vol.3 歯科業界が目指すべき未来と、そのために今できること
みなさん、お久しぶりです。歯科コンサルタント角 祥太朗のマネージャーを担当しております、高橋です。
前回は、角が歯科コンサルタントとして事業を開始した当時の出来事を振り返りながら、歯科業界特有の体質や現場(歯科クリニック)の葛藤について、お話していただきました。
3回目となる今回は、実際にコンサル指導を行うときに、角がどのように歯科医院の全容を捉えてサポートしているのか、具体的な方法についてお聞きしましたよ。
歯科医師はビジネスが苦手!?
ーー 前回は、世の中的に健康意識が高まっている今だからこそ、歯科医師が挑戦する絶好のチャンスだとおっしゃっていましたが、業界の体質上難しいともおっしゃっていましたよね。歯科業界が新しい一歩を踏み出せない、一番の要因はなんだとお考えですか?
前回も少しお話しましたが、歯科医師は患者さんの視点に立つあまり、自分の理想をもつことが難しいんですよ。ビジネスって、最初はウソから始まるじゃないですか。
ーー え!?ウソ!? まぁ、実現するかどうかはわからないという点では、ウソかもしれませんが……
ビジョン策定の段階では、まだそのビジョンを達成できていない場合がほとんどですよね。ビジネスの世界では、理想を大きく持つことは大切ですが、医療人から見ると、その理想が少し適当なことを言っているように見えるんです。実績もなしに、実現できるかどうかわからない未来の展望を語るなんて、ダメじゃないのかなと。
歯科医師さんは、クリニックの経営者として大きな挑戦をしたいという気持ちを、自然と押し殺してしまうんです。その原因のひとつに、医療人の間に根を張った“実績主義”という考え方があるのではないでしょうか。
ーー 前回のPCDAを回せない、という部分にも繋がりますね。
私も独立したばかりのころは、そのギャップを痛感したんですよね。歯科医師の考えを、他業界のビジネスパーソンに伝える際に、歯科医師という立場から翻訳することはできても、同じビジネスパーソンとして目線を合わせて仕事をすることが難しかった。ビジネスパーソンがちょっと異質に見えたんですよね。でもそれは彼らが異質なのではなくて、医療人がずれているんだと気づいたんです。
ーー ご自身でも身を持ってギャップを経験していたのですね。どのようにして乗り越えられたのですか?
自分の掲げるビジョンやミッションに共感してくれるお客様(企業や歯科医院)と仕事をさせていただくうちに、違和感やズレは徐々に解消されていきました。「子どもの未来を健康で満たす」という私の理念さえブレずに仕事を進めていければ、他者と仕事をする時にでも、ぶれることはないんです。いま多くの歯科医師が感じているギャップや違和感も、自分のコアを見つけることで解消していくと思うんですよ。
昔みたいに虫歯の原因がわからない時代だったら、粛々と歯を治すことに意義があったかもしれません。でも、いまは治せることが当たり前の時代。若手の先生も高い技術を持っているので、どんな患者さんが来院されてもほぼ治せます。
これは、虫歯がまだ治せないものだった時代に努力した先人たちの作り上げた“当たり前”です。そして今、また新しい“当たり前”を作るために、挑戦をしていく過渡期にいると思っています。少し啓蒙的な言い方になってしまいますが、歯科医師の皆さんも、思考を切り替える必要が出てきていると感じています。
角流のコンサル・スタイルは、“土壌づくり”のお手伝い
ーー 思考の切り替えといっても、何から始めたらいいのでしょう。クリニックを経営されている多くの歯科医師さんが、困ってしまいそうですが。角先生にコンサルを依頼された歯科医師のみなさんも、相当苦労されているのではありませんか?
