異語り 104 蠢く夜
コトガタリ 104 ウゴメクヨル
子供達が長期休みだとつい夜更かししてしまう。
その日も気がつけば日付が変わってから結構な時間が過ぎていた。
さすがにそろそろ寝ようかなと家中の戸締まりを確認して二階へ上がる。
階段を上り切った所の窓にはカーテンをかけていないのでそのまま外の景色が見える。
月は出てなさそうだったが街灯のおかげで外はそれなりによく見えた。
日中は車通りも多い道だが、今はその気配すらなく静まりかえっていた。
そんな静かな道路が何となく気になり目を向ける。
街灯に照らされた路面を【何か】が過ぎたような気がした。
野良猫か野良犬か?
眺めるのではなくしっかりと外を見ると、すぐに先程と同じ角からいびつな黒っぽい【何か】が道を渡って行く。
犬猫よりも大きい。
角の影から湧き上がり、
道の向こうの影に吸い込まれるように見えなくなる。
その後も何匹もの【何か】が道を渡って行った。
時にはちょっと迷うようにふらふらと道の中程をさまようモノもいる。
直視するというよりは、少し視線からずれたところを掠めていく感じ。
こちらに気付いたり、向かってくるようなものはなく、皆同様に道路を渡っていくだけだ。
「まあ実害はなさそうか」そう判断してそのまま布団へも振り込んだ。
翌朝、特に何事もなく目が覚める。
朝食の準備を始め、フライパンに卵を割り入れた。
いつもの流れで塩コショウを手に取ろうと手を伸ばすと、手の甲に何かが触れ軽い音が続く。
なぜこんなところにあったのか?
床に菜箸が転がっていた。
「あーあ」ちょっとテンションが下がるのを感じつつ拾おうと腰を屈めた。
脇に何かが触れた!
咄嗟に体を引く
ガッシャーン
コンロにかけていたフライパンの柄が引っかかり、熱々の卵もろとも床へとぶちまけられた。
もし体を引いたいなければ結構な大惨事になったことだろう。
バクバクする心臓をなだめつつ飛び散った残骸を片付けた。
さらに不幸は続く。
洗いあがった洗濯機の蓋を開けると一面にまぶされた白い物体。
久々にティッシュを確認しないまま回してしまったらしい。
その後もチラシで指を切るなど地味な不幸が重なっていく。
普段ならやらないはずの失敗が続き「今日は厄日だ。早く寝よう」と午前中のうちに決意するに至った。
その日の夕食時、家族に朝からの災難を愚痴っていると、家族も似たような小不幸に見舞われていることがわかった。
「……今日は厄日なんだよ」
「こんな日は早く寝るに限る」
家族の意見も一致して、みんなで久々に早寝する日になった。
そういえば、数ヶ月置きぐらいに、大小を問わず『厄日』に見舞われている気がする。
あの日は仏滅だったりしたのかも?
そう思い後日暦を調べてみた。
……特に悪い日ではなかった。
もしかしたら前日に変なモノを見たせいかもしれない。
そう思い前日も調べてみた。
『庚申の日』
あの日夜見た【何か】は人の中にいた虫で、翌日の不幸は報告された悪事に対する罰だったのか?
神にとって何が悪で何が善なのかは人の知るところではないけれど、時々ある厄日が大したことなかった時はいいことできた日が多かったのかな?
そう思うとちょっと面白い。
なるべく善い人でありたいと思いつつ、欲望にも忠実な自分。
庚申の日は寝ずに徹夜をして過ごすと、虫は報告に行けないらしいですよ。
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