見出し画像

後発スマホゲームの著作権侵害が争われた事例(「放置少女」事件)

「これって『パクり』になりませんか?」

ゲーム会社の方から良く頂くご相談の1つですが、今日はこの点について、最新の裁判例である、「放置少女」事件(知財高判令和3年9月29日)をご紹介いたします。
なお、本件の争点は多岐に及びますが、ゲームの著作権侵害に関する範囲で、事件をご紹介いたします。
また、知財高裁の判決は、基本的に第一審の地裁判決(東京地判令和3年2月18日)を引用しておりますので、知財高裁が改めた部分以外は、地裁判決から引用いたします。

事実関係(裁判所の認定)

X社:「放置少女 ~百花繚乱の萌姫たち~」の著作権者
Y社:「戦姫コレクション ~戦国乱舞の乙女たち~」を制作・配信する者
X社は、Y社に対して、「放置少女」より後に配信が開始された「戦姫コレクション」の公衆送信(配信)の差し止めとデータの削除、5760万円の損害賠償を求めて訴訟を提起しました。

「放置少女」(原告ゲーム)と「戦姫コレクション」(被告ゲーム)との間には、以下の類似点がありました。

①ゲームの基本的構成

  • 歴史をテーマにし、歴史上の武将を美少女化し、フルオート機能を備えた放置系RPGゲーム

  • サーバー内のプレイヤー同士でグループを作り、ボス等に挑戦することができる「同盟」機能

  • キャラクターのステータスや装備を好みに合わせて強化育成できる「強化育成」機能

  • サーバー内のプレイヤー間や同盟を結んだプレイヤー間で情報交換をすることができる「チャット」機能

②-1キャラクターの名称、構成、機能

  • キャラクターが「主将」と「副将」から構成される

  • 「主将」の職業は、初めてゲームを開始する際に、「筋力」をメインの能力とするもの、「知力」をメインの能力とするもの、「敏捷」をメインの能力とするものの3つの中から選択する

  • 「副将」は、歴史上の人物が女性化して登場し、一定の条件を満たすと、当該副将が使用できるようになり、レベルが上がるにつれて副将の数を増やすことができ、副将を「出陣」させたり、「応援」させたりすることができる

  • 各キャラクターは、画面上で華麗にゆらゆらと動いており、キャラクターをタッチすると、キャラクターのボイスを聴くことができる

②-2各画面の名称、構成、機能

  • 合計84画面の構成・機能・画面配置等が共通している(裁判所の公開判決文から別紙が省略されているため詳細不明)

③利用規約

  • 会社名を除き、同一

④ゲーム全体

  • 「ホーム」、「戦場」、「陣営」、「倉庫」、「チャット」、「同盟」の各画面を主要画面とし、ホーム画面上にボタンが表示される「競技」、「ショップ」ないし「商店」、「鋳造」、「任務」、「特典」、「チャージ」の各画面その他各種イベントに関する画面を中心とする構成である

  • 「戦姫コレクション」のテスト版では、「サーバーデータ取得エラー26002」という原告ゲームと同じエラーメッセージが用いられていた

  • 「戦姫コレクション」の通貨は「判金」であるにもかかわらず、イベント画面において原告ゲームで用いている「元宝」(中国の貨幣)の名称が用いられていた

  • 「戦姫コレクション」には、該当する名称の機能等が存在していないにもかかわらず、「放置少女」内の機能等の名称である「同盟争覇戦」、「訓練所」、「遊歴」、「神将交換」、「高速戦闘」、「弓将」、「総力戦」、「神器」の用語がそのまま用いられており、チャット機能において、「放置少女」と同じバグが存在している

  • 「戦姫コレクション」のソースコードには、「放置少女」の開発担当者の名前が残されたままとなっている

⑤ゲームのプログラム

  • 「放置少女」の「任務(ミッション)」に係る画面の切り替え等の機能に関するプログラムのソースコードと、これに対応する「戦姫コレクション」のソースコードは、その大部分が一致している(90.66%)

