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小説

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2022年1月の記事一覧

【小説】スパークリング・ライチ

【小説】スパークリング・ライチ

田舎の夏は早くきた。プール掃除は君と僕、2人だけだ。
「先生もひどいよな。今日は土曜だってのに」
君は優等生だから先生にも信用されている。だからよく貧乏くじをひく。
「うん。今日は家でゲームしたかった」
僕はシャコシャコと、適当にブラシで擦る。
「だよな!早く終わらせて、帰ろうぜ」
君は濡れないように裾を捲る。浮き上がっているアキレス腱は、普段靴下で隠れているからだろうか白い。
シャツも第2ボタン

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【小説】レモンサワー

「あの人にとっての一番は、きっと私ではなく、ユキくんなのよ」
乾杯をする間もなく、主役である私の友人はレモンサワーを一気に飲んだ。あんたの結婚祝いなんだから、せめて乾杯くらいはさせなさいよ、と婚活ガチ勢の二人はエアでグラスを掲げる。こんなだから結婚できないんじゃないかと思いながらも、私も独り身なのでお通しの白和えに箸をつける。

友人は、高校から付き合っていた彼氏と10年の交際を経てついに結婚した

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【小説】ラムネ

【小説】ラムネ

テトラポット堤防の上。小麦色の顔、君の薄い唇に触れるプラスチック。首には汗が滲んでいる、喉仏は上下する。襟の隙間から覗く鎖骨は、白い。波が激しく打ち付けた。全部飲み切った君は、ビー玉を取り出そうと、飲み口に左手を当てて思い切り腕を上下運動させている。

「この瓶、ビー玉取れないようになってるぽいよ」
「取れるかもしれないだろ」
「子どもっぽいなぁ。取れないよ、諦めな」
「いつだって少年の心を胸に、

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【小説】いちごオレ

【小説】いちごオレ

4限終了を知らせるチャイム、屋上への階段を登る。ここしばらくは雨が降り続いていたので、昼休みの開放感は久しぶりだ。アッシュグリーンのNW-A100で洋ロックを聞きながら、たこ焼きパンを齧る。ソースがやたらと甘い。

さっきまでは風が心地良い穏やかな青空だったのに、太陽が照りつけてきた。
「今日は、何聴いてんの?」
「レッチリ」
「あー、名前だけ知ってるわ。今日こそは知ってる曲かと思ったんだけど」

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