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山崎元『経済評論家の父から息子への手紙』❷お金の増やし方と資本主義経済の仕組み

前の記事から続く


ダイジェスト

●  お金を効率よく増やすための結論

資本主義経済は、リスクを取りたくない人間から、リスクを取ってもいい人間が利益を吸い上げるようにできている。利益を吸い上げる際に介在するのが「資本」であり、資本に参加する手段が現代では「株式」だ。

p.55

● お金を効率よく増やす方法

(1)生活費の3〜6ヶ月分を銀行の普通預金に取り分ける。残りを「運用資金」とする
(2)運用資金は全額「全世界株式のインデックスファンド」に投資する
(3)運用資金に回せるお金が増えたら同じものに追加投資する。お金が必要な事態が生じたら、必要な分だけ部分解約してお金を使う

p.56

現実にはNISAやiDeCoといった制度を利用すると得だが、これらは有利な置き場所というだけで、いわば「器」だ。その利用法は基本を実行する上でのアレンジに過ぎない。

インデックスファンドに投資した場合のリターンは、100年に2〜3度クラスの「最悪の場合」で1年に1/3くらいの損失、同じくらいの確率の「幸運な場合」では4割くらいの利益、平均的には短期金利がほぼゼロなら年率5〜6%くらいだと考えられている。
※本書執筆時点の短期金利はほぼゼロで、利益に対して約2割の税金がかかるとすると、年率4%くらいになる。

● 絶対に損しない運用とは

 「個人向け国債変動金利型10年満期」は低利回りだが安全で無難だ。財務省のホームページで調べよ。

● 運用の三原則

「長期」「分散」「低コスト」
長期運用、分散投資、安い手数料、の意

● 長期運用

大事なのは、経済の状況や相場の情報を見て「売り・買い」をしないことだ。投資額を、株価が上がりそうな時に減らし、上がりそうな時に増やすような操作はうまくいかない。「持ちっぱなし」がいい。

p.66-67

運用のプロや金融界は、経済や相場を分析してコメントを出し続けているが、これは仕事の都合上そうしているだけだ。運用の役には立たない。信じてはいけない。

p.67

● 分散投資

判断を加えて集中投資する方が効率よく稼げるように思うかもしれない。しかし、
人間の判断力などたかが知れている。やめておく方がいい。

p.68

● 低コスト

同種のリスクの金融商品の比較はまず手数料で行う。運用商品の9割以上は「初めから検討に値しない」ことがわかる。売り買いの際に生じる手数料も、運用管理費用や信託報酬も重要だ。

p.69

● 資本主義経済の仕組み

まず、「会社」とは何か。「人がお互いを利用するために作るもの」だと考えてみる。

次に、「経済」とは何か。主には生産と消費だが、生産は「資本」と「労働」によって成り立っている。それでは、「資本」の中身とは何か。

「資本」とは会社の雑多な財産の集合体に貼られた単なるラベルのようなものだ。工場や設備、商品の原材料、ノウハウや特許、土地建物、現金や預金などである。「資本」自体に固有の意思や運動法則があるわけではない。資本主義云々といった俗説や、経済学の書籍は気にしなくていい。

会社の利益はどこから出るのだろうか。資本を利用する労働に起因するものもある。単純な労働だけでなく、新製品の発明や生産方法の改善のような大きなものから、商品の売り方のような小さなものまで含めた技術進歩も企業の利益の源泉になっていて、頻繁に発生しているが、この利益も資本家のものになりやすい。

2万円の生産に貢献して1万円しかもらわない労働者は、安定(リスクを取らないこと)と引き換えに、そこそこの賃金で満足する。彼らこそが、世界の養分であり経済の利益の源なのだ。

