- 運営しているクリエイター
記事一覧
絶望反駁少女 希望のビジュタリア Ⅰ-9
不穏
お嬢様のお色直しを控室の前で待っていたオレを横切ったのは──マグナ・アウストラシアの代表一団と、その輪の中心、オクタヴィア・アウグスタ。
わざと聞こえるように言ったのだろうが、オレはそいつらの会話を一言一句、聞き逃しはしなかった。
「あれでよかったのですか? オクタヴィア様……?」
「大国のプライドをかなぐり捨ててまで国際社会に泣きつくなんて、涙ぐましい『外交努力』ではありませんか。
絶望反駁少女 希望のビジュタリア Ⅰ-8
「ここで強調しておきたいのは、少子高齢化というのはいつまでも続くものではない、という事実です」
前の話|最初から読む
『希望』のターン
この発言で紛糾するということは、つまり会場の識者でさえビジュタリアの少子高齢化は『手遅れ』である、と内心認識していていることを如実に示している。
少子高齢化は食い止められる──オレが知っている限り、これを明確に言うことができたヤツは一人としていない。
そ
絶望反駁少女 希望のビジュタリア Ⅰ-7
議場がどよめく。
なるほど……
要するに国外から少子高齢化対策の費用を集めようってことね。
お嬢様の切り札っていうのは、これのことなのか?
国内での予算に限界があるなら、外から集めればいいじゃない──ってか。
理屈としてはあまりにも単純明快だが……そう簡単にうまくいくかな?
そう思っていたのはおそらくはオレだけではあるまい。
なんとも複雑な空気の中、一人の男が挙手した。
前の
絶望反駁少女 希望のビジュタリア Ⅰ-6
国際舞台
巨大な室内。巨大なアーチ状の座席にはスーツ姿の代表団。
さまざまな国籍の人々が入り混じり和気藹々と談笑しているが、彼らは遊びに来ているわけではない。一挙手一投足すべてが駆け引きの場。世界の代表者たちが一同に介する国際機関『グランディオヌム』の重要な会合がこれから始まろうとしている。
前の話|最初から読む
彼らに囲まれるように設置されているのは意外に小さく、質素な演説台。
これ
絶望反駁少女 希望のビジュタリア I-5
I-5 黄の国、ルクソス
機内ではちょっとした騒ぎがあったものの、以降のフライトはつつがなく進み、ついに今回の外遊の目的地へたどり着いた。お嬢様の真横に張り付く形で、オレも専用機から降りる。
「ここが……『ルクソス』」
「そうです。世界最大の人口と世界有数の国土面積・世界最古クラスの歴史を有する超大国にして、ビジュタリアと海を隔てて隣り合わせる友邦国家──通称『黄(ホアン)の国』。その経済と外
絶望反駁少女 希望のビジュタリア I-4
Ⅰ-4 高度1万メートルのラ・ロシュフーコー
「……ああは言ったが。いきなり外国遊説のお供とは人遣いが荒いもんだ」
「お嬢様、お昼です。どうぞ」
「ええ、ありがとう」
……オレの独り言に構う様子もなく、食事を持ってきた乗務員に物腰柔らかな笑みを見せる。まったく、誰にでも瞬時に笑顔を見せることができるっていうのもひとつの才能というか、政治屋の資質に恵まれているもんだ。
彼女とまったく同じも
絶望反駁少女 希望のビジュタリア I-3
I-3 魔法使いの契約
明治期の西洋を模した建築をさらに模したような、今どきなかなか足を踏み入れることもない邸宅。まるで王宮内のようなきらびやかな回廊を通り入った部屋は、かの有名な『鏡の間』を凝縮したような荘厳な雰囲気に包まれていた。
この国を実質的に支配しているのは誰なのかを見せつけているかのよう。
オレをこの邸宅に招いた少女・一色カスミは柔和に微笑む。
「ごめんなさいね、これはおじい
絶望反駁少女 希望のビジュタリア I-2
I-2 必然の出逢い
「おい……オレはこれから家に帰ろうとしていたんだが」
人が向かい合って座るにはあまりに長大。
ベージュを基調とした、高級感と清潔感あふれる内装。
いつのまに映画俳優にでもなったのだろうかと錯覚しそうにもなるが……オレは今、横にだだっ広い高級車と言うらしい何かに乗っている。
眼の前の男に憮然とした態度を取られているにもかかわらず、仮面でも張り付いているかのような柔和な
絶望反駁少女 希望のビジュタリア I-1
1 逸脱者 市街地を少し外れた、なんでもない路地。
そのマンホールの下には貧民街が広がっている。
放棄された下水道路のごく狭いスペースに雑居し、時にはパーティすら開かれる。そこではボスが金銭やモノの管理をしており、その命令は絶対なのだそうだ。
ヤツらのような存在はシステムからの『逸脱者』──デヴィアトルと称される。
「なんだァてめェ……見ない顔だな。新入りか?」
ハシゴを降りていた