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【7】(高校生でも)学会へ行こう

 ……と、これは岩波ジュニア新書の一冊。
 編者を含む11人の女流研究者が、自分が研究者になったきっかけや研究内容、その面白さについて語る。

 読んでみると、執筆者としては最大限くだけた文章をこころがけているんだろうなあ、とは思いつつも、脚注などなしにさらっと出てくる専門用語もあったりして、もしかすると本来のターゲットの中高生が読むとそういうところで「??」と引っかかってしまうかもしれない。

 とはいえ、いろいろな進路があり得ることを中高生に語りかける点では、こういう本はもっとあって方がいいように思う。

 あと、こちらは国内のバイオ系学会の一つ「日本生物工学会」がやはり中高生向けに出している入門書。

日本生物工学会HP
https://www.sbj.or.jp/

 「日本生物工学会」は旧名を「日本醗酵工学会」といい、「発酵」「醸造」分野では90年以上の歴史のある学会だが、その和文誌「日本生物工学会誌」(月刊)では、若手からベテランまでの学会員のキャリアの紹介記事の連載がある。

「バイオ系のキャリアデザイン」
(https://www.sbj.or.jp/news/news_20170130-1.html)

 分野上、企業の研究者も多い学会でもあり、必ずしも「研究」一筋でなく、いろいろなジャンルで活躍している先輩たちの姿を、学会誌を読める(自身が学会に入会しているか、大学の研究室や図書館などで)環境にある大学生、大学院生、あるいは企業に就職した若手学会員に向けての記事だろう。

 学会和文誌を読める人、既に「研究者」の入口にいる人はそれでカバーできるとして、さらに若年層にアピールしよう、というのがこちらの入門書、「学会」が発行している専門書のイメージからはかなり距離をとった「手に取りやすい」「読みやすい」本になっているので、先の『研究するって面白い!』同様、広く読まれて欲しい。

日本農芸化学会HP
(http://www.jsbba.or.jp)

 さて、自分も所属している「日本農芸化学会」では、年次大会のイベントの一つとして、高校生がポスター発表をする「ジュニア農芸化学会」を2006年以降開催している。

ジュニア農芸化学会
(http://www.jsbba.or.jp/science_edu/event_junior.html)

 自分たちの身の回りでみつけた些細なテーマに、自分たちが使える方法を工夫して面白い観察結果を出してくる高校が多いが、中には、「高校にそんな高度な機器があるのは反則では?」というようなちゃんとした分析機器や分析手法と、指導教官のご指導よろしく、かなり本格的な「研究」を繰り出してくる高校もあってみたり、内容はかなりバラエティに富んでいる。

 なにより、ポスター会場を回っていると、一生懸命「研究」してきた内容を「聞いてもらいたい」という熱心な説明を聞くのが思いのほか楽しい。

 特に、自分たちのささかやな「発見」や、その研究の過程そのものを「楽しんだ」んだろうなあ、という雰囲気が伝わってくる発表に出会うと、大人の学会員がともすれば忘れかけたような「研究」への素朴な熱意に触る想いがして、「初心」を振り返るよい機会にもなるとおもうので、オススメである。

 2018年のジュニア農芸化学会では、同大会の「特別講演」のために参加されていたオートファジー研究の大隅先生(2016年ノーベル生理学・医学賞)が「ジュニア農芸化学会」にも参加された。
 大隅先生の研究に関する「特別講演」も、メイン会場以外の多数の講義室に中継され、参加した高校生たちにも公開されていたので、この年、発表に参加した高校生たちはすごいラッキーだったと思う。
(リンク先の写真は大隈先生と高校生たちの記念撮影)http://www.jsbba.or.jp/wp-content/uploads/file/event/junior/junior2018.jpg

 若いうちに「研究」「学会」の面白さを体験した高校生たちの中から、大学の進路に「研究」を選ぶ人が少しでも増えて、未来のバイオ研究者が生まれてくることに期待したい。

<余談>
 2024年、日本農芸化学会は創立100周年で、記念大会の位置づけとなった年次大会では「イグノーベル賞」の受賞者を5名集めたシンポジウムも開催された。
 そのうち、「涙の出ないタマネギ」は同大会の「農芸化学を体感する」という企画で実食もできた。この企画は明るい時間は高校生たちに体験してもらう時間枠があった。
 奇しくも、2018年と同じ東京農業大学が会場だった。農大といえば、あのマンガを連想される方もおられると思うが、その農大でノーベル賞とイグノーベル賞のコンボが成立したことになる(笑)。


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