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Embedded Insuranceが可能にするもの ~保険サービスによる顧客体験の進化と保険ビジネスにおけるDX~

こんにちは、Finatextグループで保険事業を推進している河端です。

昨今の金融業界・保険業界では、「Embedded Finance(エンベデッド・ファイナンス)」「Embedded Insurance(エンベデッド・インシュランス)」が大きな次世代トレンドの一つになっています。

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そこでこのnoteでは、保険ビジネスのDXと切り離せない「Embedded Insurance」の意義や「Embedded Insurance」を保険DXに活かすためのアプローチについて、そもそも「Embedded Insurance」とは何か?というところから書いてみたいと思います。

このnoteは保険DXを例に書いていますが、他業界のDXにも適応できる内容が多くあると思いますので、保険・金融業界以外の方にも是非お読みいただきたいです。

*本記事の内容は、2020年10月15日にJAFCO様主催で開催されたオンラインセミナーでお話しした内容をベースにまとめたものです。

1. Embedded Insuranceを理解する

まずは、そもそも「Embedded Insurance」とはどんなものか?について、
その定義、事例、意義の順に整理してみます。

1-1. Embedded Insuranceの(Finatext的)定義

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Finatextでは、「Embedded Insurance」を保険をサービスに組み込んで(=embedded)、消費・行動文脈の中で提供していくことで、サービス自体の顧客体験を良くしたり、利用を促進したり、保険の契約促進を図ったりしていくもの、と定義しています。

例えば、映画チケット購入サイトにキャンセル保険を組み込むことで、顧客のキャンセル不安を払しょくして購入を後押しするようなイメージです。

日常生活やライフイベントをサポートするようなサービスと、相性がいいように思います。

1-2. Embedded Insuranceの事例

より具体的にイメージするために、メジャーな事例を3つほどご紹介したいと思います。

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1つ目は、非常に有名、衆安保険の事例です。

スライドの左の画像は、TaobaoというECサイトに組み込まれた返品保険です。
この商品はお茶で、価格は55元とあるので、1元=15円とすれば825円です。
それに対して、保険料は0.6元とあるので、9円です。
追加で9円払えば、購入者が返品した際に最大9元=135円の補償(返品費用の補填)を受けられる、というもののようです。

右の画像は、Ctripという航空機予約サービスに埋め込まれた旅行保険です。
1番上の1人40元(600円)のものでは、航空事故の場合は最大300万元(4500万円)、航空機遅延の場合は10分で20元(300円)、最大200元(3,000円)まで補償するようです。

このように、商品やサービスに保険を付けることによって、商品を買おうか迷っている人に「返品できるから大丈夫」という安心を与えて購買を後押ししたり、航空機を予約する人が抱えている不安や懸念を、保険で和らげたりしています。

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2つ目も、既に日本でも事業を展開しているのでご存知の方も多いと思いますが、simplesuranceの事例です。

スライドの左端の画像は、RealというECサイトに組み込まれたデバイス補償です。
デバイス購入の決済画面の手前のところで、追加で破損や損傷の保険を案内されて、ポップアップ画面で書類確認等をすると、そのまま保険に入れるようになっています。
元のECサイトとシームレスに連動しているので、契約に必要な情報や決済手続き等の手間をほとんど感じません。

真ん中の画像は日本での事例で、ANAのキャンセル・欠航補償にsimplesuranceの技術が活用されています。

右端も日本での事例です。通信端末の購入時に、データ補償と端末故障の保険をシームレスに販売しようとしています。

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最後は、プラットフォーマーを中心に作られたヤフーの事例です。

ヤフー自ら、ヤフオク!上で故障保険を提供したり、Yahoo!トラベル上でキャンセル保険を提供したりしています。

以上、3社のEmbedded Insurance の事例を見てきました。
生活者向けサービスの裏方に徹するか、自ら生活者と接するかという違いはありますが、いずれにしても、生活者の購買行動に近いところが、Embedded Insuranceの有望なねらい目と言えるかと思います。

1-3. Embedded Insuranceの意義

Embedded Insuranceが現在のトレンドであることはなんとなく感じていただけたかと思いますが、果たして、事業者が Embedded Insuranceに取り組む意義はどこにあるのでしょうか?

まずは、収益性の観点で見てみます。

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こちらは、収益ポテンシャルのざっくりとした比較です。

従来のメジャーな保険種別(左側)と、Embedded Insuranceと相性のいい=マイクロ型で提供しやすい保険種別(右側)について、その市場規模と顧客単価を並べてみました。

こうしてみると、左右で明らかに市場規模のケタ感が異なり、保険料単価にも大きな差があるので、正直、単体収益の観点では、マイクロ型保険(Embedded Insuranceの導入)はあまりおいしいものではないように見えます。

先ほどご紹介した衆安保険の事例でも、保険料は1契約数円~数百円と、ここで右側に挙げたものよりもさらに小粒になります。

また、周辺業界の方と話をしても、「Embedded Insurance自体は大きく儲けられるものではない」という見解の方が多い印象です。


では、なぜ、事業者はEmbedded Insuranceをやるのでしょうか?

