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びっくりのインド ● 31 ● あなたの神は何ですか - Part 1

人生で初めて訊かれた質問

What is your god?

誤解を避けるために直訳すると

あなたの神は何ですか?

日本でタブーとされている話題は
□ 政治・宗教・スポーツ

諸説あるがアメリカでは
□ 政治・宗教・人種

である。

そこはインド、まさかの職場で急に何かを思い出したかのように訊かれた  という言葉にどう答えればいいのか。

外務省の インド (Inida) 基礎データ (2011年国勢調査) をグラフにするとインドの宗教は以下のとおり。 

056 宗教分布
インドの宗教分布

ヒンドゥー教徒とイスラム教徒を合わせて 94% ということだ。
そういえば街で一番よく目にしたのはヒンドゥー教の寺院で、あとはイスラム教のモスクが幾つかあった。

そのインドで私へ投げられた ど直球 の

あなたの神は何ですか?

という質問に動揺してしまい、

特に何も...

と答えた。

そのとき、部屋にいた全員が一斉に私を見たときのことを、この先ずっと忘れることはない。
一人残らず

信じる神がいない!?

という物凄く驚いた顔をしたからだ。そのあとに彼らの顔が

なんと哀れな...

と言っているように見えた。

日本の宗教観を他の国の人たちに分かってもらうのは、本当に難しい。
それ以前に、日本人すら自分たちの宗教観をよく分かっていないように思う。

長い海外生活で友達以上の関係を築こうとすると、宗教の問題は避けられない。
その人の言動の基盤となるからだ。
アメリカに住んでいたとき、私はその大部分 (8 年間) をカリフォルニア州のロサンゼルスとサンフランシスコで過ごした。
彼らの多くがクリスチャンだと言っても、特に都会では、映画で見るような 『 多くの住人たちが日曜日に教会へ行く 』 光景は見られない。
更に、付き合いが長くなれば 「わたしは無宗教だ」 などの話題が出ることがある。

しかし私からすると、彼らはやはりキリスト教の影響を多大に受けている。
それは例えば、彼らのリゾートでの過ごし方に表れている。
ビーチやプールサイドでカクテルでも飲みつつ、本を読んだり寝てみたり、すべての物が与えられ何もしないこと を休暇と考える。
それが私にはまるで 天国を模擬しているよう に思える。

日本人はというと、ハワイなどのリゾートでもあれやこれや盛沢山やりすぎて、帰りの機内でグッタリしているのを見かけることがある。
『 日本人はリラックスするのが下手 』 という意見もあるが、下手 というよりも日本社会では他の人たちが働いているのに自分だけが何もしていない状態にちょっとした罪悪感があって、のんびりできないのではないか。

ここで誤解してはいけないのは

  • 特定の宗教を信仰していない

  • 宗教心がない

は異なるということだ。

日本は元来、自然を崇拝する国であり、仏教の影響も受けている。
自然からの恵みで生かされている私たちには、働くこと、つまり農作業は自然と共存することだった。
常に変化する自然に対して何もしないというのは 怠ること である。
さらに農耕民族にとって、何もしていない人は 当然のことながら 『 働かざる者 食うべからず 』だ。
そして仏教的な観点では日々の生活は修行である。
そんな日本人は、自分一人が何もしていない ことが、社会に属していない感覚、つまり或る種の恐怖感なのだと私は思う。

「日本人は宗教心がない」 という人も多い。
「キリスト教の信者でもないのにクリスマスを祝ったり、そのわりには家に仏壇があったり、神棚まであったり、正月は初詣に行って... 」 というのが彼らの主張だ。
一見、理屈が通っているように思えるが、これは洞察に欠ける。
少なくともクリスマスについては、ある時期に業界の販売戦略で広まったイベントにすぎず、宗教とは別に考えるべきことだ。

何年も海外で生活して、その国が持つ宗教観にさらされて帰国すると、日本人の言動は驚くほど宗教的である。

  • そんなことをしたら ばち が当たる

  • そんな不義理なことをすると必ず自分に返ってくる

など、いつも 何かが自分たちを見ている感覚 があって、しかし道徳心とは違う。
開祖した人がいなくても、聖書やコーランのような 教え がなくても、例えば神社でお参りしたあとに境内で唾を吐くなどはしないように、日本人の持つ宗教観は、歴史の中で少しずつ積み上げられてきたもので、日々の生活の中で浸透していくものだ。

1つ言えるのは、どの国にも、どの時代にも、その国が持つ 宗教観 というのは必ずあって、日本が持つ宗教観は、私が見る限り非常に色濃い。
ただ、それを他の国の人に一言で伝えるのは、特に一神教の国では、簡単ではない。

あなたの神は何ですか? という問いは、神がいる ことを前提としている。
答えに窮して私の口から正直に出た言葉が 「 特に何も... 」 だった。

それが部屋の空気を凍らせてしまったことにむしろ驚愕した。

答えようがなかった。

…。
……。
沈黙。

彼らは私が 「特に何も。 でも... 」 と続けるのを待っている様子だった。

「 どうしよう... 」

続きは びっくりのインド ● 32 ● あなたの神は何ですか - Part 2 で。


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