  • 当該ソースコードの「AUTHOR」欄の開発担当者の氏名に「放置少女」の開発担当者の名前が残されている

結論

Y社による「戦姫コレクション」の制作及び配信は、「放置少女」の著作権(複製権、翻案権、公衆送信権及び編集著作権)を侵害しない

理由

裁判所は、著作権(翻案権)侵害に関する従来の基準を示したうえで、特に、いわゆるスマートフォン向けゲームの各画像と「一連のまとまった表現を構成する各画像…の組合せ・配列により表現される画像の変化」について、著作権法による保護の対象になるとしつつ、以下のように判断基準を述べました。

また、このようなゲームは、プレイヤーが参加して楽しむというインタラクティブ性を有しているため、プレイヤーが必要とする情報を表示し、又はプレイヤーの選択肢を表示するための画面(ユーザーインターフェース)(乙9~11)を表示する必要があり、また、ディスプレイ上に表示される画面は常に一定ではなく、プレイヤーが各画面に設置されたリンクを選択することによって異なる画面に遷移し、これを繰り返してゲームを進めるという仕組みになっているところ、一連のまとまった表現として把握される複数の画像が、プレイヤーの操作・選択により、又はあらかじめ設定されたプログラムに基づいて、連続的に展開することにより形成されている場合には、一連のまとまった表現を構成する各画像自体の創作性及び表現性のみならず、その組合せ・配列により表現される画像の変化も、著作権法による保護の対象となり得る。もっとも、このようなゲームにおける各画像及びその組合せ・配列については、プレイヤーによるリンクの発見や閲覧の容易性、操作等の利便性の観点から機能的な面に基づく制約を受けざるを得ないため、作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は自ずと限定的なものとならざるを得ず、上記制約を考慮してもなおゲーム作成者の個性が表現されているものとして著作物性(創作性)を肯定し得るのは、他の同種ゲームとの比較の見地等からして、特に特徴的であり独自性があると認められるような限定的な場合とならざるを得ないものというべきである。

東京地判令和3年2月18日(裁判所HP)

そのうえで、以下のとおり、上記の共通点を個別に検討し、著作権を侵害しないと判断しました。

①ゲームの基本的構成

②-1キャラクターの名称、構成、機能

いずれも両ゲームのシステムないしこれに対応する機能であって、アイデアにすぎない

東京地判令和3年2月18日(裁判所HP)

②-2各画面の名称、構成、機能

各画面は、アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告ゲームの各画面と同一性を有するにすぎないものであり、また、具体的表現においても相違する

東京地判令和3年2月18日(裁判所HP)

③利用規約

一般的に、ゲームの利用規約は、法令や慣行により、形式及び内容が定型的なものとなりその創作性が認められるのは、それにもかかわらず作成者の個性が発揮されたといえるような極めて限定された場合に限られると考えられる。しかして、弁論の全趣旨によれば、原告ゲームの利用規約は、LINEゲームの利用規約と相当程度に類似しているものであることが認められる。そして、原告ゲームと被告ゲームの利用規約に係る上記共通部分をみても、いずれも定型的なものの範囲にとどまっており、上記の限定された場合に当たるものとみられるものは存しない。そうすると、上記共通部分については、いずれも創作性が認められないものというほかなく、そのような点が共通するとしても、複製又は翻案に当たらない。

東京地判令和3年2月18日(裁判所HP)

④ゲーム全体

これらのゲーム内容及び各画面等については、基本的構成、具体的構成及び利用規約のいずれにおいても、アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において共通しているにすぎず、また、具体的表現においては相違するものである。

東京地判令和3年2月18日(裁判所HP)

被告ゲーム全体の構成・機能・画面配置等の組合せ(画面の変遷並びに素材の選択及び配列)についても、アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告ゲームのそれと同一性を有するにすぎないものというほかなく、これに接する者が原告ゲームの画面の変遷並びに素材の選択及び配列の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないとみるべきであるから、複製又は翻案に当たらないというべきである。