それが、案外そんなこともないんですよ。依頼をくださったクリニックの院長先生なんかには、「これからも定期的に来てアドバイスをしてください」とよくおっしゃっていただくのですが、多くの歯科クリニックが訪れる度に驚くほど変化しているんですよ。
歯科医院内で連携や結束力が生まれていて、クリニックの雰囲気が明らかによくなっているんですよね。
例えば、新人の方が良い意味で常識を疑い、歯科業界に染み付いた慣習から抜け出すきっかけづくりをしてくれたり、ベテランスタッフは院長に寄り添いサポートするようになっていたり。
徐々に院内にチームワークができていて、治療で手一杯だった院長にも事業計画を考える心と時間の余裕が生まれてくるんです。目に見えて変わっていく様子を見て、私自身も学ばせてもらうことが多いです。
ーー そこまで劇的な変化が!?いったい何をすればそんなに良い流れに変わるのですか?
私がコンサルティングで実際にやっていることといえば、院長先生の目標を肯定したり、行動を称賛したり、動き始めるための動機づけをする。その程度のことなんですよ。歯科医院経営を成功させるための秘伝のノウハウを教えるとか、そんなたいそうなものは持っていないですし、都合の良い劇的な改善策もありません。
重要なのは、いかにして院長先生の意識をクリニック内に波及させるかだと思っています。
歯科医院で働く一人ひとりに、オリジナルのストーリや原体験があり、日々の業務で感じていることがある。例えば「患者さんが来院される際に、こうしたほうがいいのでは?」「受付スペースにこういったものを置いたらどうだろう?」「この間、患者さんがなにか言いたげだったな」ですとかね。
受付の方も、歯科衛生士の方も、みんな何かしら感じながら働いているわけですよね。でも、院長にはなかなか言い出せなかったり、日々の業務が忙しくていつの間にか忘れてしまう場合がほとんどなわけです。
ですから、それを私が第三者としてヒアリングを行い、チーム内で共有できるように波及させていく。それだけで、意外と変わっていくんです。
ーー 角さんは人の行動変容に携わることが好きとおっしゃっていましたが、コンサルタントとしてやっていることはまさにそれなんですね。波及させるというのは、具体的にはきっかけづくりをするようなイメージでしょうか?
きっかけというか、行動するための理由を挙げるという方が近いかもしれない。その人がアクセルを踏むための、理由を見つけてあげるだけなんです。あとは、ルールブックを作るお手伝いをしています。
ーー ルールブックとは?
院長が目指すゴールに向かって走るときに、私も協力します!と入ってきても、ルールがわからなければ戦い方もわからない。スタッフが良かれとおもってやったことが、なぜか認めれずに終わってしまったり、理由もわからずに怒られて、すれ違いや不満が溜まっていきます。そうならないためには、院内の“ルールブック”が必要なんです。。
ーー 職場のルールが明確化されたり変わることで、スタッフ全員にも変化を要しますよね。なかにはそのルールに適応できないスタッフもいるのではないでしょうか?
そうなると、離職ということにもなっていくのですが、それ自体は悪いことではないと考えています。
離職という言葉はネガティブに聞こえますが、歯科医院も離職者も、もっとポジティブに捉えてほしいです。より自分のコアを活かせる職場に行き、そこで幸せに働いてくれたほうが、合わない職場で我慢しながら働くより、ずっと健康的だと思いませんか?むしろ、「なんだかこの職場合わない」と漠然と考えていたスタッフなんかは、ルールが明確化されたことで、離職の決意ができると思うんですよね。
ーー変化に対応できなければお別れ、というのは少し冷たいな、と感じてしまうのですが
実際のケースを見ていると、もともと違和感を持っていた方が離職するケースがほとんどです。これも一つの行動変容なんですよ。その人が「自分のコアに合う働き方ができるのは、ここではない」と気づくことができたのだから、それはとても前向きな選択です。
小さな違和感を持ちながらもその気持ちにフタをして働き続けるのは、大きなストレスになりますよ。そしてそのストレスは、本人だけでなくチーム、つまり院内全体の雰囲気や数字にも影響を与えていきますから、歯科医院としては、無視できない問題です。
ーー なるほど。では逆に「この歯科医での働き方はコアに合っている」と感じているスタッフの方には、どのような指導をされるのですか?
