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スマホゲームにおけるサービス終了通知前の課金の返還が争われた事例

スマホゲームにおいて「サ終」(サービス提供の終了)はつきものです。
今回は、そのゲームに約160万円を課金していたユーザーが、「サ終」に伴って、これまでの課金分の返還を請求した事例をご紹介いたします(東京地判令和1年12月18日)。

事実関係(裁判所の認定)

X:本件ゲームのユーザー
Y:本件ゲームに関するサービスを提供する会社

  • Xは、約1年半で本件ゲームに166万800円を課金しましたが、最後に課金した日の4日後に、本件サービス終了の告知を受けました。Xの最終月の課金額は16万6600円です。

  • 本件ゲームにおいては、サービス終了の告知間際まで、キャンペーンが実施されていました(課金することなくアメジスト(課金アイテム)を入手できる、ガチャの高レアリティの確率を上げる等)。

  • 本件ゲームの規約には「当社はユーザーに対して何ら責任を負うことなく、60日の事前通知をもって本サービスを終了することができます」との一文が入っていました。

簡単な時系列は以下のとおりです。

本件の時系列(筆者作成)

Xの請求

Xの請求は、課金した160万円余りを支払え、というものです(※1)。

  • 主位的請求(債務不履行に基づく損害賠償)

    • 当該ゲームに関するサービスの提供を終了する旨の通知をする日より相当期間前に、サービスの提供が継続すると誤信させるようなキャンペーン等を停止すべき信義則上の義務を負っていたにもかかわらず、これを停止しなかった

  • 選択的請求(不当利得返還請求)

    • 被告がサービスの提供を終了することを予定しているとの不利益事実を故意に告知しなかったため、原告はサービスの提供が継続するとの誤信に基づき料金の支払に係る意思表示を行った

    • 消費者契約法4条2項(不利益事実の不告知)により当該意思表示を取り消す、又は当該意思表示は錯誤により無効

  • 予備的請求(不法行為に基づく損害賠償請求)

    • 被告においてサービスの提供の終了を相当期間前に決定していたにもかかわらず、サービスの提供が継続するかのように装い料金の支払を促した行為が不法行為に当たる

結論

Xの請求をいずれも棄却する。

理由

終了通知前にキャンペーン等を停止すべき信義則上の義務

裁判所は、以下のように述べ、Yは、キャンペーン等を停止すべき信義則上の義務を負わないと判断しました。

本件ゲームを始めとするソーシャルゲームは、サービスの提供に相応のランニングコストを要するものであり、ユーザーに対して永続的にサービスを提供し続けることができないことは、その性質上、不可避といわざるを得ない。本件ゲームにおいても、…本件規約6条で、本件サービスの提供期間は、被告がその裁量で決定し、60日前に通知をすることにより、サービスの提供を終了することができる旨が定められ、あらかじめユーザーに対して明らかにされている。そして、このような定めが明らかにされていることに加えて、60日という期間が通知からサービスの提供の終了までの期間として不相当に短いとはいえないことに鑑みると、少なくとも上記の通知がされる時までキャンペーンの実施やアメジストの販売等が行われることは、当初から予定されていたものということができ、また、ユーザーとしても、60日後に本件サービスの提供が終了することがあり得ることを前提に、アメジストの購入その他の課金の当否について判断することが求められているというべきである。
したがって、被告が上記の通知をする日より相当期間前に新たなキャンペーンの実施やアメジストの販売等を停止すべき信義則上の義務を負っていたとする原告の主張は、失当といわざるを得ず、採用することができない。

東京地判令和1年12月18日

終了決定後にサービス提供が継続すると装って課金させたか

また、裁判所は、Yが、本件サービスの提供が継続するよう装って課金させたともいえないと判断しました。

…本件ゲームにおいては、少なくともサービスの提供が終了する日の60日前に通知がされる時までキャンペーンの実施やアメジストの販売等が行われることが当初から予定されており、ユーザーとしても、60日後に本件サービスの提供が終了することがあり得ることを前提に、アメジストの購入その他の課金の当否について判断することが求められていたものである。そうであるとすると、被告が、ある時点において本件サービスの提供を終了することを決定していたにもかかわらず、ユーザーに対して当該終了予定時点以降も本件サービスの提供が継続することを明示して課金を促し、これを信じたユーザーが課金を行ったなどの事情がない限り、被告がユーザーに対して不法行為責任を負うことはないというべきである。
そこで、この点について検討すると、本件ゲームで行われていたキャンペーンは、…アメジストを通常時より安価で手に入れられるなど、直接にユーザーに対して課金をするよう勧誘するようなものがあったとは認められず、キャンペーンを行う中で本件サービスの提供が60日を超える一定期間継続することを明示していたなどの事情も認められない。これらのキャンペーンは、課金することなくアメジストを入手する機会を提供するものであったり、アメジストを使ってキャラクターを入手しようとした場合に希少価値の高いキャラクターを入手することができる確率を上げるものであったりすることからすれば、本件サービスを利用するユーザーを確保し、その利用頻度を維持することを主たる目的としていたものと認められ、これらのキャンペーンは、本件サービスの提供を継続させるために、被告においてユーザーを確保するための企業努力の一環として行っていたものといえる。
したがって、被告が本件サービスの提供の終了の通知をする間際までこれらのキャンペーンを行っていたことをもって、被告において本件サービスの提供を終了させる意図であったにもかかわらず継続するかのように装い原告に課金をさせたということはできず、原告の主張は採用することができない。

