「今日違算が一万円も出たんだが心当たりはないかい?」なるべく余計なことは喋らずシンプルに聞いた。しかし皆返答は似たり寄ったりであった。


「知りませんよ。それに私は品出しと発注が中心でした。なのでレジを三回位しか触ってません。監視カメラで見てもらってもいいですよ」


「店長、私が違算を出したと疑ってるんですか?絶対私じゃ無いですからね。知りませんよそんな違算」

「俺は今日そんな大きな金額の会計はしていないと思います、たぶん」



 店長は全員の返答の後に短く「そっか、わかった、ありがとう」とだけ答え最後の一人が事務室を後にすると再度防犯カメラを確認した。



 そして店長は受話器を手に取り警察に電話を掛けることにした。呼び出し音が二回鳴ったあと、警察官が電話に出た。店長は落ち着いた声で要件を話した。



 「今日、うちのコンビニで違算が一万円ほど出ました。たぶんお客様から間違って受け取ってしまったものかと思われます。……はい、いえ、違うんです。違算といっても足りないのではなく多いのです。どうしたらよろしいでしょうか?」店長も勿論、電話を受けた相手の警察官も初めての経験で対応に困ってしまった。


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