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異語り 073 生き人形

コトガタリ 073 イキニンギョウ

東北出身の三上さんの話

俺の家は別に旧家って訳じゃないけど、ひいじいちゃんの代から同じ家に住んでるからあちこち古いんだよね。
その時々でリフォームやら増改築してきたもんだから間取りがメチャクチャになってんの。
家の中にサッシの付いた窓があったり、半分しかない階段があったり、風呂に入るのに三枚もドア開けたりすんの。
住んでた時はそれが普通だったからなんとも思わなかったんだけど、進学で家出てから帰省で帰ってきたりすると「もしかして俺んちって変なんじゃないか?」って気がついたわけ。
増築するのも周りに広げる感じで建て増ししてったから窓がない部屋とかができちゃってて、だから家ん中に何個も納戸がある。
子どもの頃はかくれんぼする時とか重宝してたけど、久々に帰るとなんて言うか……淀んでるような気がして、よくこんな所に隠れてたなってちょっと引いたよ。

俺が使ってた部屋も徐々に納戸化されてきてて、帰ったらまず掃除して、部屋に放り込まれた荷物を元々の納戸に移す。
それでようやっと布団が敷けるスペースが確保できる。

卒業してから帰った時にはさ、本格的に納戸にすることにしたのか押し入れにも荷物が詰め込まれてて、寝る間際になって「第2ラウンド開始!」みたいだった。
しかも、変な人形が詰まった箱とかも出てきて気分的にもげっそりだったよ。

人形はさ、顔はコケシみたいなんだけど、体が? 服が? ひな人形みたいに豪勢な感じでちょっと不気味というか、妙に生々しい感じの人形でさ。
それがミカン箱くらいの木箱にいっぱい入っての。
お袋に「これなに?」って持って行ったらさ、目え剥いて奪い取られて
「何もしてない? 勝手に触ってない?」
って偉い剣幕で詰め寄られた。

結局その時はその人形が何だったのか聞きそびれちゃったんだよ。

去年祖母の葬式で帰省した時にさ、またその箱が俺の部屋に置いてあったの。
触られたくなきゃ俺の部屋に置かなきゃいいのにって思いながら、箱抱えてお袋探しに部屋を出た。
すぐに見つけたんだけど、葬式で帰ってきてるわけだから、準備だ、片付けだっていそがしそうだった。
なんだか声を掛けそびれて廊下に突っ立ってたらお袋の方が気がついてくれて、チャンスだと思って箱を差し出した。
「あ~これ、また俺の部屋に」
そしてらお袋、箱見て固まっちまって
とりあえず渡そうと思って近づいたら
「ちょっとおいで」
ってそのまま部屋に連れ戻されたのよ。
お袋、ものすごい真剣な表情で俺の前に座るの。
あれ、やばい? 俺怒られる?
って思ってたら
「この家はあんたが継ぐことになるからそのつもりでおりんさい」

なんのこっちゃ? これぞ晴天の霹靂って奴か?なんて思いつつ
「はあ? いやいやいやいや、俺向こうで仕事あるし、こっちには兄貴もいるし」
「それでも、あんたが継ぐことになるから」
お袋は静かに息を吐きながら箱の蓋をなでた
「この中は見たことあるかい?」
もちろんあるから頷いた。
「これはねえ、生き人形云うて家の一族の者の数だけ人形が入っとる。
こないだ双子が生まれたから二体増えて、ばあちゃんが亡くなったから一体減った。
誰が管理してるわけでもないけど、勝手に増えたり減ったりしよる。
私らは何もする必要はないけど、人形たちを大事にせんとバチが当たるからね」
俺が聞きたかった答えじゃなかったけど、聞いてみたかった事ではあったので黙ってきていた。

「代々当主が責任もって次代に継いでいくの。だから次はあんたね」
「だから、なんで俺が継ぐのさ」
「あんたの部屋にあったんやろ?」
「そう……だけど」
「人形たちを守る当主は人形たち自身が決めるらしいんよ。あんたの部屋にあったいうことは……そういうことなの」
それだけ言うと、お袋を探している声に返事してそそくさと部屋を出て行った。


残された俺は呆然としながら、気がついたら箱の蓋を開けていた。

生き人形と聞いて見ると、なんとなくそれぞれの特徴というか、どの人形が誰のかわかるような気がしてつい魅入ってしまっていた。

しばらく眺めていて急に思い出した。
俺、昔もこの人形を見たことがある。
かくれんぼしてた時に、この箱を見つけて中に隠れようと思ったんだ。
その時も人形は入っていた。
それで……出さなきゃ入れないなと思って一番上にあった人形を無造作に掴んだ。
そしたら突然全身に激痛が走って、隠れるどころじゃなくなった。

その場でビービー泣いてたら、お袋とばあちゃんが飛んできた。
ばあちゃんにすぐに仏間に連れて行かれた。
俺は泣いてただけだったけど、ばあちゃんが仏壇に必死に頭下げてた記憶があるよ。
痛みはすぐに治まったし、あの箱もどこかにしまわれたから、そのまますっかり忘れてたんだよな。

「ひょっとしてあれがバチだったのかなあ?」


三上さんはこの話をした後、Uターンで故郷へ帰ることになった。

自分にはその人形がとても気味悪い存在に感じたのですが、三上さんはごく当たり前のように受け入れていたのが印象的でした。

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