元コンサルのFintechベンチャー事業開発担当から見た、金融機関のDX課題

日本の金融業界では、多くの会社が「DX」(注1)への取り組みを検討・推進しています。
その一方で「その取り組みがなかなか前に進まない・うまくいかない」という状況も耳にします。(おそらく金融業界に限った話ではないが)

DX推進の定石としては「経営戦略として方向性を定めよ」「レガシーシステムの課題を解消せよ」といったことが言われますが、果たしてこれらは正しいのでしょうか?
もしくはこれらが正しいとしても、実際問題としてどのようにすればこれを推し進められるのでしょうか?
このような点について、金融業界(特に、私が携わっている保険業界)を念頭におきながら、個人的な考えをまとめてみたいと思います。

先に、私がこの記事で言いたいことを簡単にまとめます。

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1. はじめに

改めまして、Finatextグループで保険事業の開発を推進している、河端といいます。
Finatextに入社する前は、コンサルティング会社で大企業の新規事業(DXにも関連)のお手伝いをしてきました。
コンサル時代には大企業側でDXの動きを見てきて、今はスタートアップでDXの動きを後押しするようなビジネスを作っていく中で、業界に共通する課題構造のようなものがうっすらと見えてきたような気がしていました。そんな時に公開された、当社CEOの林によるDXについてのnoteに触発され、この機会に現時点での考えを整理してみることにしました。


2. 金融機関のDXに対する私なりの理解

DXを捉えるフレーム

ここでは、DXを企業視点から考えてみます。
そこで企業活動を「顧客への価値提供」という観点から、いくつかのレイヤーに切って捉えてみたいと思います。

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階層1 顧客インターフェイス:顧客との接点。営業や契約手続きの契約保全、保険でいえば支払い請求の窓口を指します。

階層2 業務オペレーション:企業内部の業務処理の仕組み・体制。顧客に相対するフロント業務からバックオフィス業務までを指します。

階層3 商品・サービス:金融商品や付随サービスの設計。またそれを管理する基幹システムを指します。(注2)

階層4 経営思想・文化:企業のソフト面。大小様々な意思決定の判断基準、役職員一人ひとりの考え方を指します。

DXを推進するとは、上記1~4の各階層に対して、
「第3のプラッ トフォームを利用して、新しいモデルを作ること」と考えたいと思います。

日本の金融機関が置かれている状況

階層の整理は「下の階層が上の階層を下支えするもの」であると考えていることを意味します。
つまり、上の階層をいくら変えても、下の階層の変革が伴っていなければ、すぐに元に戻ってしまったり、部分最適に陥ってしまったりして、企業の長期的競争戦略にとって意味のあるものにはなりにくい、ということです。

そのため、抜本的なDXを最短距離で進めるのであれば、一番下の階層4から3,2,1と上に変えていくのが一番かと思います。(注3)

しかし、多くの金融機関は、上の階層1から2,3,4と徐々にトライして変革を進めていかざるを得ない、というのが実情のように思います。
既に大きなビジネス・巨大な組織を抱える金融機関が、いきなり下の階層から変えるのはとても難しい(ほぼ不可能)であるため、まずは比較的小さく始めやすい表層部分から、手を付けることが多い印象です。
保険の例でいえば、まずは、1.保険契約・保全手続きをデジタル化する、2.査定業務をデジタル化するというところまでを進めてみる、という具合です。

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階層ごとの具体的なハードル

上の階層から徐々にDXにトライしていく前提で、金融機関が各階層で直面している/しうる課題について整理してみたい思います。

階層1 顧客インターフェイスDXのハードル:成果が出ない・早々に潰される

多くの場合、顧客と接する部分の一部だけを超表面的にデジタル化することになります。(注4)
これらの取り組みは往々にして、ビジネス成果は出にくく、社内外からは「意味がないよね」「結局売れなかったよね」という反応が起きやすい気がします。
特に金融機関には、盤石な既存事業があるので、それと比較して「全然うまくいかない」という評価になりがちなように思います。

階層2 業務オペレーションDXのハードル:社内ステークホルダーの巻き込み

業務オペレーションを変革しようとすると、何かしらのデジタルツールやシステムを導入しながら、その業務に関わる人の動き方を変えていくことになります。
しかし、すでに「対面・紙」での手続きを念頭に置いた人力中心のオペレーションが構築され、膨大な人数のスタッフが現在進行形で動いているため、これを少し変えるだけでも至難です。
また、各業務プロセス・機能ごとの分化が高度に進んでおり、顧客への価値提供プロセスとして統合的に変えていくためには、様々な部門・決裁権者を巻き込む必要があり、それも大きなハードルになっているように思います。