理由の1つは、事業シナジーへの期待です。

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上記スライドの左側のグラフは衆安保険の売上構成の推移ですが、2016年の時点では、売上の大部分が先ほど事例でご紹介したようなEmbedded Insuranceを活用したマイクロ型保険が占めています。

しかし、直近になると、医療保険等の従来型の保険の売上が大きく伸長して、Embedded Insuranceを上回るようになっています。

このように、他の保険、もしくは他の商材へクロスセルをかける足掛かりとして、Embedded Insuranceが使えるのではないか?というのが一つの仮説です。

また、スライドの右側の図で示しているように、「Embedded Insurance」は保険ビジネスのDXの足掛かりとしても有効なのではないかと考えています。

Embedded Insuranceに取り組むことは、すなわち、
・これまで保険を扱ってこなかったデジタルサービスとのコラボレーション
・デジタル上での保険の顧客体験づくり
を行うことになります。

結果として、オープンイノベーションの促進や既存業務のアップデート、OMO(Online Merges with Offline)での保険体験づくり等、より抜本的・本質的なDXを進めるために必要なステップをEmbedded Insuranceが提供してくれます。

2. Embedded Insuranceを実現するには(≒保険DXの始め方)

ここからは、ビジネス成長に資する形でEmbedded Insuranceを実現していくために、どんなアプローチが必要なのかをお伝えしていきたいと思います。

2-1. 3つのステップで実現したい状態を目指す

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上記のスライドは、従来の顧客体験と実現したい顧客体験のイメージを対比させたものです。

上側の従来の顧客体験では、サービスにはサービスのウェブサイトが、保険には保険のウェブサイトが存在し、各々の世界は独立していて、完全に分断されている状態です。

片方からもう片方へ移動する際、ユーザーはまるで「違う世界に飛ばされた」ような感覚になっていたと思います。

これをなるべくシームレスにつないで、元のサービスと同じ世界観の中で保険の顧客体験も届けていくというのが、Embedded Insuranceが最終的にねらうべき状態です。

この状態を実現するために必要な対応を具体的に整理したのが次のスライドです。

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大きく3つのレイヤーに分けており、下に行くほど実現のハードルが高くなるので、上から順に取り組むべきステップとして見ていただくこともできます。

まず、もっとも着手しやすいのは、サービスの表面、“ガワ”の部分です。
統一された世界観でウェブページを作る、などの対応がそれにあたります。

しかし、サービスのウェブページがしっかり作り込まれていても、契約管理は従来の保険会社のページであったり、「保険金請求については従来の保険会社のコールセンターにお願いします」といった対応になると、その部分では断絶が残ってしまいます。

そこで、保険会社側のオペレーションも含めてシームレスな体験を届けようとするのが、次のステップ(図の段階2)です。

しかし、それにも限界があります。
例えば、保険商品の認可上、保険申込時や保険金請求時に特定の書類を確認する必要があることが多いのですが、その確認書類自体があまりに煩雑だったり、デジタル処理には馴染みにくいものだったりすると、オペレーション改善だけでは断絶を超えられないという状況が出てきます。

ここまでくると、保険商品の認可そのものがそもそも実現したい顧客体験に合わせて設計されている必要が出てきます。
そこまで対応するのが、最後のステップ(図の段階3)です。

1から3までのステップを顧客視点を軸にしてやりきってこそ、目指すべき顧客体験が実現できますし、その先のクロスセルや次のDXにもしっかりとつながる土台ができます。

2-2. ハードルと乗り越え方(よく言われる話)

とはいえ、「業務や商品等のコア部分の対応も考える必要がある」といっても、なかなかそれが一筋縄ではいかないからこそ、DXを推進する多くの人が頭を悩ませているのではないかと思います。

以下のスライドの左側に、DXの現場でよく聞かれる障壁(DX推進を難しくしている要因)を3つほど挙げてみました。

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これら3つの障壁の中でもっとも影響が大きいのは、「保険の既存の基幹システムが重たすぎる」ことです。

既存のシステムに少し手を入れるだけでも数年、数億円規模の投資が必要になるので、Embedded Insuranceのような、事業ポテンシャルが比較的小粒で、かつ、成功確度も見込みにくいものへの投資判断ができないといった話です。

残りの2つ、組織や人員の問題、仕事へのアプローチや文化・価値観の問題も大きなハードルですが、これらの問題は、保険に限らず様々なDX関連レポートで指摘されていて、対策の定石も既に出ています。

そこで共通して言われているのは、「小さなリスク・小さな影響範囲で始めて、失敗と成功を重ねながら改善を重ねていき、徐々に営みを大きくしていきましょう」といったもので、これは保険のケースにおいても適応すべき考え方です。

上記スライドの右側に、この考え方を整理した図をマッキンゼーのレポート(2020年9月)から引用して記載しました。
図でも指摘されていますが、「最初のひと回し」がうまくいかずに頓挫する企業が多い印象です。

この最初の小さな一歩をいかにうまく踏み出すかが、DXを指向する企業にとって今もっとも難しい課題だと捉えています。

では、初動をうまく踏み出すためには、どんなことに注意すべきなのでしょうか?

