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物件の設備故障と賃料減額〜不動産管理会社、賃貸オーナーの悩み〜

民法改正により、「賃借物の一部滅失等による賃料の減額等」(民法161条)が規定され、賃貸物の一部が故障等した場合、その割合に応じて賃料が減額する旨が法に明記されました。

この影響から、賃貸物件の不備(雨漏り、漏水等)又はその設備(エアコン、水道、トイレ、換気扇等)が故障したケースにおいて、賃借人側から賃料の減額を主張されるケースが増えています

不動産管理業者としても、管理する物件等において、賃借人側から賃料減額の主張がされ、オーナーとの調整が必要となるケースが、これまで以上に多くなっているようです。

以前は、設備が故障しても、適切に修理対応すれば賃借人は納得する場合が多かったところ、民法改正を契機に、賃料減額の権利があることが知れ渡りましたので、修理までの期間の賃料は減額されないのか、と問合せや主張をするようになっています。

賃料減額は、正当な権利の主張ですので、仕方ないところもあります。

ただし不動産業者等にとって悩ましいのは、居住できないというほどの大きな物件の滅失、毀損ではなく、あくまでも「物件の一部毀損」「設備の故障」の場合において、賃料の何%程度が減額されるといえるのか、という金額感、相場感が明白ではない、という点です。

また、軽微な毀損、故障であり、修理完了までの日数も短い場合に、果たして賃料減額までする必要があるのか、という点も同様に悩ましいところです。

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物件の一部使用不能による賃料の減額等については、明確な基準や、判断にあたって参考となる事例の蓄積等が不足しており(重大ではない事例は裁判になりづらく、裁判例も少ないので……)、賃料減額を求める賃借人やオーナーとの交渉・調整にあたっては、その取っ掛かりとなるような基準に迷うことがあろうかと思います。

この点について参考になるのが、国交省が公表している「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」及び「改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集」です。
こちらにリンクがあります。)

これらの相談事例集は、裁判例の動向をまとめるとともに、参考になりうる日本賃貸住宅管理協会のガイドラインの紹介や、物件管理業者に対するアンケート調査結果も記載されています。

上記相談事例集で紹介されている裁判例は10以上ありますが、様々な設備故障、それも態様について個別の事情が多くある場合について、ぴったりと参考になる裁判例はない場合の方が多いです。

そのため、裁判例だけではなく、上記相談事例集で紹介されているアンケート調査結果(解決実例の回答結果)をも検討にし、「他社において、どの程度の賃料減額で解決した事例があるか。」をも参考にすることも必要になってくると思われます。

アンケート結果はあくまでもアンケート結果であり、そのような解決事例があるからといって、必ずしも法律上、そのように賃料減額をすべきであるとまではいえません。
ただし、「国交省の資料によれば、そのような解決事例がある。」という程度であっても、とにかく指針をもった上で賃借人やオーナーと協議したいところですので、アンケート調査結果だろうと、藁にもすがる思いで、参考にして良いと思われます。

例えば、上記アンケート結果における、"トイレが使えない"事例における解決事例の紹介としては、下記のようなものが紹介されています。

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解決事例においては、修繕完了までに1か月程度を要した場合、月額賃料の100%(つまり全額)を減額した事例も目立つようです。

トイレが使用できず生活に大きな支障をきたすとしても、他の部分は使える以上、賃料の100%減額は、裁判にまでなれば認められない可能性が高いと思われますが、解決事例ということで、穏便に対応した例が多いものと思われます。

なお日本賃貸住宅管理協会のガイドラインでは、トイレが使用できない場合に賃料の30%が減額される(さらに1日は免責日数と考えており、当日に修繕されるなら賃料減額の必要まではない、と読み取れる。)という基準が示されており、上記の解決事例からみる傾向よりも、減額割合は少額です。

そして、不動産管理業者が直面する実際の事例としては、「トイレが使えない」という単純なものだけではなく、トイレから異臭がする、逆流した、特定の使い方をすると不具合が起こる等、様々だと思われます。

上記アンケート結果やガイドラインは、いずれも1つの参考とし、では「トイレが使えない」ほどではないケースにおいて、さらにその何分の1を減額すべきか、または減額するほどではないのか、さらに検討が必要となります。

そのような検討を経た上で、賃借人やオーナーとの交渉・調整にあたることで、問題のない着地点を見つけることが可能です。

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