基本的には、称賛するだけです。たとえば、一日の業務の終わりに、スタッフ一人ひとりに「今日の業務で印象に残っていること、ある?」と聞く。すると、「●●がうまくいかなかったですね」、「新しくやってみた■■がうまくできた」、「患者さんに○○と伝えた方が良かったのではないか」など、いろいろな意見が出てきます。
私は、それがどんな内容であっても、称賛する。指導や指摘はしません。言葉にした時点で、すでに本人の中で整理できているはずですから。その職場での働き方に満足している方なら、前日感じた課題を翌日からの業務に自然と落とし込むことができるんです。
私がやっているのは、変化の過程や試行錯誤をすべて肯定する。ただそれだけなんですよ。徐々にその歯科医院内のキーマンや離職者が浮き彫りになり、組織として洗練されていきます。その結果、より強い医院医院経営ができるようになるんです。
健康が注目を集めるこの時代に、歯科業界のアイコンを目指す
ーー 今後も、一般的なコンサルのように経営上の問題を指摘して指導するのではなく、あくまでも個々人の考えを聞き出し、指導する方法を続けられるのですか?
そうですね。そうすることで、私のミッションである「子どもの未来を健康で満たす」ことに近づくと思っているんです。「この街には、この先生がいる」という個性を持った先生が増えていくことが大切だと考えています。
歯科医院ってコンビニの数よりも多いって知っていましたか?
ーー え!?そうなんですか?確かによく見かけるなとは思っていましたが。
健康な人を定点観察できる歯科医院が、こんなにたくさん街に存在しているんだから、その一つひとつの歯科医院が、それぞれの哲学や想いをもって、地域に還元しなければいけないと思うんですよね。
だからこそ、歯科医院を経営されている先生方には、少し立ち止まって「やりたいことはなんだろう?」とあらためて考えてみてほしい。食育、姿勢、切り口はなんでもいいんですよ。
コアが見つかれば、学習塾のある小児歯科をつくり、教育までやってみたい。というビジョンが、きっと見えてくるはずですから。
ーー 角先生がやられている「コアを聞き取り、行動変容をおこす」というコンサルのスタイルは、歯科医院に限らず、企業や学校などの指導・教育にも適用できそうですよね。
もちろんオファーがあればどこにでも行きますよ。ただ、やはり私は歯科医師ですから、まずは歯科業界を前進させるところからやっていかないと。
コロナをきっかけに、人々の健康意識はものすごく高まっています。そして、健康を定点観察できる「場」ある歯科医院は『健康の門番』として、大きな役割を担うはず。
そのときに備え、私たちは粛々と歯を治しているだけではないんだぞということを、社会にもっともっと発信していかなければならない。そのために私は、歯科業界と社会をつなぐ“アイコン”を目指しているんです。まずこの目標を達成しなくちゃね(笑)。
【マネージャー 後記】
今回は、角が行っている歯科医院へのコンサル指導について具体的に紹介しました。
歯科医院内のスタッフ、一人ひとりの考えを明確にし、共有するだけで、チームとして機能しはじめるというお話、ちょっと驚きでしたね。しかし、忙しい治療の現場では、患者さんの治療で手一杯になり、スタッフ同士の意思疎通が難しいという歯科医院も多いのではないでしょうか。お悩みを抱える歯科医師のみなさま、ぜひ角にご相談くださいませ。
次回からは、これまでお届けしてきた「角祥太郎のルーツ編」に次ぎ、「角祥太朗の考える歯科医院経営編」がスタート。歯科現場の抱える課題にさらに踏み込んだ内容になっておりますので、ぜひご期待ください!それでは、更新をお楽しみに。
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