世の中は、リスクを取りたくない人が、リスクをとってもいいと思う人に利益を提供するようにできている。(中略)経済は「適度なリスクを取る者」に取って有利にできている。大事なことなので覚えておけ。

p.86/p.89

会社側は、なるべく労働者が「取り替え可能な労働者」となるように社員の仕事を設計しているから、賃上げの交渉もしづらい。一方で、働く側から見ると、自分自身が「労働者タイプA=取り替え可能な労働者」にならないような工夫が必要だということだ。

● 労働者タイプB

労働者タイプAは、①取り替え可能な人材になる、②会社が用意した働き方だけで満足する、③雇用不安や賃金減少のリスクを極端に嫌う、などの特色がある。

少数ながら存在する労働者タイプBは、「経営ノウハウ」「複雑な技術」「財務ノウハウ」など、資本家が理解できないブラックボックスを会社の中に作って自らの立場を強くして、主に「株式性のリターン」の形で、本来なら資本家に帰属するかもしれない利益を巻き上げていく。

同書 p.89

具体的には、どんな人なのか。大体は頭脳を武器としていて、個性的な存在だ。現在、労働者タイプB的な社員が有利でかつ徐々に存在感を持ち始めていることに、世間はまだ気がついていない。株主から巨額の報酬をむしり取る米国企業の経営者の弊害は世間で目立ち始めているが、ほどほどのレベルで資本家の隙をつくことは悪いことではない。

● 株式のリターンはどこから生まれるのか

株式投資のリターンは企業や経済の成長から得られるというのは、素人が考えがちなことだ。株式のリスクプレミアムは市場での株価形成の過程を通じて生じる。株式投資は、対象が高成長でも低成長でも同様に有望でありうる。投資家が機体を託すべき相手は、「経済成長」ではなく「市場の価格形成メカニズム」なのだ。

高成長でも低成長でも、割引率が同じなら期待リターンは同じになる。分散投資でリスクを低下させて、低コストな投資手段を使うことでコストを抑えて、長期に渡って投資して「リスクプレミアムをたくさん集める」ことが重要だ。そのため、全世界株式のインデックスファンドへの長期投資が有用だ。

● 人間関係とお金の問題を完全に切り離せ

お金の貸し借りは友人・知人が相手だとストレスが大きい。「基本的にはやめておけ」。債務の保証人は「絶対にやめておけ」と言っておく。
生命保険と投資商品は友人が紹介するようなものにろくなものはない。一切関わるな。「悪いけれど友情とお金は一切絡めないことにしている」と言おう。

● 保険について

次の2大原則を押さえておけ。第一に、保険は「滅多に起こらないが起こった時の損失が壊滅的な事象」に備えて「仕方がなく加入するもの」だ。第二に、保険は保険会社が得で加入者が損をするようにできているものだ。
若いビジネスマンがどうしても必要なのは、自動車の任意保険、火災保険、お金がない状態で子どもが生まれた場合の稼ぎ手の死亡保障の生命保険(掛け捨てで保険料は安いものを選べ)だ。

● お金の管理について

将来に向けて毎月必要だと思う貯蓄(具体的にはインデックスファンドへの投資)ができていれば、細かな収支は気にしない方針をお勧めする。
稼いだお金はおおらかに使うといい。自己投資は将来に対する投資だから大いにするといい。中身は、①知識、②スキル、③経験、④人間関係、⑤時間だ。
そして、お金が足りないと思ったら、節約よりも「もっと稼ぐ方法はないか」と考えるようであってほしい。

● 狙い筋Aを目指し、狙い筋Bも併用せよ

同書 p.110

これから世に出て一旗揚げようと思う若者はどのようなコースを目指すといいのか。狙い筋Aとは、すなわち自分で起業する、起業の初期に参加する、ストックオプションをたくさんもらえる条件で働くなどで、株式性のリターンを求めるのだ。この場合、リスクにさらす賭け金は自分の「人的資本」だ。使えるものは、惜しみなく、早く使え。狙い筋Bは、せめて自分が持っている「金融資産」だけでもリスクをとる方法だ。これらを併用していくのが合理的だ。

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