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大企業からベンチャーに出向して気づいたこと2 #管理職がすぐ始められるコミュニケーションのコツ

 13年間にわたるNECでのオフィス勤務から一転、今年4月からケイスリーでの在宅勤務という全く異なる環境で得られた気づきをもとに、大企業病から抜け出すヒントを探求する第2回目!

 前回の「管理の矛先を勤務態度からアウトプットにシフトする」に引き続き、今回も管理職向けに、チームにおいてコミュニケーションが果たす役割と、在宅勤務下でもすぐに始められるコミュニケーション方法について書きたいと思います。

コミュニケーションは better/mustどちらなのか

 私は以前、コミュニケーションは「あればbetter」ですが、アウトプットは自分のモチベーションさえあれば、職場環境に関わらず出せるという考えの持ち主でした。

 しかし数年前に、1年間でチームメンバー9人のうち6人が精神障害や転職等で離脱するという修羅場を経験してから、チームの雰囲気がいかに重要かを痛感しました。駅伝や体操競技の団体戦のように、個人競技の延長戦にある競技でも、チームの雰囲気が結果に大きく影響することと、本質は同じなのかもしれません。

 Googleの調査によると、有能なマネージャーがいるチームは生産性だけでなく満足度も高く、チーム成功の最重要因子は「心理的安全性」だと究明されています。またチームメンバーが最も重視したのは、「チーム内の文化と風土」だったそうです。つまり、マネージャーはチームが成功するか失敗するかのキーマンであり、理想的な環境を作れるかが勝敗を分けるキーとなるのです。(参考:Googleの考える「効果的なチームとは何か」

チーム全体のアウトプットが、個々人の総和に勝っているか

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 ここで悩ましいのが、大抵の組織において部下は上司の顔色を伺い、忖度するものなので、管理職たちは何となく良いチームが作れている気がしてしまうことです。先ほどの9人中6人離脱した職場ですら、終盤に差し掛かるまで、管理職陣は自分たちのチームを「こんなものだろう」と思っており、問題は個々人に内在するものだと捉えていました。

 本当にチームとして成功しているかを把握するには「チーム全体のアウトプットが、個々人の総和に勝っているか」を考えてみると良いかもしれません。単にメンバーが集まり、それを束ねただけのグループならば、諸々の管理は最先端のビジネスツールで行えば十分です。お互いの弱点を補完し合い、良い刺激を与え合い、総和より多くのアウトプットを出せるのがチームの意義であり、だからこそ、機械ではなく人によるマネジメントが求められているのではないでしょうか。

成功するチームへの最初で最大の一歩

 では、最適な環境は、どのように構築すれば良いのでしょうか。私自身、10年に渡るOJTコーチや、様々なチームの修羅場を経験しましたが、現在も試行錯誤の連続です。万能な方法論は存在しないのだとも痛感しています。一方で、得られた経験則は、「成功するチームへの最初で最大の一歩は、上司・部下との信頼構築」だということです。

 具体的な手法として、現在の在宅勤務下で上司への進捗報告を実施しているならば、その報告時に1on1の要素を組み込むことからスタートすることをお勧めします。またオフィス勤務をしている場合は、週1回 30分程度で進捗報告と1on1を組み合わたミーティングを開催するのが良いでしょう。

 1on1は自己成長を促す手法として、この数年で急速に日本にも広まりました。一方で「話すことがなくて気まずい」「意義を見出せない」といった失敗例も多く耳にするようになりました。うまく機能させるためには、上司側に「聴く力」「伝える力」「問う力」が求めらると共に、部下から上司への信頼に基づく積極的な自己開示が必要だからです。

 そこで進捗報告に、①上司と部下の1対1で行うこと、②部下を主体として進めること、③上司は「傾聴」を意識すること、④短時間・高頻度で定期的に行うこと、という1on1の要素を組み込んでいくことで、上司と部下双方のハードルを下げ、心的距離を少しずつ自然な形で縮めるいくことができます。1~2か月を目安に本格的な1on1を行う準備が整ったら、キャリアプランや悩み相談に特化した1on1を開始するのが良いでしょう。

