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Short story◇俯く傘◇

雨に濡れ俯く傘の水たまり

***

両手に持ったスーパー袋が掌に食い込む。

天気予報では晴れマークだったのに突然の雨。
幸い折りたたみ傘のお陰で濡れることは免れたものの、こんな時に限って買い込んだ食料品はずっしりと重い。

傘を肩で担ぐようにして顎で押さえる。
わたしは車を持っていないので、この状況は慣れているはずなのに何だか今日は堪える。

明日が月曜日のせいか、雨足が予想以上に激しくなってきたせいか・・・。
それとも追い越していった仲良さげな二人連れのせいか。

大きな荷物を軽々と持つ彼に傘をさしかけながら微笑む彼女。
ありふれた情景は、わたしの手からずいぶん前にすり抜けていったものだ。

俯いた傘からポタポタと雨が落ちて足元の水溜まりを深くする。

突風が吹いて脆い傘をおちょこにする。

傘なんていらない。
はじめから持ってなんてなかった。

言い聞かせながら、降り止みそうにない雨の中を踏みしめるように歩く。


『月の欠片をパッチワークにして』つきの より


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