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異語り 012 夜の騎士バス

コトガタリ 012 ナイトバス

珍しく時間通りにバスが来た
カードをかざし「そろそろチャージしないとな」などと考えながら中に乗り込む
いつもはガラガラの車内がこれまた珍しく8割方埋まっていた。

昨今の風潮から先客のいる2人掛けの席に座るのもためらわれる。
「まあいいか」と、手すりに寄りかかるようにして場所を確保した。

バスはすぐに発車した
降乗客は少なくスイスイと停留所を3・4個を通過する。
今日はいつもより早めにつけるかもなあ
とぼんやり考えていると、ぐいっと体が振られバスが停車した。

音は聞こえなかったが降車ボタンが光っている。

慌てた風の乗客が3人ほど降り、代わりに年配の女性が1人乗ってきた。

バスはまたすぐに発車する

すぐに体が大きく振られた。
どうやら車を追い越したらしい。
バスはすぐにもとの車線に戻ったが、しばらくするとまた大きく体が振られる。

バスの後ろを嫌って追い越して行く車はよく見るが、路線バスが普通に走っている車を追い越すなんてあまり見たことがない。

ふと脳裏に某ハリウッド映画の夜の騎士バスが浮かんだ。

時間に遅れているわけでもなく、貸切の観光バスでもないのに急ぐ理由があるのだろうか?
改めて車内を見渡すと、皆一様にぼんやりとした顔でどことも定まらぬ視線を空に漂わせている。

そういえば、またしばらく停留所に止まっていない。

車窓の景色は普段の通りだ。
でも……

かすかな不安が芽生えた。
このバスはちゃんと停留所で止まってくれるのだろうか?
あと数個で目的の停留所だ

早めにボタンを押した方がいいのだろうか?
相変わらず降乗客はいない。

バスはスイスイと停留所を通過していく。

一つ前の停留所を通過した。

料金表上の表示が目的の名に変わる。

降車ボタンに手を伸ばす。

ポーン

指が届く前にボタンが点灯した。
他にも誰か降りるみたいだ。

少しほっとしながらも、手すりを握る手に汗がにじむ。

どうかちゃんと止まってくれますように


バスはクイッと軽く車体を揺らしながら停車した。



何事もなくいつものバス停に降りることができた。


ああ、あたりまえか

バスはクイクイッと車体を揺らしながら走り去っていく。
また車を追い越している

ただアグレッシブな運転手だっただけ?
とりあえずと歩き始めると疑問もすぐに薄れていく。


すぐに後ろからまたバスが来た。
走り去るバスをぼんやりと眺める。


後ろの表示板はさっき自分が乗ってきたバスと同じ行き先だった。

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