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上記のスライドは、Embedded Insurance の初動を成功させるためのアプローチを「避けたいアプローチ」(陥りがちな罠)と「必要なアプローチ」に分けて整理したものです。

避けたいアプローチの1つ目は、「単なる電子化」です。

よくあるのが、従来のアナログ処理をただデジタルに置き換えただけ、場合によってはベンダーから提供されたテンプレを入れただけ、というものです。
そうではなく、自社の顧客視点に立って、あるべき顧客体験を自分たちでデザインし、デジタルをうまく使うことでアナログではできなかったことを実現するといったアプローチが必要です。

避けたいアプローチの2つ目は「レガシー(=負の遺産)の再生産」です。

「とにかく目の前の案件を低コストで乗り越えよう」という発想で場当たり的にシステムやビジネスを作ってしまうと、将来それを拡張・発展させようとした時に膨大な工数がかかったり、ひどい場合には一から作り直しが必要になったりします。
これに対しては、将来を見通して準備しておけることには限界がありますし、準備し過ぎても初動としては過剰なコストがかかるので、将来的な拡張・発展の可能性を閉ざさない作りにしておくことがとても重要です。

最後は「PoCの悪用」です。

例えば、全社的に「とにかく何かやらねば」というムードのあるテーマにおいて、いざ取り組みを計画してみると、レガシーシステムや管理上のハードルがあって膨大な費用がかかることが判明する。一方で、その費用を回収できる見込みは説明しきれないため、「PoC」というラベルを貼り費用上は研究開発投資として処理して進める、といったことです。
PoCそのものを否定するつもりはありませんが、ともすれば収益化やビジネス発展に向けた緊張感や説明責任が薄れ、取り組みや上層部に報告すること自体が目的となってしまい、ビジネス的な成果や成果につながる本質的な学びは得にくくなります。
そうならないためには、最初から収支のバランスをとるものとして扱い、リスクとリターンにシビアに向き合いながら進めていくことが必要です。

2-3. 保険クラウドでDXを加速させる

上述した通り、Embedded Insurance実現のもっとも大きなボトルネックは「保険の既存の基幹システムが重たすぎる」という点です。これを解消するために一番手っ取り早いのは、外部にスモールなシステム基盤・ビジネス基盤を作ってしまうことです。

そこで我々Finatextでは、保険ビジネス基幹システム「Inspire(インスパイア)」というSaaS型のソリューションを開発しました。

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Inspireは、既存システムと併用することも念頭に設計されていて、Embedded Insuranceの初動に必要な3つのアプローチを実現するための特長を備えています。

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Inspireの一番の特長は、他のシステムに比べて圧倒的に低い時間的・金銭的コストと、将来に向けた高い拡張性の両方を備えている点です。これによって、「Inspire」はあるべき初動アプローチを実現するのに最適な手段であると自負しています。

また、Finatextが「Inspire」を通じて実現したい、あるいは実現をサポートしたい保険ビジネスの将来像として、以下のようなものを見据えています。

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現時点ですぐに実現可能な部分だけ少しハイライトしてご紹介させていただくと、外部サービスとシームレスにつないだEmbedded Insurance(①)はもちろんできますし、会社横断で様々な保険を組み合わせたり、保険と保険以外の商材を組み合わせて一緒に売っていく(②)といったことも可能です。

また、例えば、お客様が保険金請求をしてから最短10分で保険金を支払ったり、新しい商品プランを1日で作って販売したり、新しい特約・商品を1か月未満でシステム登録して販売開始したりする(③)こともできます。(③については、グループの少額短期保険会社の商品「母子保険はぐ」でも、既に実現できています。)

④⑤⑥についても、保険業界・InsurTech文脈で「次世代型の保険」として議論されている典型的なユースケースを挙げましたが、「Inspire」はこれらにも対応できるように設計されています。

このように「Inspire」を通じて保険の顧客体験を進化させ、保険ビジネスのDXを支援していくことで、保険をもっと人々の役に立つもの、必要とされるものにしていく一助になりたいと願っています。

3. まとめ

最後に、これまでの内容を簡単にまとめました。

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4. 宣伝

■Embedded Insuranceや保険DXをお考えの企業の方へ

このnoteに少しでもご関心をお持ちいただいた方、同じような課題意識をお持ちの方がいらっしゃいましたら、まずは軽い情報交換からお話しさせていただきたいと思いますので、お気軽に inspire@finatext.com までご連絡を頂戴できれば幸いです。

■Finatextグループで働くことにご関心をお持ちの方へ

Finatextグループでは、この記事でご紹介した「Inspire」をはじめとした様々な金融サービスの開発・提供を通じ、金融を“サービス”として再発明し、「金融がもっと暮らしに寄り添う世の中」を実現することを目指しています。

それにあたって、エンジニアなどの技術系職種から事業開発・推進系職種まで幅広く、志を一緒にしていただける方を積極募集しています。

まずはカジュアルにお話ししたり、会社の様子を知っていただくだけでも構いませんので、ご関心あれば是非お気軽にご連絡ください。

▼採用サイトはこちら
https://hd.finatext.com/recruit/

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