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【詩】夢喰い

あれは五つの頃だったか
私が熱を出した時 あなたは私を背負って病院へ駆け込んだ
背中に吐かれたことも厭わずに 私の無事を喜んでいた
大人に聞いたから知っている これを子供は喜ぶのでしょう?
けれどかけらほどの喜びもなかった
今は棺の中で眠る父
かけらほどの悲しみもない

あれは八つの頃だったか
あなたは私に刃を向けた
虐げ続けたことも省みずに 私の不幸を呪っていた
本で読んだから知っている これを子供は悲しむのでしょう?
けれどかけらほどの悲しみもなかった
今は病院のベッドで笑う母
かけらほどの関心もない

あれは十五の時だったか
一人暮らしを始めて 別れの手紙を投函して帰ると
二人からの贈り物が届いていた
何を思えばいいのやら
朝目を覚ますといつも泣いているけれど
夢で何を見ているのだろう

白と黒の夢喰いが囁く…

ー僕が何を喰らっているか
君は決して知ってはならない
千の手が君に手を差し伸べている
『ワタシヲアイセ』と
千の手が君に宝物(ほうもつ)を与えている
『ワタシヲアイセ』と

ー君は悲鳴をあげている
『私はいない!おまえ達もいない!
見えない!聞こえない!何もない!いない!
私はどこにいる?世界はどこにある?
怖い!怖い!悲しい!悲しい!』

ー僕は君の千の夢を喰らう
見返りに求めるものは
君が僕のそれを見ること
白と黒の…

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