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異語り 148 蛹

コトガタリ 148 サナギ

30代 女性

念願のマイホームを建ててすぐの頃、小さいながらも庭が出来たので早速ガーデニングを始めました。

子供の頃から野山を駆け回っていたので、ミミズでもイモムシでも全く気にせず、せっせと土をほじくりかえしていました。

ある日も新たに買った花の苗を植えるべく土をいじっていると
コポンッと茶色い物体が転げ出てきました。

「うわっ」

さすがの私も思わず声が出るほどの大きなサナギでした。
カブトムシやクワガタ、セミなどいろいろなサナギを知っていますが、それは全く見たことがないものでした。
大きさは小ぶりな卵ほどもあり、ダンゴムシのような筋が何本も入っています。
微かにお尻らしき部分がぴくぴくと動いているのでまだ生きているようでした。

害虫だったら困りますが、何が出てくるのか興味もあります。
見たところ1匹だけのようなので庭の隅にそっと埋め直してやりました。

そして、サナギのことはすぐに忘れてしまいました。


思い出したのは、翌年になってからでした。
新しい花を植えるために土を掘り返していると、またコポンッと大きなサナギが出が転げ出てきました。
場所は庭のすみっこ。
確か、埋め直した場所だったと思います。

「あら、まだいたんだね」

ひょっとしたら新しいサナギだったかもしれませんが、色も大きさも昨年のままのように見えました。

蝉のように何年も土の中にいる虫もいるのだからと特に気にすることもなく、同じ場所にそっと見直しました。
でも、今度は忘れないように、と近くにあった大きめの石をそばに立ててやります。
ちょっとお墓のようになってしまいましたが、うっかりスコップで突き刺したりしないためにも、目印は必要だと思ったのです。

で、やっぱり忘れてしまいました。

再び思い出したのはその次の春。
サナギをほじくり出してしまった時でした。

相変わらずサナギは色も形も変わっていないように見えます。
そしてお尻と思われる部分だけが少しピクピクと動いています。

「まだいたんだね」

毎年毎年掘り出されてしまっては可哀想かな。
そう思い、その年は苗の入っていたビニールの鉢へ土とサナギを入れ、その鉢ごと土に埋めました。



その年の夏はセミが多かったのか、ひどく騒がしい夏でした。

いつもの年であれば日中に少しだけ鳴いてるくらいのはずなのに、夜になってもジーッジーッと大きな声が響きとても寝づらかったです。


お盆が過ぎた頃、やっと夜中の大声が落ち着きました。
北海道ですから気温も落ち着き、ゆっくり眠れるようになりました。

そんな時、珍しくサナギのことを思い出しました。

セミのサナギには見えませんでしたが、もしあんな大きな虫が鳴いたらさぞかしうるさいだろうな
なんてことを考えつつ、庭の隅を覗きに行きました。

すると、埋めた鉢の中の土がごっそりと無くなりボコンと穴が空いたようになっていました。

どうやら無事に、羽化できたようです。

もしかしたら近くに抜け殻があるかもしれない。
そう思い周りの植木や街路樹を探しましたが、それらしき抜け殻は見つかりませんでした。

でも、家の壁の側に薄い茶色のプラスチックの破片のようなものがパラパラと何枚か落ちていました。

ひょっとしてあの大きな鳴き声は……?

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