東京地判令和3年2月18日(裁判所HP)

上記の事実から、被告ゲームが原告ゲームを参考にして制作されたことが認められるとしても、その共通点はアイデアや創作性のないものにとどまり、また、具体的表現において相違し、デッドコピーであるとは評価できないのであるから、被告ゲーム全体が、原告ゲーム全体の複製又は翻案に当たるということはできない。

東京地判令和3年2月18日(裁判所HP)

⑤ゲームのプログラム

原告ソースコードの記述は、いずれも単純な作業を行うfunction(ローカル変数やテーブルの宣言及びモジュールの呼び出し等)が複数記述されたものであり、ソースコードによって記述される機能が上記のとおりローカル変数やテーブルの宣言及びモジュールの呼び出し等の単純な作業を行うことである以上、表現の選択の幅は狭く、その具体的記述の表現も、定型的なものであり、ありふれたものであると言わざるを得ない。
また、個々の記述の順序や組合せについても、ゲームの機能に対応させたにすぎないものであり、ありふれたものである。
そうすると、原告ソースコードの具体的記述に控訴人の思想又は感情が創作的に表現され、控訴人の個性が表れていると認めることはできないから、原告ソースコードに係るプログラムは、プログラムの著作物に該当するものと認めることはできない。

知財高判令和3年9月29日(裁判所HP)

若干のメモ

概要

ゲームの「パクり」問題については、ファイアーエムブレム事件(東京高判平成16年11月24日)、釣りゲーム事件(知財高判平成24年8月8日)、プロ野球ドリームナイン事件(知財高判平成27年6月24日)が著名ですが、本件は、昨今のいわゆるリッチなスマートフォンゲームに関する最新の裁判例です。

事実関係としては、利用規約が会社名以外同一である、特定機能のプログラムのソースコードの類似度は90.66%である、「戦姫コレクション」のソースコードには「放置少女」の開発担当者の名前が残されたまま、など、X社が訴訟提起に至るのも無理からぬ事情が認定されていますが、著作権法上は、権利侵害がないとの判断が示されました。

判断基準

ご承知の通り、ゲームの「パクり」、すなわち著作権(翻案権)侵害については、一般に「既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるか」という基準で判定され、本判決もこの基準を踏襲しています。

本判決は、当該基準に加え、特に、各画像と「一連のまとまった表現を構成する各画像…の組合せ・配列により表現される画像の変化」について、著作権法による保護の対象になるとしつつ、スマートフォン向けゲームの特徴から、創作性の判断基準を示した点が、今後の参考になるものと思われます。

すなわち、一般に、後発ゲームに模倣されやすい、ゲームのシステムやルール自体は、アイデアとして著作権法上保護されません。
そのため、先行ゲームは後発ゲームに対して、(やむを得ず)ゲーム画面やゲーム画面の組み合わせ(画面遷移)等の類似性による著作権侵害を主張することが多くなります。

この点について、本判決は、先行ゲームのゲーム画面やゲーム画面の組み合わせ・配列により表現される画像変化等につき、「著作物性(創作性)を肯定し得るのは、他の同種ゲームとの比較の見地等からして、特に特徴的であり独自性があると認められるような限定的な場合とならざるを得ない」と判示しました。

本判決の基準は、先行ゲーム側からしますと、相当厳しい基準と考えます。
何故なら、スマートフォン向けゲームは、画面の大きさや入力インターフェースが原則タッチパネルであるなどの制約があり、類似ゲームと異なる、特徴的な画面や画面遷移が備わっていることは考えにくく、創作性が認められる場面は相当限られるように思われるためです。

実際、本判決でも、「放置少女」と「戦姫コレクション」は「放置系RPG」のジャンルに属するとして、類似ゲーム96個を認定したうえ、その類似ゲームに比較して、「放置少女」の画面の機能や遷移方法が特に特徴的・独自性があるものではない、という判断がされています。

