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読書感想文『お砂糖とスパイスと爆発的な何か:不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』

3月8日は国際女性デーらしく、そこに向けてフェミニズム関連の本を読んでたんですが、だいぶ遅くなって(もう4月だよ)しまいました。今回読んだ本は北村紗衣さんの『お砂糖とスパイスと爆発的な何か:不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』です。コロナで自粛ムードなので読書は最適!!早速、感想を述べていきたいと思います。

内容紹介(Amazonより一部カットして掲載)

3刷重版決定!!

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フェミニストの視点で作品を深く読み解けば、
映画も演劇もこんなにおもしろい。
自由に批評するために、自らの檻をぶち壊そう!
映画と演劇を年に200本観るシェイクスピア研究者による
フェミニスト批評絶好の入門書!

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ただ「面白かったー」がなんとなく物足りなくなってきて、もう一歩、深く楽しんだり、調べたり、理解したいな……と思う時に必要なのが「批評」です。(……)私は不真面目な批評家なので、批評を読んだ人が、読む前よりも対象とする作品や作者をもっと興味深いと思ってくれればそれでいいし、それが一番大事な批評の仕事だと思っています。(まえがきより)
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イギリスの有名なミステリ作家G・K・チェスタトンの短編「青い十字架」に、「犯罪者は創造的な芸術家だが、探偵は批評家にすぎない」という有名な言葉があります。たしかに、批評家はテクストを犯罪現場みたいに嗅ぎ回り、犯罪者、つまり芸術家がばらまいた手がかりを見て、ヘマを探し出そうとやっきになる探偵で、あまり独創性がないかもしれません。でも、この本に登場したミス・マープルのような名探偵は、何が何だかわからないカオスから正しいものを救い出してくるヒーローです。私は批評家にすぎませんが、ミス・マープルと同じような仕事だと言われるならばそれは光栄です。(あとがきより)

読みやすさ:★★★☆☆

私にとって読みやすさって「流れ」だと思っていて、文自体の簡潔さとかわかりやすさはもちろん大切なんだけど、前後のつながりがわかりやすいことが一番親切だと思うんですよ。例えがこれでいいのかわからないけど、メイクってパーツひとつひとつが美しくできても顔全体で見たときのバランスが良い方が結果的には美しく感じるものらしいんです。たしかにその通りだなって私も日々感じていて、「あ、今日眉毛めっちゃ上手く描けた!!」って思っても、全て終わった後に大きな鏡で自分を見るとなんか違和感があって、ちょこちょこっと直す、そしたらやっと完成する、みたいな。これと同じことが本でも言えると思ってます。文章ひとつひとつはこの本すっごくわかりやすいです。“入門”と書いてある通り、フェミニズム初心者の私にも「あーそういうことか」と思わせるようなものばかりで“読みやすい”です。具体例も的確だと感じたし、節ごとのまとまりはしっかりしてました。でも、読みながらどこに向かっているのかが伝わってこないというか(フェミニズムという分野があまりに幅広いから本来こういうものなのかも)もう少し「流れ」が欲しかったなあ(小説などで先の展開を悟られないために使うような手法は別として)。一つの章を読み終わって、「で、だから??」となってしまうことが多かったです。辛口すぎるな、私www

個人的には、一つ前の文章が今読んでる文章の下にうっすら透けてみえるような、そういう読み物が好きです。

逆に、いつでもどこからでも読み始められるライトな本ってことでもあるので、読書苦手な人とかが毎朝の通勤・通学でちょっとずつ読む、みたいな読み方をするならとても合うと思います。

内容:★★★★☆(4.5)

分野的に、どうしても主観的になってしまいがちだと思うんですが、そうならないようにひとつの例えに対していくつかの見方を示していて、それでいて筆者の主張は伝わりやすくなっている。基本的なことだけど、とても重要なことだと思うのでその点素晴らしいと思いました。

さすが、差別される側である女性に味方する分野フェミニズムを解説されるだけあって、色んなマイノリティに対して隙の無い心遣いがされていて、そこもとても好印象でした。文体というか、尖りすぎず丸過ぎない書き方も私は好み!!伝えたいことは真っ当でも言葉がとんがり過ぎていて読まれない、なんてことほど悲しいことはないですし。

