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DXはフィンテックと同じ道をたどる

一般名詞化した「フィンテック」

デジタルトランスフォーメーションの略である「DX」だが、もはやかつての「フィンテック」並みにホットなワードになっている。いやそれ以上だろう。金融に絞られないだけ、適応範囲がものすごく広い。

思えばフィンテックも、最初はスマホアプリを作って、オシャレなUIを実装するのがスタート地点だったと思う。その後、証券や決済などの“若年層を取り込む金融機関”になるベンチャーの参入が相次ぎ、今や大手金融機関の社内ベンチャーやチャレンジャーバンク、B2Bのサービスなど広がりと深みが出てきている。

「フィンテック」という言葉は、当初「テクノロジーを用いた新しい金融の形」という意味合いで受け取られていたと思うが、ことテクノロジーに関していえば、その後ブロックチェーンを除いて特に目新しいものは出てきていないと思っている。

僕の整理では、「フィンテック」とは一連のムーブメントである。スマホの浸透やクラウドコンピューティング、プログラミング言語の進化などによって、従来ものすごく初期コストや時間がかかっていたサービスが比較的安価にスピーディーに提供できるようになった。そうした環境変化の中で、大企業においても今までの枠組みにハマらない新たな取り組みをまるっと「フィンテック」という言葉でまとめて推進させていくようになった。数々の金融機関がフィンテック推進部を起ち上げたり決算資料でフィンテックという言葉を使うようになっていった。2020年現在、「フィンテック」という言葉は一般名詞化したといっていいだろう。

「DX」が歩む、3つのフェーズ

「DX」という言葉も「フィンテック」と同じ歩みをするのではないかと思っている。特に目新しい技術というものはないが、この言葉があることで、大企業では「DX推進部」なる部門ができて、新しいことをやる際の免罪符になっていくのだろう。このこと自体は僕らがスタートアップとして大企業と協業するにあたりものすごくいい機会だと思っているし、実態がまだ追いついていなくても、ある程度のお祭り騒ぎ的な盛り上がりは大企業が新興企業ともっと取引をすることにつながるので、日本経済的にもよいことだと思う。

完全に主観なのだが、フィンテック界隈の一経営者の視点からすると、「DX」は以下のようにフェーズが進化していくと推測している。

フェーズ 1- 業務効率化
フェーズ 2- シームレスなクロスセルの実現
フェーズ 3- オフラインとの融合

フェーズ 1 - 業務効率化

紙やマニュアルでやっていたことを自動化(RPA)したり、会員カードをアプリにしたり、出社や訪問を伴う対面の会議・営業をビデオ会議にしたりするフェーズだ。どちらかというと生産性を上げてボトムラインを上げていくという考え方に基づく。

この問題を解決するベンダーやAIベンチャーなどはたくさん出てきていて、アジャイルな開発手法やアルゴリズムなどで差別化をしている。業務というのは、表層のものからオペレーションに密接に結びついたものまであり、もちろん後者の問題解決の方が難易度が高いのだが、その分ペインポイントも大きく、スイッチングコストも高くなる。金融業界の文脈でいうと、大手SIerが今まで作ってきた基幹システムが本丸ということになる。

ただし、フェーズ1は直接的にトップラインを上げることにはつながらない。(「RPAを導入したものの、API連携しておらずメンテナンスのコストが下がらない」という話はよく聞く。)なので、ある程度の改善が一服すると、どうやってDXを加速させビジネスを拡大させるか、というフェーズ2に移っていく。

フェーズ 2- シームレスなクロスセルの実現

フェーズ2は、自社が持つ顧客基盤とデータを活用することによって、従来の本業以外のサービスを提供し顧客あたりの収益を最大化させていく段階だ。

自社の経済圏をいかに拡大するか。これを日本で一番うまくやっているのが、楽天だろう。楽天市場の顧客(会員)基盤から楽天IDと楽天ポイントを基軸に、楽天カード、楽天銀行、楽天トラベル、楽天証券など数々の楽天グループの事業に送客することで、顧客あたりの収益を最大化させ顧客基盤をさらに強固なものにしている。これにモバイルが加わり、ますます彼らの経済圏が強くなっていく。