階層3 商品・サービスDXのハードル:高収益な既存事業の呪縛

日本の金融業界は成熟産業・成熟市場で、特に大手は、既に比較的安定的かつ巨大な収益源を確立しています。
成功するかもわからない(実際に多くは失敗作に終わる)新市場開拓や新商品投入よりも、既存市場保守や既存商品改善を考えてgoing concernでビジネスを進めた方が、短~中期での投資対効果は圧倒的に高いです。(注5)
それゆえに、既存事業と同じ土俵で評価されると、計画やアクションが潰されていくことが多いように思います。

階層4 経営思想・文化DXのハードル:組織の慣性

組織の意思決定の仕組みと個々人の思考・行動様式を、「顧客中心主義発想」と「探索型アプローチ」に切り替えていく必要があります。
しかし、すでに従来型ビジネスを効果的に進めるために最適化され、数十年に渡り・数万人に「あたりまえ」(注6)として浸透してしまっているものを見直すのは、極めて難しいことかと思います。

全階層に共通のハードル:ミニマム初期投資額の大きさ

DXの取り組みは、必然的にシステム改修を伴うことが多いです。
しかし、金融機関のレガシー基幹システムは、少しいじるだけでも数年・数億の投資を要すると聞きます。
また、業法・認可制ビジネスなので、商品・サービスの内容や事業の進め方が、認可事項になっていることも多く、この手続きにも大きなコストがかかります。
そのため、この初期投資に見合う、最低数億~十数億規模の収益が高い確度で狙える案件にしか「GO」が出にくいという構造になっているように思います。(個人的に勝手に「2年・5億の壁」と呼んでいます)


3. どうしたらいいか?

ここでは、上の階層から徐々にDXにトライしていく前提で、
a. どんなスタンスでプロジェクトをデザイン・管理すべきか?
b. プロジェクトチーム・メンバーはどのような行動をすべきか?
について、それぞれ大事だと思うことをいくつか挙げたいと思います。
(「階層ごとのハードルをどう乗り越えるか」という話ではない点、ご注意ください)

a. DXプロジェクトをデザイン・管理する際の基本スタンス

a1. ベースは特定の事業・プロダクト領域で小さく始めてみて、大きく広げていくというアプローチ

やってみないとわからないことも多いので、過度に失敗を恐れない姿勢が必要です。
特定領域に絞って(注7)・小さな投資で始めて、スモールwinを重ねてながら、徐々に取り組みを大きくしていく発想です。
イメージとしては、これまでは「年3つ大きなチャレンジをして2つ成功させる」という「大規模・勝率優先のアプローチ」をしてきたと思いますが、DXの新しいチャレンジにおいては「年10こチャレンジをして、3つ成功させる」という「小規模・勝利数優先のアプローチ」を指向すべきだと思います。(注8)

a2. 広さ(事業・プロダクト領域)と深さ(階層)、どこからどんな順番で掘り下げるかを想定しながら進める

DXは、一回で完成することはない、断続的なトライアルと改善・拡大の営みです。
「まず特定の狭い領域で1~2階層目までトライしてみる。その後、同じ領域で3階層目まで掘り下げる or 別の領域でまた1~2階層目までトライしてみる」といった営みの繰り返しで、徐々にDXの広さと深さを広げていく必要があります。
前のアクションが次のアクションにつながっていくため、どんな順番でアクションしていくべきかを常に考え、社内外の状況に応じてアップデートしながら進めていかなければなりません。

a3. 個々のアクションのスコープ&ゴール像の共通認識化

事前に「どの階層までのDXを目指すのか」それによって「どんな成果を得るのか(≒次のステップにどうつなげていこうとしているのか)」を明確化し、関係者全員で目線を合わせることが必須です。
こう書くと、至極あたりまえの話ではありますが、
事前のゴール像の設定が「全社DXに貢献する」といったレベルで留ってしまっていたために、
「プロジェクトメンバー内で判断基準がバラバラで意見がまとまらない」
「プロジェクト外の人から本来KGI・KPIでない指標(例えば収益面など)で批判的評価を受ける」
といった状況に陥り、
プロジェクトメンバーが翻弄されたり、
プロジェクトが停滞したりするケースは割とあるように思います。
もう一歩、スコープとゴール像をするだけでも、状況はだいぶ変わる気がします。

b. 具体的にプロジェクトチーム・メンバーに求められる動き

b1. とにかく形にする

始める前の段階で「どんなものができるか」「どんな成果が出るか」の見通しをクリアにして説明することには限界があります。
まずは、粗々でもいいから形にしてみて、実物で議論する・まわりを巻き込むという動き方が必要です。
ある種、最初のうちは「まずはやってみる」ということ=「やることが目的化すること」も大事だと思います。

b2. 既存の物差しを忘れる・新たな物差しを定義する

特に新しい領域で検討をする際には、既存の事業管理とは異なる物差し(評価・判断基準)が必要になります。
・「対既存事業」ではなく「対計画」で評価する、
・「規模」ではなく「投資対効果」で評価する、等
また、成果が見込みにくい以上、必要な投資額も従来よりも、1ケタ~2ケタ低い中で考える必要があります。