それと、筆者の読書量の多さにはびっくり!!ほんとうにたくさんの資料の中からわかりやすい例をピックアップしているんだな〜と感心しきりでしたし、それでいてそのことに対して自慢げじゃないのが最高でした!!私は読書メーターっていうアプリにも登録していて、他の人の読書批評を読むこともあるんですが、必要ないのに自分の読書量の多さを自慢してくる人って絶対いるwww誰に対してのなんのマウント取ってんだよ…ってかんじですが、おそらく無意識にやっちゃうんでしょう。そういうちょっと嫌味っぽいかんじがないのも賢い人の書き方ってかんじで好きでした。

あでも、日本のことを書いてほしかったなー。それだけ、日本は女性への抑圧があるのが当たり前で、女性は戦うことすら忘れてしまっている(そもそも教えられもしない)のかもしれないけど、直接的ではなくとも女性の地位向上に尽力した人はいるだろうし(紫式部から始まってさ…)、そういう想像しやすい立場で頑張ってる女性がいるとより勇気づけられるなと思う。せっかく日本人が書いたフェミニズムの本なので、日本人女性のこれまでの奮闘も書いてもらえると良かったです!

作中に出てくる海外の話はどこかコミカルに読めてそこがまたこの本の手軽さを表しているようなかんじでした。「フェミニズムの本です!!」と格式ばらないライトなかんじはやはり初心者には読みやすくていい。わざわざ重厚である必要はないんだけど、手軽さと奥行きのバランスってむずかしいんだなあ〜と実感(そういうバランス感覚に長けた人になりたい…)。

各時代の最先端のフェミニズムを今の感覚と比較しながら批評するのもわかりやすかったです。完璧ではなくとも、大昔から自由のために戦い続けてくれた女性たちのおかげで今私たちがここまでフェミニズムを語れるようになったんだなと思えました。

ビジュアル・第一印象:★★★☆☆

Kindleで読んでるので、書店で見たりすると印象が違うのかもしれないけど、それでも私的に100点のパッケージデザインではないなと思いました。

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なんかライトノベル的な(?)かんじ。ライトノベルが悪いわけじゃないんだけどフェミニズム自体が安っぽい印象にならないといいな。

この表紙が意味するものがよくわからないのだけど(笑)、本当の自分、的なことなのかな??紫って女性が好きな色の気がするから(あくまで主観なんですけど、ちょっと高貴な、女としてじゃなく人としても良く評価されたいときに纏う色っていうイメージ)、そこは個人的に好きだったけど、男性にこそ理解してほしいフェミニズムっていう概念を、この表紙で上手く伝えられているのかなーとはちょっと思いました。男性がこれを書店で手に取ってくれるか、、、???

心に残った一文

私はこれがあるかないかで、その本の価値が決まると思っているんですが、ありました!!!!!

私を檻から出してくれたのは文学とフェミニズムでした。わんこを連れて逃げたい時に、文学や芸術が助けてくれることもあるのです。(本書あとがき より抜粋)

好きだーーーー!!!!!こういう文章好きだーーー!!!!!完全に好みの話なんですけど(笑)

※ちなみに、わんこは突然出てくるわけではなくて、序盤で、抑圧者である父親のもとからパートナーと愛犬フラッシュを連れて駆け落ちする女性の話『フラッシュ』が紹介され、犬が登場するからです。

筆者にとってのフェミニズムの大切さがぎゅっとつまっているような一節で、最後まで読むにあたっていくつか気になる点があっても、こういう締めくくり方をしてくれると結果大好きになれるので良かったです。とても重要なことを甘さを加えてさらっと、センス良く語るのって誰にでもできることじゃないですし。それこそ、女性ならではなかんじできゅんきゅんしました(笑)

総合評価:★★★★☆

わりとネガティブなことばかりで突きまくった感があるんですが(笑)、誰かに薦めたいか?基準で考えると薦めたいです!!

女性にとって生活に常に潜んでいるフェミニズム問題を感覚的に、かつ理論的に教えてくれていてすごくいい本だと思います。ただ、筆者があとがきでも書いていたようにこういう「本」として筆をとるのが初めてだったらしく、一冊の完成度として気になる点が少しあったのかなあと。

何度も書いたとおり、とってもライトで読みやすかったので、思い出したタイミングでまた読みたいと思います。ごちそうさまでした!


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