東京地判令和1年12月18日

消費者契約法4条2項(不利益事実の不告知)による取消し

さらに、消費者契約法4条2項(不利益事実の不告知)による取消しも認めませんでした。

…本件規約6条は、本件サービスの提供期間を被告の裁量によって決めることができ、60日前に通知をすることにより本件サービスの提供を終了することができる旨を定めている。そうであるところ、本件ゲームで行われていたキャンペーンは、…アメジストを通常時より安価で手に入れられるなど、直接にユーザーに対して課金をするよう勧誘するようなものがあったとは認められず、キャンペーンを行う中で本件サービスの提供が60日を超える一定期間継続することを明示していたなどの事情も認められない。したがって、原告が課金をする際の重要事項であると主張する本件サービスの提供の継続の有無に関して、被告が利益となる事項を告知して課金をするよう勧誘したとは認められず、消費者契約法4条2項により本件課金に係る意思表示を取り消す旨の原告の主張は理由がない。

東京地判令和1年12月18日

若干のメモ

スマホゲームは、いずれ「サ終」を迎えるものですので、過去の課金分160万円全額の請求が認められないとの結論は、妥当と考えます。
ただ、個別の記載については、やや気にかかる点があるところです。

終了通知の期間

本件で、裁判所は、「終了通知前にキャンペーン等を停止すべき信義則上の義務」について、ユーザーは、60日後に本件サービスの提供が終了することがあり得ることを前提に、課金を判断することが求められているとしています。
その理由は、ソーシャルゲームは、性質上、永続的にサービスを提供し続けることができないこと、規約にも60日前通知で提供が終了するとユーザーに示されていること、60日は不相当に短いとはいえないこと、という3点です。

そうすると、例えば、通知期間がより短い場合や、終了の際の通知期間の明記がない規約の場合は、判断が変わる可能性があるように読めるところです。
結論として、全額の返金請求が認められる可能性は低いと考えますが、事情によっては、一定期間に対応した返金が認められる余地はあり得るように思われます。
会社としては、この点を加味した規約作りや運用を検討すべきこととなるでしょう。

なお、ご承知の通り、会社と消費者との間で、損害賠償義務を全部免責する規定は無効になりますので、免責規定でこの責任を免れることはできません(消費者契約法第8条第1項第1号及び第3号)。

終了決定後にキャンペーンを行うこと

会社としては、内部的にサービス終了が決定したとなれば、これまでにないお得なキャンペーンを打つなどして、少しでも多くの課金を得たいと考えるのは、自然な考えと考えます。

本件では、「本件サービスの提供が継続するよう装って課金させた」というXの主張に対して、裁判所は、「被告が、ある時点において本件サービスの提供を終了することを決定していたにもかかわらず、ユーザーに対して当該終了予定時点以降も本件サービスの提供が継続することを明示して課金を促し、これを信じたユーザーが課金を行ったなどの事情がない限り、被告がユーザーに対して不法行為責任を負うことはない」としています(※2)。

ただ、この規範を前提とすると、極端にいえば、12/28にサービス終了と決めている事業者が、12/13まで、とてもお得なキャンペーンを開催し、12/14にサービス終了を通知しても、キャンペーンにおいて12/28以降もゲームが継続することを明示しない限り、問題ないとの結論になります。

この場合は、信義則上の義務や、不利益事実の不告知で救済するのかもしれませんが、そもそもキャンペーンで「ゲームがいつまで継続する」ということを示すことはほぼないことを考えますと、「継続することを明示して課金を促し」という規範を全ての事例に適用させることには、やや躊躇いがあるところです。
本件では、通知間際にキャンペーンは行っていたものの、課金を促すようなキャンペーンではなかったという認定がされており、その点も事実上、規範に影響した可能性もあるように思われます(ただ、ガチャの高レアリティの確率を上げるキャンペーンが課金を促さないのか、という点は議論の余地があるように思われます)。

また、法的な点を措いても、上記のようなサービス終了通知直前のキャンペーンは、会社の信用を損ねかねない点には、注意が必要です。

余談

(個人的にはあまり考えたくありませんが)スマホゲームは、いずれサービス提供が終了するもの、という点は、異論ないかと思います。
ただ、終了のさせ方には、少し注意が必要になります。

本件に関する点のほか、別の問題として、法的には資金決済法上の前払式支払手段の払戻しの対応の検討が必要になりますし、法的な点以外では中途になっているストーリーの扱いを始めとする、終了までの運用面も重要になるところです。

本文中でも触れましたが、スマホゲームのサービス終了は会社の信用を損なうおそれもありますが、上手く着地させて信用を向上させることもあり得る局面のように思われます。
本件は、約1年半で160万円課金したファンが、訴訟提起に至る事態となっていますが、その点でも参考になる事例ともいえそうです。


※1 課金額と損害賠償請求額に数万円の差がありますが、判決文からは理由不明です。

※2 なお、規範に続く認定も、やや違和感があるところです。
「被告が、ある時点において本件サービスの提供を終了することを決定していたにもかかわらず、当該終了予定時点以降も本件サービスの提供が継続することを明示して課金を促し」という規範ならば、被告が当該キャンペーン実施時に、2018年6月29日に本件サービスの提供終了を決定していたことを認定したうえ、2018年6月29日以降も本件サービスの提供が継続することを明示したかを認定すべきと考えます(60日を超えるか否かは規範との関係では無関係と思われます)。

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