飲み会1回 vs 1on1×6回

 実は私自身がケイスリーで、部下の立場で進捗報告にプチ1on1を導入してもらっているのですが、

① 在宅勤務下においても孤独感がない
② 上司と真正面から向き合うので、深い話ができる
③ 主体的に振り返りと目標設定を行うことで視座が高まる
④ 自分で決めたことは守りたいというポジティブなプレッシャーが働く
⑤ 相談がない場合でも進捗報告があるので話題に困ることはない。また相談したい場合は定期的に場が設定されているので気楽
⑥ 自分のために時間を取ってくれることを有難く思う

等々、沢山のメリットを感じています。リモート環境でも上司との良好な関係を短時間で構築が可能だという感覚も得ています。管理職としても、部下を知る(性格、興味関心、価値観、メンタルヘルスの状況)ことで、最適なタスクの割り振りや、プロセスでの適切なサポートも可能となります。

 飲み会のほうが有効だと主張する管理職も多いですが、つい先日もある職場で管理職が企画したZoom飲み会に、若手が誰も参加しなかったという話を聞きました。

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 自粛ムードで大抵の人が家にいるにも関わらず、「上司との飲み会よりもテレビを見たい/参加するインセンティブがない」が不参加の理由でした。管理職陣は組織の一体感を高め、部下のケアもしたいという高い意識に基づく企画だったのでしょうが、若手達にとって少なくとも過去の飲み会は社内接待だったのでしょう。私も、あまり話したことがない人と交流を深める、感謝や慰労の意を表明する、など飲み会が有効だと感じるケースもありますが、多くの場において効果は非常に限定的だという印象です。ある調査によると、社会人1,000人に「お酒の力を借りて実現できたこと」を聞いたところ、「何もない」と回答した人が、46.5%もいたそうです(調査:株式会社ジェイアール東海エージェンシー「ビジネスパーソンの「お酒」に関する調査 2016」)

 一方で、1on1を実施した人に対する調査では、80%が「メリットがある」と答えたそうです(調査:ディップ株式会社「1on1経験がある社会人300人の約8割は『1on1にメリットがあると感じている』」) 飲み会1回の所要時間を3時間と考えると、1on1は30分×6回実施できます。どうやら1on1のほうが高い効果が見込めそうですね。

コミュニケーションの形をアップデートする

 日々の進捗報告や1on1を行う上で、是非、試してみていただきたいのは、冒頭に行う「相手のメンタルケア」と、最後の2~3分で行う「上司のプライベート開示」です。

 冒頭に「今日/最近の調子はどうですか」と確認することで、人の話を聞く余裕があること、相手を気にかけていることを示すことができ、部下も主体的に話しやすくなります。長期化する外出自粛に伴う部下の心身の体調把握が可能となり、必要に応じて早期に対処できます。

 最後に行う「プライベート開示」は、部下の心を開くのに非常に有効です。以前、コーチングの第一人者である本間 正人さんの講義を受けた際に、上司がプライベートを開示したほうが部下の満足度が高い、とのアドバイスに非常に納得しました。確かに「昨日、子供と1時間並んだラーメン屋が凄く美味しかった」とか「家でガーデニングするのにハマってる」等、仕事外での話を1対1の場でしてくれると、一気に親近感が湧いて、相手を好意的に感じます。イリノイ大学のルース・クラークが行った実験においても、自由な会話を8分間してもらった後で相手の魅力を尋ねたところ、自己開示している人ほど魅力的だと評価されたそうです。

 最適なマネジメント手法や、それを導入すべきフェーズは、組織ごとに千差万別なのだと思います。とはいえ、部下が「どうせ何を言っても変わらないだろう」と諦めている組織は、アウトプット最大化が見込めないだけではなく、優秀な人材の流出やコンプライアンス問題など会社を潰しかねないリスクを抱えていることと同義です。だからこそ、自戒も含め、まずは過去の価値観や成功体験を捨てて、最新のコミュニケーションの形にアップデートし、成功するチームへの最初の一歩を踏み出すことが必要なのではないでしょうか。

(文:宇佐美 絢子)

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