ジャンル・同種ゲームの認定

本判決の上記基準からしますと、ゲーム画面やゲーム画面の組み合わせ・配列により表現される画像変化等の創作性については、①先行ゲームのジャンルを認定し、②同ジャンルに含まれる「同種ゲーム」を認定し、③「同種ゲーム」と比較して、先行ゲームに特徴的である独自性があるか検討する、という手順で判断することになると思われます。

この点、①や②の認定は難しく、本判決でも、「放置系RPG」というジャンルに含まれるゲームの認定が実態に即しているのかという点は、やや疑問の余地があると考えます。

「放置少女」は、確かに、放置して育成できることをアピールしているゲームですが、判決では、放置系RPGとは「プレイヤーが、実際にプレイすることなくアプリを閉じていても、ゲームが自動的に進行し、経験値を獲得してキャラクターを育成することができる機能(フルオート機能)を有し、ゲームを再開した際に、プレイヤーが何らかの利得を得ることができ、あるいは放置することで楽しめるジャンルのロールプレイングゲームを意味する」と定義されています。

この定義ですと、フルオート機能が少しでも入ったゲームは、「放置系RPG」になりますが、これはゲームをプレイされている方からしますと、違和感がある結論ではないかと思います(なお「ロールプレイングゲーム」も相当意義が広いため、ほぼゲームが限定されないように思われます)。

例えば、判決で類似ゲームとされた96個のゲームの中には、「ファイアーエムブレム ヒーローズ」が含まれていますが、「ファイアーエムブレム ヒーローズ」は、基本的にはキャラクターを操作して敵ユニットを倒し、経験値を獲得して育成するゲームです。
リリース後のアップデートで、「おでかけヒーローズ」や飛空城の「おまかせ派遣」等の要素が追加され、特定の操作を行えば、アプリを閉じていても、一定時間経過後に成長に用いるアイテム等を入手できる機能は実装されましたが、このようにいわばサブ的に当該機能を備えているゲームが「放置系RPG」になるのか、という点はやはり疑問が残ります。

本判決を踏まえますと、類似ゲームが多いほど、「他の同種ゲームとの比較の見地等からして、特に特徴的であり独自性がある」との主張が困難になりやすいため、先行ゲーム側としては、①先行ゲームのジャンルを限定し、かつ、②同ジャンルに含まれるゲームを限定する主張を行う必要が生じます。
しかしながら、②について、個別のゲーム性を裁判所が詳細に認定することは難しいように思われ、上記のようにそのジャンルの特徴を少しでも備えていれば、同ジャンルに含まれると認定される可能性もあります。

この点でも、本判決の基準は、先行ゲーム側としてはやや厳しい基準といえそうです。

余談

本件は、相当程度知名度のある放置系RPGの著作権者が、後発の類似したアプリゲームに対して、配信差し止めや損害賠償を求めた事件です。

裁判所が認定したゲームシステムの共通点、一部ソースコードの類似性や利用規約が同一である点等からしますと、Y社が「放置少女」を参考にし、また、一部のデータを用いて「戦姫コレクション」を制作した可能性は高いようには思われますし、「放置少女」側のクリエイターの方等からすれば、納得しがたい結論かと思われます。
ただ、そもそもシステムやストーリーといったアイデアが重要になることも多い「ゲーム」について、著作権法は保護することがあまり得意ではありません。
個人的にも悔しい思いをすることはありますが、これを前提に、自社のゲームをどう守り、育てていくかを検討することが重要ではないかと考えます。

なお、結論として著作権の侵害はないとされたものの、訴状が到達した2018年10月1日から1年弱後の2019年7月21日に、「戦姫コレクション」は配信を一時停止し、第一審の東京地裁の判決が出る前に、配信差し止めについては、事実上の対応がなされています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?