楽天がEコマースというネット主体のビジネスでスタートし、会員基盤自体が最初からデジタルだったのに対し、伝統的な大企業はそうではないケースが多い。例えば、小売店が会員向けのアプリを作ったり、CRM基盤などをテコ入れし出したのも比較的最近のことだし、不動産業界では同じ顧客の情報をそれぞれの部門で別々に管理していたりなど、顧客あたりの収益(LTV)の最大化という考え方がまだまだ浸透していない。

フェーズ2で成功するために非常に大事な要素が2つある。

1つ目はデータによる顧客理解。大企業でいうと、自社の経済圏で顧客がどのような行動をとったかに加え、自社の経済圏“外”でどのような行動をとったかをあらゆる手を尽くして把握することである。この解像度が上がれば上がるほど、その顧客に対してより最適なサービスの設計や提案ができる。

2つ目は、外部サービスを利用するときのスムーズさ。メインとなる自社アプリからリンクさせればいいというわけではない。例えば、クロスセルの対象として金融サービスは非常に相性がいいが、資産形成を始める、保険に加入する、あるいはお金を借りる際、まったく違うテイストのゴツゴツした金融機関のウェブページに移ったり、個人情報を再度入力しなければならなかったりすると、ユーザーはその面倒くささに嫌気が差して離脱する。ユーザーに最後まで気持ちよく操作してもらうには、いかに他社サービスをメインのサービスに埋め込んで(=Embed)いくかが大事であり、かつ、それも一度Embedしたら終わりではなく、エンドレスにコンバージョンを上げていくためのPDCAを回し続けなければならないのである。

僕の所感としては、DXの定義や考え方がフェーズ2まで及んでいる大企業はまだ少ないが、遅かれ早かれこっちに考えがシフトしていくだろうと思っている。エンドレスにPDCAを回すフェーズ2は一段落するということがないのだが、話の流れ的に僕が思うDXの最終系がある。それがフェーズ3である。

フェーズ 3 - オフラインとの融合

フェーズ2でいうシームレスなクロスセルがデジタル中心にできるようになってくると、次は人の手を介したサービスの価値をいかに上げるかが主戦場になってくる。ここに関してはまだ僕も解像度が鮮明に見えているわけではないが、金融サービスを例にとると、「口座開設などの業務に人を大量に投入するのではなく、ライフプランニングなどのハイタッチな相談に乗るといったことに対面の時間を使うべき」といった議論である。

今回のコロナで見えてきたとは思うのだが、オンラインだけでリアルと同様の単価感を実現するのは難しい。バレエスクールの月謝と同じ値段を、Zoomのオンラインレッスンで取ることはなかなかできない (実際、友人のバレエ教師に聞いてみたところ、単価感としては1/5程度になっているらしい)。ゆえに、オンラインだけでなくオフラインをうまく活用することが必要だ。

上記のバレエの例でいえば、体験レッスンに興味はあるものの実際に受ける決断ができていない人に対して、Zoomでお試しレッスンを提供できる。オンラインでのお試し体験によって、「実際にレッスン場に足を運ぶ」というコンバージョンを上げることができるかもしれない。また、体験レッスンを受けた人にニュースレターなどを送ることで、まだ会員にはなっていない潜在顧客とオンラインで持続的に接点を持てるようになるだろう。

金融の文脈で言えば、先ほど例にも出したアドバイス業務がこれにあたる。口座開設をオンラインで済ませ、実際の購入もアプリやネットで完結できるが、ライフプランナーによるヒアリングを通したモデルポートフォリオの提案などは対面で行う。ユーザーは投資のパフォーマンスだけでなく、「実際に生身の人間が寄り添って考えてくれている、私のことをしっかり見てくれている」という部分に付加価値を求めるのだ。オンライン完結型のロボアドバイザーのみでは、フィーの水準だけで比べると同様のパフォーマンスのある投資信託と比べて高くなってしまうが、対面をうまく活用することでそれなりのフィーをチャージすることも可能かもしれない。

今のDXはまだまだ創成期で、多くの企業はフェーズ1の考え方をしている。しかし、時を経るにつれ、フェーズ2やフェーズ3に移行していくだろう。われわれFinatextグループは、ユーザーやその暮らしに寄り添った価値提供ができるフェーズ2以降の世界を一足先に実現するべく、引き続きフィンテックを軸にしたサービスを開発・提供していく。事業者が金融機能をサービスのラインアップに加えたい時に、APIをたたいてもらえれば重たいライセンスを必要とせず、最低限の人数で、1ヶ月以内に資産形成や保険をふくめた金融サービスをローンチできるような世界観を実現したい。

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