b3. 全社拡大の機を図り続ける

金融機関のDXの大きなボトルネックは「レガシーシステム」とそれに紐づけられたオペレーションにあるため、
小さく始めつつも、どこかのタイミングでは全社レベルでの大規模なシステム体制・設計の変革に向き合う必要があります。
それをどこで仕掛けるか・いつアクセルを踏み込むかには、慎重な判断が求められるので、
最初の一歩目のアクションの段階から常に意識しておき、絵(仮説)を描いてそれをアップデートしながら、虎視眈々と機を図る必要があると考えています。

b4. 「リニューアルし続けられる設計」を重視する

やや繰り返しになりますが、「大きな絵を精緻に描ききってから、先に進もうとする」のは危険です。
現時点で完璧な設計を作ったとしても、今の技術や思考アプローチも数年~数十年後には陳腐化して「レガシー」になります。
今の「レガシーシステム問題」二の轍を踏まないためにも、自社も環境も断続的に変わっていくことを前提にした「リニューアルし続けられる設計」に知恵と技術を注ぐことが大事だと思います。


4. おわりに

金融業界に対して願うこと

今の社会の状況下・対面販売が難しくなる中で、金融業界でもDXへの意識が高まりつつあります。
「早期に対応しないと、明日のビジネスが危ぶまれる状況」といった話を耳にすることもありますので、今は、応急措置として表面的な対応をすることもあるかもしれません。
しかし、拙速になって表面的な対応に陥るのではなく、これを第一歩として、階層3,4まで含めた本当の意味での変革につながり、金融業界がアップデートされていくことを願っています。そのために、頭の片隅のどこかで「将来的なDXにどうつなげるか」を意識して推進していくことが大事だと思います。

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(金融業界のDXや金融サービス開発に携わっている方へ)
「小さく始める」ということを書きましたが、「既存の基幹システムや開発体制の中では、小さく始める手だてがない」という話もよく聞きます。
「スモールスタートをいかにサポートするか?」が、我々Finatextグループの金融プラットフォームビジネスの役割の一つと考えています(注9)ので、是非お気軽にディスカッションをさせていただければと思います。

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注釈

(注1)DX
DXの定義は、経済産業省「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」でも参照されているIDC Japan株式会社の定義を前提にします。

企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラッ トフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術) を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリ アルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上 の優位性を確立すること

(注2)階層3 商品・サービスの具体例
金融商品自体は無形のものなので、オンラインもオフラインもないのですが、その設計が「デジタルで扱える/扱いやすい形になっているか」ということを意味しています。(例えば、保険商品でいえば、保険金支払いの条件がデジタル処理しやすい形で構造的に整理されているかなど)

(注3)抜本的なDXを最短距離で進めるためのアプローチ
経済産業省の「DX推進ガイドライン」はじめ、DXの正攻法として提唱されているアプローチ方法はこれに近いものを想定しているように思います。
また、テック系スタートアップの戦い方はこれに近いものがあるように思います。(業界・レガシーに対して、根っこの思想自体からインターフェイスまでがデジタル化した新会社で切り込んでいく)

(注4)顧客と接する部分の一部だけを超表面的にデジタル化することの例
「既存顧客の契約管理のためのオンラインページ(マイページ)を作る」
「顧客とのやり取りの一部をLINEでできるようにする」といった取り組みのイメージです。

(注5)高収益な既存事業の例
具体的に個人向け保険の例でいえば、生保の死亡保険、損保の自動車保険・火災保険が、超太い屋台骨として確立されており、人が生活している限りはニーズはあるので、これらをgoing concernで売り続けるのが、短期~中期収益を考えると一番効果的なのではないかということです

(注6)私が見直すべきだと思う「あたりまえ」の例
・反対意見にすべて折り合いをつけてから決裁する
・「他社がやっているから」という理由が物事の強力な説明材料になる
・「営業が売りやすい商品」という発想(だけ)で商品開発の議論・検討を進める

(注7)特定領域に絞る際の視点の例
・既存アセットや外部知見・サービスを使える領域
・失敗しても既存ビジネスへの影響があまりない領域

(注8)小さく始めてみて大きく広げていくための具体的取り組みの例
よくある「出島(社内特区)」をつくり既存事業の管理・判断基準から切り離して進めるというのも、このための一つの方法だと思います(本業にどうつなげるかを意識しておかないと、無用の産物になりかねないので、要注意)

(注9)我々Finatextグループの金融プラットフォームビジネス
これについては代表の林やCFO伊藤がまとめたりインタビュー記事が出ていたりしますが、私自身もまた別の機会に保険事業開発担当の立場でまとめてみたいと思っています

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Finatextグループで保険事業をしています。広告&コンサル出身です。